第50話 戦いの前

 鳥が逃げるように飛んでいる。

 獣達が慌てながら逃げている。

 弱い魔物達も怯えながら逃げている。

 ナニカが来ている事に森の生き物達はわかっているらしい。

 俺達は、そのナニカに向かっていた。


 植物召喚で出されたモルボルにアイリとマミの2人が乗っていた。

 モルボルというのは足が12本ある植物である。魔物だと思っていたけど、植物召喚で召喚されるということは植物なんだろう。

 モルボルを使っているのは体力の温存のためだった。それにモルボルは早いし強い。


 俺もモルボルを召喚していた。

 俺の方にはユキリンが一緒に乗っていた。

 モルボルの頭に胡座をかくようにして俺達は乗っている。

 モルボルは器用に木々を避けて進んでいく。


「誰かと共闘するのは初めて」とユキリンが呟いた。

「そうなんだ」と俺が言う。

「もしかしたら勇者達が共闘できたら魔王はすでに倒せていたのかも」

「なぜ共闘しないんだ?」

「日本に帰れるのは1人らしい」とユキリンが言う。

 魔王を倒したら日本に帰れるんだろうか? その話が俺には信じられない。


 植物召喚しているから召喚のことは人よりも詳しい。

 実は召喚には2種類存在する。

 アイリの植物召喚は時間制限がある。

 その時間制限というのは魔力量だったり、なつき度だったりが関係する。レベルアップして魔力量が増えたり、何度も召喚することで植物が一緒に戦ってくれる時間が増えたり、召喚できる数が増えたりするのだ。


 俺達は異世界に召喚された。だけど時間が経っても日本に帰る事はできない。

 コチラの世界に日本人を完全に連れて来る召喚なんだろう。

 もし日本に帰りたかったら、日本で同じ召喚をしてもらわなくてちゃいけないんじゃないか?

 俺達が知らない日本に帰すための逆召喚みたいなモノがあるんだろうか?

 それがあるんだったら勇者になれなかった俺達は帰されているはず。

 日本に帰すアイテムみたいなモノがあるんだろうか?

 それを魔王が持っているのか?

 なんで魔王が日本に帰すアイテムを持っている事を知っているんだよ?

 色んな疑問が浮かぶ。

 どれも確証が無いのでユキリンには言わない。


「でも日本に帰りたくない奴もいるんじゃ?」

「知らないけど財産とか地位とか名誉とか貰うんじない?」とユキリンが言った。

 勇者達は目的のために共闘を拒んでいるみたいだった。

「それに所属している国からも共闘は禁止されてるだよ。よくわかんないけど。だから私達はぼっちモンハンやっているんよ」


 国は勇者同士の共闘を禁止しているのは聞いた事がある。詳しくは知らないけど、政治的なことがあるらしい。

 政治的なモノがあったとしても、国民が死ねば意味がないように思えるけど。


「人間がバカだから魔族に攻められるのよ」

 とユキリンが言った。

 

 これは魔族と人間の戦争である。

 負ければ領地を取られて、魔族が活気づく。

 だけど人間は一枚岩ではない。


「もしかすると……」とユキリンが何かを言いかけた。

 その時、サリバン軍が見えて来た。

 

 サリバン軍を見るのは初めてである。

 進行の邪魔をするために、道を塞いだり、山を崩したり、植物召喚したりしていたけど、サリバン軍には近づかなかった。


 百鬼夜行。

 初めて見たサリバン軍の印象は、恐怖を覚えるモノだった。

 人型の魔族が多い。

 だけど怪物も混じっている。

 空を飛んでいる奴もいる。


「マジか」と俺は呟いた。

 マミとアイリを見る。

「後どれぐらいでスキルは使用できるんだ?」

「2時間ちょい」とユキリンが言った。

 

 ユキリンのスキルが使えない状態で2時間も持つか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る