第3話 盾のレベルアップ

 少女イーデンちゃんに、ゴブリンが迫った。火事場泥棒みたいな感じかな?

 イーデンちゃんは、足元にあった木の棒を掴む。


「この! あっちへ行きなさい!」


 子どもたちをかばい、イーデンちゃんが木の棒を振り回す。

 棒の先が、ゴブリンのこめかみに命中した。

 殺すまでには至らないが、ゴブリンが目を回して気絶する。


「まだ殴られ足りないの?」


 クワッと、イーデンちゃんがゴブリンたちを睨んだ。

 イーデンちゃんの気迫に圧倒されて、ゴブリンたちが、退散していった。

 お見事。戦闘未経験ながら、よくやるよね。 

 事情を説明しても、マージョリーたんはやる気だ。


「ダテさま。わたくしは、誰かを守るために死ねたら本望ですわ! それでこそ、壁役令嬢と呼ばれる誉れ!」


『それは、作家のエゴの犠牲というのです!』


 脚本家は、イーデンちゃんをイジメたかっただけだもんね。元カノがモデルだとかで、どうにかして死ぬよりもひどい目に合わせたかったらしい。大層な理由をつけて鬱シナリオを肯定していたが、フタを開けてみれば私生活がうまくいかなかった腹いせだった。


 そんな事実がネットで拡散されて、このゲームは低評価を繰り返したのである。


 狂った神である脚本家が、この世界をひどい目に合わせていた。


 本物の神はそれを憂い、私をこっちにつかわせたのだろう。

 イーデンちゃんが連れている子どもの一人が、ガレキに足を取られた。よりによって、ワイバーンの側に。


「大丈夫!?」


 子どもの元へ、イーデンちゃんが駆けつける。

 しかし、ワイバーンが気づいてしまった。口を開き、ブレスを吐こうとする。

 この後は、マージョリーたんがイーデンちゃんをかばって、火に焼かれる展開が待っている。これが、三ターン目の出来事だ。


『ぶっ飛ばしてやろうじゃん!』


 私は、マージョリーたんを全力で守る!

 ワイバーンの口が大きく開いた。

 当然のように、マージョリーたんが盾になる。


「だらっ……しゃあ!」


 マージョリーたんを動かし、盾でワイバーンをぶん殴った。

 アゴを砕かれ、ワイバーンが転ぶ。ブレスがあらぬ方角へ流れて、周辺のモンスターを壊滅させる。

 ワイバーンは、なにが起きたかわかっていない様子だ。

 つがいのワイバーンが、現れた。そう。二匹からブレス攻撃を受けて、マージョリーたんは死んでしまう。盾だけではかばいきれないと、自分の身を呈して。


『でも盾が二つあったら、どうかな?』


 私は、もう一つ盾を召喚した。これが、本来の『魔神の盾』である。


「なんですの!? ダテさまが、【魔神の盾】が二つに分裂いたしましたわ!?」


『マージョリーたん。これが、あなたの本当の武器。本物の【魔神の盾】です。実際はあなたが死んで、この少女の武器になるけど』


「そうですのね。魔神の盾よ、どうかこの子を守って差し上げて!」


 マージョリーたんは、愛用の装備にイーデンちゃんを守らせた。

 避難訓練のように、イーデンちゃんは子どもだけを盾の中に。


「二人くらいなら守れます!」


「は、はい!」


 イーデンちゃんも、盾で身体を防いだ。マージョリーたんの気迫に押されて。

 豪快な、ワイバーンのブレスが迫る。

 だが、盾はワイバーンのブレスも余裕で受け止めた。いい気味だ。ワイバーンのやつ、「台本と違う!」って顔しているぞ。


『ごめんね、本物の魔神ちゃん。あなたに損な役回りを押し付けてしまって』


『シナリオ上、致し方ありません。ワタシも、このシナリオには思うところがありまして』


 聞き分けのいい装備品で安心したよ!

 このシナリオには、彼女も思うところがあるみたい。


「ワタシがこの少女を認めて、装備を差し上げますのね?」


『そのとおり』


 正確には、「虫の息となったマージョリーたんを守れ」と、魔神の盾が命じるのだ。それで、イーデンちゃんは大覚醒する。


 そんな展開にはさせるか。


『私が、マージョリーたんを守る!』


 公私混同もいとわない厄介なシナリオライターほど、めんどくさいものはない!


「しゃああああ! シールドバッシュもう一発!」


 ワイバーンの首に、渾身の盾攻撃がヒットした。

 下アゴに続いて上アゴだ。さぞ、効くだろう。


『マージョリーたん、とどめ! 【ワールウインド】!』


「承知しました!」


 私の合図を受けて、マージョリーたんが盾をハルバートと融合させた。ハルバートを地面に突き刺し、棒高跳びの要領で跳躍する。


「覚悟なさって! 【ワールウインド】!」


 ハルバートを回転させて、ワイバーンの首をはねた。


 ドウン! と爆発音を響かせて、ワイバーンの一体が消滅する。


 倒したワイバーンの魔力が、マージョリーたんの中に注ぎ込まれる。大幅レベルアップである。本来死ぬキャラが、生き残ったせいだろう。


 イーデンちゃんの体内にも、ワイバーンの魔力が吸収されていった。低レベルのキャラに経験値を分け合う「パワーレベリング」って、本来はハイエナ行為として嫌われる。しかし、このゲームはむしろ仕様である。その点はナイスだ。


 まあ本来ならば、イーデンちゃんがワイバーンを倒す役割だっただけにね。


「一体、逃しましたわ!」


 残ったワイバーンが、飛んで逃げようとしている。避けられたか!


『逃がすか……ん?』


 

――トミコ・ダテが、レベルアップしました。攻撃用スキル、【魔神剣】が開放されます。

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