第39話 あの夜に跳ぶ

 隊員の戦闘能力もその強さによって担う役割も異なる。大神、神谷そして小林は、過去の戦いの中で、妖魔と同等の力を有すると認められる。


 各隊長は、獣魔と互角以上の戦いができる力を有しているが、妖魔が相手では、隊長5人でかかっても勝つことは難しいと思われる。


 神介は古き神々の末裔ではなく、異端の存在ではあるが、教団のいや人類を救う者として強い異能力を有している。しかしその力は教団員の全てが有する神御力とは異なるものであり、また妖魔たちの有する魔能力とも異なる能力である。


 神介の戦闘能力は、各隊長クラスの能力を遥かに凌ぎ、神谷、小林に次ぐレベルであるが、これも未だ未確定の状態である。


 今回の八王子事件への対応は、神谷がリーダーとなり、2番隊隊長と3番隊隊長を従え、さらに神介も同行することとなった。


 「よしそれでは出かけるが、みんなタイムレーダーを設定してくれ」


 腕時計型の小型タイムレーダーは、レーダーが存在する時空間を確定し、その後に出現すべき時空間を、無限数ある時流と年日時と地球上の座標を組み合わせ指定する。


 年日時と座標はほぼ確定的なものではあるが、無限数ある時流の指定は極めて困難である。


 同じ時空間であっても単一の時流のみが満たしているわけではない。常に一瞬一瞬毎にパラレルに時流が流れている。つまり1つの時空間は無数の時流により形成されており、僅かな異なりであっても、同じ時空間に出現できる場合もあれば、まるで別世界に出現してしまうリスクはある。


 レーダーはあくまでも指針であり、時空間の移動は隊員の能力による。指定した時空間に辿り着く微妙な舵取りは時空間移動者の能力による。


 舵取りを誤れば事件が起きた八王子の事務所に出現しても、ヤツらの出現さえ存在しないが時空間に漂着することもあり、予定した時環境に完全合致した時空間に出現できる可能性はほとんど皆無といえる。


 予想した時環境に限りなく近い時空間を目指して移動するのが、時空間移動である。


 「神谷くん、神介。伊勢、勇波、頼むぞ」


 代表大神の決意に満ちた声が響く。


 「神谷さん、全員設定完了です」


 「よし今から跳ぶぞ、みんな前の奴の腰ベルトを掴め。良いか、跳ぶぞ。3、2、1」


 会議室に、ブーンと虫の羽音の様な振動音が響き、4人の人影の輪郭が揺れる、揺れて滲む、滲んで薄らぎ空間に溶けて消えた。

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