彼や彼女達と怪人少女

 赤い目をした怪人少女に着いていくことになった。


 どこに行くのかは不安でしょうがないというのが正直なところだ。


 聞いても不安は解消されない気もするが、先導している怪人少女があれ以降なにも言わないのがまた居心地が悪い。


 歩く速度も妙に速いのでこっちも足早になってしまうのも話しかけにくい理由のひとつなのかもしれない。



「なあ、どこに行くんだ?」



 透真も不安があるのか、それとも律と彩が小走りになっていることが気になったのか、怪人少女に声をかけてくれた。


 こういうときに行ってくれるダチがいてくれることに感謝だ。



「とりあえず駅に行って電車に乗る。ああ、電車賃はこちらで出すから安心してくれ」


「あ、ああ、わかった。あとなにか急いでるのか?」


「いや、特に急いでるわけじゃないが…ああ、そうか悪かったな。普通に歩いてるつもりだっだんだが、まだ自分でも感覚が掴みきれていないようだ」



 そう言って怪人少女は歩く速度を緩めて俺達に合わせてくれた。



「息が上がっているな、少し休んでいくか?」


「いえ、大丈夫、です」


「うん、ちょっとゆっくり行ってくれれば大丈夫…」


「そうか、わかった」



 それだけ言うと怪人少女はまた先導して歩き出した。


 さっきより歩き方が不自然なのが俺達に合わせようとしてくれているからだろうか。


 感覚が掴みきれていないとのことだが、どういうことなのだろうか。



「えっと、感覚が掴みきれていないってどういう?」


「ん、ああ、この間の彼から力を取り込んで喰らったのはいいんだが、まだ馴染んでいなくてな。自分で思っているより力が入りすぎるんだ。いつも通りにしているつもりなんだが、急に力が強くなった分のズレが出ている。慣れるまでまだ時間がかかりそうだ」


「そうなんですか…」


「ああ」



 聞いたことには答えてくれたが、それ以上会話を広げるつもりがないのか、会話はそこで途切れてしまった。


 駅につくまで怪人少女は無言で駅についてからも無言だった。


 あと言った通り電車賃は俺達4人分出してくれた。


 ホームで電車を待つことになったが、来るまで少し時間があり、そのときもなんとなく気まずかったが、怪人少女は全く気にしていないため、どうにもできない。


 ふと見るとスマホをいじっていたのを見てつい聞いてしまう。



「誰かに連絡ですか?」


「ああ、会社の方にな。君達4人全員連れて行くことを伝えておいた方が着いてすぐ取りかかれるだろう」


「あ、はい、そうですね…その会社でなにするんですか?」


「アフターケアだ。異常がないかの検査だな、どういう検査なのかは行ってみないとわからない。俺は実務担当でそっちの担当じゃないからな」



 スマホをいじりながら怪人少女が答えてくれる。


 ふと操作が止まり、俺達の方を見てくる。



「あの、なにか?」


「君達昼食はまだだな?和食か洋食か中華のどれがいい?」


「え」


「会社の担当が昼食はまだだろうし、準備するからなにが食べたいか聞いてくれとのことだ」


「いいんですか?」


「聞いてくれと言っている以上良いんだろう」


「なら私洋食がいいな」


「私も」


「俺もそれでいい」



 彩、律、透真の順にさくさく答えてくれた。



「あ、じゃあ、俺も洋食で大丈夫です」


「そうか、洋食だな」



 怪人少女はスマホで送ったようだ。



「二つ先の駅で降りるからそのつもりでいてくれ」


「わかった」


「はい」


「うん」


「あ、はい」



 二つ先…微妙な距離だ。


 それまでの間、無言の時間が続くのだろうか。


 なにか話しかけようにもなにを話しかければいいのか。


 周りに人もいる以上あんまりこの場で話せるようなことはないような気もするのがまた困るところだ。


 どうしていいかわからないので怪人少女のことを観察してみることにする。


 うん、やっぱり見た目は可愛い。


 赤い目に深い黒髪、顔の造形も美少女としか言いようがない。


 ガスマスク怪人のときは体型がわからないような服というかスーツと言うかそういう衣装だったが、こうしてみると出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいてスタイルもいい。


 口調があれだが、それもまたギャップがあっていい。



「なんなんだ、この属性盛りだくさんの怪人少女は」


「「「は?」」」


「え?」



 いきなりみんながハモって心の声に反応してきたから驚いた。


 え、みんな心を読めるの?



「海斗、いきなりなに言い出すの?」


「唐突すぎるわ」


「声に出てるよ」



 え、声に出てた?


 嘘だろ?


 怪人少女の方を見るとキョトンとした顔をしていた。


 こういう表情も出来るんだ、可愛いな。



「なるほど、



 怪人少女は微笑みを浮かべてそんなことを言ってきたが、内容は頭に入ってこなかった。


 クール美少女の突然の魅惑の微笑みなんて反則だろ、最高だわ。


 惚れるわ、いやこれまでの事情と流れから惹かれはするけど、惚れるまではまだいかないか。



「あ、これは、うん…」


「ギャップが…」


「惹かれるよな…」


「「うん」」


「なんだよそれ…」



 彩と律は賛成しているが透真はわからないようだ。


 仕方ない。



「いや、可愛いだろ?」


「あ?」


「いやだから可愛いだろ?」


「は?」


「見た目、口調、ギャップ、クールからの魅惑の微笑み、最高だろ?」


「なんて?」


「はー、人生損してるわ、お前」


「は?なんで俺ディスられてんの?」


「もう知らん、勝手にしろ」


「いや、なんで俺がそんなこと言われてるんだ」


「そろそろ着くな、次で降りるぞ」



 話の流れもなんのそのと怪人少女がそう言って立ち上がってドアへと歩いていく。


 そういうところもいいな。



「あ、うん、わかりました」


「ああ、海斗変なこと言ってないで行くぞ」


「変なのはお前だ」


「いや、だからなんで…」


「うん、透真が変だよ」


「嘘だろ、律まで…」


「好みとかこれまでのこととか色々あるんだろうけど、可愛いっていうのはわかるでしょ?」


「いや、ああ、まあ見た目は、な」


「そういうことだよ」



 笑いながら言う彩の言葉に透真はようやく納得したのか話はそこで切り上げることになった。


 目的の駅に着いて、先に電車から降りた怪人少女の後に続いて俺達も降りていく。


 そのまま駅から出ると怪人少女は駐車場に向かい、そこに止めてあった車に近づいていく。



「ここからは車だ、4人共乗ってくれ」


「え、運転できるの?」


「ああ免許は持っている」


「うそ、歳上なの!?」


「魅惑の美少女お姉さん、か…また属性が増えていくな」


「だから海斗、声に出てるよ」


「出ても仕方ねえよ、止まらねえんだ」


「そっか、なら仕方ないね」


「それでいいのかよ…」



 彩も納得したようだ。



「そろそろいいか?乗ってくれ」


「あ、はい、すいません」



 怪人少女が運転席で助手席に俺、律と彩と透真はそれぞれ後部座席に座った。


 ミニバンというのだろうか、車の種類には詳しくはないからよくわからないが、結構大きい車だ。


 そんな車を運転する美少女…いいな。



「シートベルトはしたか?」


「あ、しました」


「大丈夫だ」


「こっちも」


「してます」


「わかった」



 そう言って怪人少女は車を出した。


 スムーズな運転を見ると慣れているのがわかってしまう。


 揺れが少ないのがわかる丁寧な運転だ。


 数日前の怪人の中身がこれだなんて誰が想像できるんだろうか。



「大きい車持ってるんですね」


「いや、これは会社のだ。仕事のときに使うやつだな」


「そうなんですか?」


「ああ、色々と便利で良い車だよ」


「なるほど?」



 そんな他愛もないことを話しながら怪人少女の運転する車の中での時間が過ぎていった。


 目的地に近くなった頃にはちょうどお昼と言っていい時間になっていたので、さっき言っていた洋食というのが待ち遠しくなってしまった。



「洋食ってどんなのなんですかね」


「さあな、冷蔵庫の中身と気分で作るんだろうから、行ってみないとわからん」


「そうなんですか、楽しみですね」


「ああ、たいていなにを作っても美味いからな。楽しみにしていても良いと思う」


「…海斗、お前なんでそんなに馴染んでんだよ」



 透真がそんなことを言っているが、なぜか心地いいのだから仕方がない。


 自分でもわからない以上答えようがないが、今はこの気持ちに浸りたいと思う。



「あそこだ」



 そういってオフィスビルの駐車場に入っていった。


 心地いい時間が終わるのは少し思うところが出てしまう。



「それじゃ行こうか。着いてきてくれ」



 そんな怪人少女の言葉に頷いて俺達はオフィスビルの中に入っていく。


 これからこんな心地良い時間を過ごせる機会が増えるのをこのときの俺はまだ知らなかった。

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