第5話 孤児の少女を迎え入れる

「え?」


 何を言われたかわからない様子で、イーデンちゃんが聞き返す。


「おうちが焼けたのでしょう。ウチに住みなさい」


「でも、子どもたちが」


「わたくしが、児童のお世話をできないと思いまして? まとめて育てて差し上げます!」


 出た。ツンデレ悪役令嬢!


「参りますわよ! 敵が来ないうちに」


「はい!」


 マージョリーたんは、イーデンちゃんの手を引っ張って、隣に座らせる。子どもたちは、荷馬車に乗せた。


 こういうところだ。天然人たらしなマージョリーたん、最っ高。


 馬車の中は空気が重い。


 イーデンちゃんは、ずっと黙り込んだままだ。マージョリーたんはというと、周囲への警戒を怠らない。


『えっと、こんにちは……』


「はい。こんにちは。ダテさんでしたよね?」


 私が声をかけると、イーデンちゃんはペコリを頭を下げた。


 ちなみにインテリジェンスアイテムは、非戦闘時は指輪に変形する。ムダな魔力の消費を抑えるためだ。とはいえ、視界は装着者のものを借りている。マージョリーたんが見えているものは、私にも見えるのだ。


『イーデンちゃん、あなたも、わたしの声がわかるんだよね?』


「ええ、まあ。どういう原理なのか、わかりませんが」


『だよねえ』


 本来インテリジェンス・ウェボンと会話できるのは、イーデンちゃんだけ。

 ネタバレは避けるが、彼女はかなり特殊な生まれなのである。

 今話せば、マージョリーたんは絶対に気にしてしまう。


「ダテさま。彼女とわたくしにだけ、あなた方の声が聞こえるというのは、どういったことなのでしょう?」


『ええっとお……補正、ってことにしておいて』


「補正、とは?」


『主人公・ヒロイン補正ってやつ』


 とにかく、イーデンちゃんはこの世界を救う聖女であり、マージョリーたんはその子をかばって死ぬ運命を回避した。


 それだけを、伝える。


『つまるところ、お二人が協力しなければ世界が滅ぶ、とだけお伝えします』


 本家『魔神の盾』さんが、フォローしてくれた。


「なるほど。わかりました。まあ、事情がなくても、あなたは保護するつもりでしたが」


 荷馬車では、子どもたちがワイワイとリンゴをかじっていた。あっちは楽しそう。


『あのさあ、マージョリーたん、提案なんだけど?』


「なんでございましょう。ダテさま」


『荷馬車に移動しない?』


 さすがに武装した二人がこんな狭いところにいては、窮屈だ。


『ワタシも同意見です。荷馬車で子どもたちとたわむれている方が、イーデンさまに適しているかと』


 本家魔神さんも、同じ意見を言う。


「そうですわね。この子も心を開いてくれませんし。ギャレン、降ろしてください」


 マージョリーたんは、豪華な馬車を降りた。


「あなたは先に帰って、お湯を沸かしておいてください。使用人用の浴室もすべて。わたくしたちは、あちらの荷馬車へ移動します」


「お嬢様、お召し物が汚れまして」


「お風呂に入りますから、構いません」


 もっと厳格な人かと思ったが、ギャレン氏はすぐにマージョリーたんの思惑に気づいたらしい。


「かしこまりました。では。お気をつけて」


 老紳士ギャレン氏に指示を送って、マージョリーたんはイーデンちゃんと荷馬車へ移動する。


 重いヨロイを着ているのに、軽快なジャンプで馬車に乗り込む。


 荷台に乗り込んで、マージョリーたんはイーデンちゃんと二人でリンゴをかじる。本当は二人きりがよかったの、わかるよ。でも焦ってはいけない。コミュニケーションを円滑にしないとね。



「今日からここが、あなたたちのおうちですわ」


 マージョリーたんのお屋敷に到着した。

 バラに囲まれた大豪邸を前に、イーデンちゃんが唖然としている。

 続いてマージョリーたんは、メイド長に指示を出す。


「メイド長、あなたは子どもたちを使用人用の大浴場へ。わたくしたちのお洋服も用意して」


「かしこまりました」


 子どもたちはメイド長のおばさんに連れられ、使用人用の大浴場へ通された。 


「まずはそのきったないお召し物をお脱ぎなさい! 後生大事にしているようですが、別に親の形見とかではないのでしょう?」


「ははい。うわ!?」


 イーデンちゃんが、一気に服を脱がされる。


 マージョリーたんも、一糸まとわぬ姿に。


 いいな。これは。眼福眼福。


 それにしても、二人ともスタイルがいい。


 マージョリーたんは、巨乳のモデル体型である。いわゆる凌辱される姫騎士系といえばいいか。

 イーデンちゃんはムチムチ健康体で、明るいエロスをお持ちだ。いかにも悪堕ちヒロインというべきな。


『ところで、ダテさま。ワタシには少々気になることが』


 湯に浸かりながら、本家さんが私に声をかけてきた。


『なんでしょう、本家さま』


『ダテさま、その「本家」という呼び名、なんとかなりませんでしょうか?』


『でも、本家だよね?』


『そうなのですが、お互い魔神の盾ですし。あなたはダテというお名前がございます』


 自分にも、呼び名がほしいと。


『ああ、スペルZindellジンデルの頭文字をとって、「ゼットさん」でどうかな?』


『伯爵家に仕えているのだと実感できて、素敵ですね。マージョリー様との愛を感じます』


 ゼットさんは気に入ってくれたようだ。

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