第24話 闇への恐怖
「それじゃあ、お先に!」
「お疲れさまです。失礼します!」
退社時間の17時45分からまだ3分ほどしか過ぎていないのに、職員は次から次へと闇の中に消えて行く。
いつものことではあるが、退社時間を過ぎると帰宅する職員が一斉に動き始める。10分もすると残業をする者以外は、事務室は空っぽになるのが常である。
4階建てのかなり年期が入った古い建物の1階と2階がうちの事務所スペースであり、3階4階は同系列会社の別事務所が同居している合同建物である。
「ふぅーしょうがねぇな、今日は残業するしかないか」
2階の庶務課は、既にがらんとして残っているのは榊原ひとりである。人事担当の榊原は人事管理事務の忙しい時期には、やむを得ず残業を行うことが多い。
職員の勤務評定などの人事評価は庶務課長の職能であるが、単純集計や所定シートへの打ち込み、順位別整理等の事務作業は担当者が行っている。
壁の時計は既に22時5分を指している。『23時にはなんとか帰りたいな』愚痴っぽく独り言を言いながら、1階への下りる階段へ向かった。
事務所は4課構成であり、2階には庶務課とシステム管理課、1階には直接窓口を行う営業課と業者対応の開発調査課の2課が配置されている。
榊原は、残業時には1階にある自販機に飲み物を買いにいくのが常であった。もう既に22時を過ぎている。日中は職員の行き来や電話のやり取り、来客など賑やかだった建物の中も、今はひっそりと静まりかえっている。
省エネの徹底のため、各課の照明は既に消され、階段の照明さえ落としているフロアは、不安げな闇が重く漂っている。
徹夜経験も何度かあるし、既に数えきれないほどの夜を職場で過ごしてきたが、たった一人きりでの残業はやはり寂しい。
『幽霊とかお化けって苦手なんだよ』
明るい庶務課から暗闇に入ると、何となく不安感が増す気がする。そんなことを考えながら苦笑いを浮かべた。
古き神代の時代から、闇に対する恐怖は人間本来の本能である。神々もまた、闇を怖れ、闇に棲む人外のものとの闘いを続けてきたと言われている。その血脈が現代にも引き継がれてきたのかもしれない。
榊原も昔から闇は嫌いである。背筋がゾクッとする、そんな感覚が苦手なのである。やはり怖い。相手が人間であれば、いくらでも戦うだけの気力は持ってはいるが、人間ではないものが怖いのだ。
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