第4話 盾スキル・【魔神剣】

 なんだか、身体がムズがゆい。なにか、新しい力が備わったっぽいけど。


「ダテさま!?」


『わわわ、なにこれなにこれ!?』


 シールドに、光の筋が入る。Zの字に曲がりくねった、大きな剣へと変形した。刃はなく、青く光る魔力の刃が剣の周囲を覆っている。


「なんですの、これは!?」


『自分でもビックリだよ!』


 私、盾じゃないの!?

 しかもマージョリーたん、アニメ立ちの構えをしているし! 教えてないよね!?


「ダテさま、どういう原理ですの? 盾が、剣に変わるなんて」


『私も、レベルアップしたんだよ。おかげで、力が一つ、開放されたんだ』


 しかしこれで、攻撃手段が増えた。


「とはいえ、相手は逃げられてしまいました。どういたしますか?」


『決まってんじゃん。攻撃だああああ!』


 背中を向けているワイバーンに、私は剣を振る。マージョリーたんの身体を拝借して。


「えええええ?」


『投げてください。合図をお願います』


「では、参りますわよダテさま」


『もっとできるでしょ!?』


 そんなしなびた合図では、ブッ飛べない!


「……飛んでいきなさい、この豚あ!」


 ああ、いいですねえ!


『よっしゃあああああああ!』


 私は、勢いよく飛んでいく。


『くぅたぁばぁれえええええ!』


 光の刃が、飛んでいるワイバーンの翼を切断する。


『からのおおおおお!』


 私はブーメランのように、軌道を修正した。


 マージョリーたんは私の意図に気づいていたのか、ワイバーンの元へと跳躍している。盾を蹴り上げ、軌道を変えた。


 私は、ガーターベルトを穿いたお御足とドッキングする。


「お逝きなさい!」


 カカト落としの要領で、マージョリーたんがワイバーンの脳天へと盾付きの足を振り下ろす。


 盾から飛び出ている光の刃が、翼竜の身体を両断した。巨体が落下するより早く。


 マージョリーたんの足元に、ドロップアイテムが。


「ドロップアイテムですわ。【回復の杖:小】ですわね」


 所持しているだけで、ヒーラーでなくても対象の体力・魔力を回復できるアイテムだ。【治療の杖】なら体力を、【瞑想の杖】なら魔力のみを回復する。こちらは、両方を回復できるほぼチート的な道具だ。


 初期ではまず、手に入らない。私だって、ドロップしたことはなかった。


 これが、勝利の鍵だ。


「……っ!」


 強敵の気配を、ビリビリと感じた。


 マージョリーたんも、気づいたみたい。


『あれは!』


 真っ黒い風船のような球体が、空に浮かんでいた。


 風船が割れて、髪の長い男性が浮かぶ。術師とも、魔法剣士とも取れる出で立ちだ。髪も服も、マントも黒い。中二病全開の男だった。


「なんと。ツイン・ワイバーンを倒すとは」


 こんな序盤から、コイツが?

 いきなり、黒幕参上とか。シナリオライターめ、いよいよマージョリーたんを殺しに来たか?


「まあよい。あの少女は必ず手に入れる。貴様らは負けるのだ」


 魔法剣士風の男性は、姿を消す。


「ダテさま、今の男性は?」


『この世界の黒幕。でも今は倒せないみたい』


 アレは、魔法で作った立体映像だった。本体は別の場所にいるのだ。

 まあ、黒幕だもん。そう簡単に、姿を見せないよね。


「おケガはありませんか? わたくしはマージョリーと申します。マージョリー・ジンデル」


 マージョリーたんの名乗りを受けて、イーデンちゃんはボソッと「ジンデル……あの、壁役令嬢」とつぶやく。小さな孤児院にまで、伝説は語り継がれているとは。


「はい。わたしはイーデンです。この孤児院で働いています」


 壊れた孤児院を見て、マージョリーたんは手を差し伸べる。


 ようやく、パーティと合流した。


「マージョリー、無事だったか! その子は? 孤児じゃないのか?」


 リーダーの剣士が、マージョリーたんに声をかける。彼らも無事だったようだ。


「詳しいお話は後です、ゴドウィン! 急用ができました。戦果報告は後日になさって!」


 有無を言わさず、マージョリーたんはリーダーであるゴドウィンを追い払う。


「待てよ、戦局を見極めねえと」


「敵影はないみたいだけど」


 荒っぽい格好のドワーフと、メカクレ魔術師が、マージョリーたんに反論した。 


「見てくれば、わかりますでしょ!」


 戦場だった街を指差し、マージョリーたんは馬車に乗り込む。


「事後処理は、大事な用事です。おイヤなら、他の方に任せればいいでしょうに」


「わかったよ。悪かったな」


 ドワーフたちも、マージョリーたんの圧には黙るしかない。


「責めているわけではございません。あなたのところも、戦闘は苛烈でしたでしょう。お疲れ様でした」


「お、おう」


 リーダー剣士ゴドウィンも、引き下がった。


 マージョリーたんを迎えに、馬車が来る。護衛に騎士が一人、ついてきていた。


 孤児院から脱出した子どもたちとも、合流する。すごい数だ。この馬車には、乗り切らない。


「我々は専用の馬車で帰るとしても、子どもたちを歩かせるわけにも……あら」


 マージョリーたんの側に、転倒した荷馬車が。積荷はリンゴのようだ。

 初めて見るかのように、子どもたちはリンゴをまじまじと見つめている。

 はあ、と、マージョリーたんはため息をつく。


「店主、このリンゴはどちらまで?」


「王都です」


「ではすべていただきます。我々が運びますわ。ギャレン」


 召使いに頼んで、青果店の店主に銀貨を渡した。


「積み荷のリンゴはすべて買い取ったので、好きに召し上がりなさい」


 子どもたちに指示を出して、マージョリーたんは召使いに荷馬車を任せる。

 騎士の運転する馬車に、マージョリーたんが乗り込んだ。


「では、わたしは孤児院に戻ります。お気をつけて」


「何を言っているのです? あなたもうちにいらっしゃい。面倒を見ましょう」


 マージョリーたんが、イーデンちゃんに手を差し伸べる。さも、当然のように。

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