第49話 本当にサリバン軍を倒せると思っているんですか?
サリバン軍の進行を遅らせるために道中に植物を召喚したり、道を壊したり、様々な事をして進行を妨害したけど、サリバン軍が俺達の国の近辺まで来たのは、ちょうど1カ月後だった。
まだユキリンのスキルは回復していない。スキル回復まで数時間足りないけど、俺達はサリバン軍の対決へ向かわなければいけなかった。
ネネちゃんと美子さんは、オークキング戦の時にもお世話になった老夫婦の地下に隠れさせてもらった。
国民のほとんどの人間はサリバン軍のことを知らない。近くに逃げる国がないこと、遠くまで逃げるにしても魔物と戦い、魔王軍を警戒しながら一般の人間が逃げきれる可能性が低いことから、あえてサリバン軍のことは国民に知らせることはなかった。
門を守るのは冒険者達と騎士団だった。
これは王様命令である。
弱い奴がいると戦いの邪魔になるから、俺が直談判して騎士団と冒険者をサリバン軍に近づけないようにしてもらった。
俺は門を守る彼等に【愛情】のスキルでステータスアップした。
サリバン軍との戦いに志願した冒険者は30人ほど。
そして騎士団は40人ほど。
その中にクロスがいた。
彼の頭を撫でるのは久しぶりのことだった。
青年になった彼は俺を睨んでいた。
彼の茶色い髪はパサパサだった。
昔のことを思い出す。
オークキング戦では彼が無鉄砲に飛び出して、クロスが騎士団を追いかけて行った。
クロスと2人でオークキングと対峙したのである。
その時、アイリとマミは門を守っていた。
それから5年後、クロスは騎士団として門を守り、強くなったマミとアイリと一緒にサリバン軍と戦いに行く。
あの日が全ての暗喩のように思えた。
もしかすると、その暗喩を俺は読み取ることができればクロスと共に戦う未来があったのかもしれない。
だけで、その未来はやってこなかった。
これから先も仲間としてクロスと共に戦う未来は来ないのだろう。
クロスは頭を撫でている俺のことを睨んでいた。
「中本さん、本当にサリバン軍を倒せると思っているんですか?」
クロスは冷めた声で俺に尋ねた。
「……」
俺は何も答えなかった。
「クロス!!」
近くにいたマミが怒鳴り声を上げた。
俺はマミを手で制した。
「先生?」
「もうコイツと関わるな」
先生、と呟いたマミは少し悲しそうだった。
そばにいたアイリも悲しそうだった。
俺とクロスの縁が切れた事が、なんとなく彼女達はわかったんだろう。
「中本さんは俺の事を理解してくれなかったし、認めてもくれなかったけど、この戦いで俺に感謝しますよ」
感謝?
もしクロスが戦いに参戦したら、すぐに殺されるだろう。
無駄死にする必要はないのだ。
「お前は弱い。邪魔になる。門を守れ」
と俺が言う。
自分の言葉に棘がある事には気づいた。
「わかってますよ」と彼は言う。
何が面白いのか、クロスは笑っていた。
「そういえばマミは結婚するんだっけ? おめでとう」
クロスが言えば皮肉のようにきこえた。
アンタにはどうでもいいでしょう、とマミが呟いた。
それ以上、クロスと会話したくなくて、俺は彼から離れて別の人間の頭を撫でた。
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