第19話 妖魔の王
洞窟前部にやや明るい蒼い明かりが見えている。突然、洞窟を抜けて、目の前に大きな広がりのある空間が出現した。
空間は広く大きく、そして高い。拡がりも高度もその限界は見受けられず、魔物たちのみが棲息する無限空間のようである。
空間上部を覆う深い藍色をした空らしきものには、冷たい蒼白い色をした月に似たものが浮かび、凍えるような冷気の中で、蒼白い明かりが全体を照らしている。
空間全体が黒く硬質な岩場であり、まるで険しい山岳地帯のように、木々や草花などの植物は全く存在しないようだ。
すべてがゴツゴツした岩場の中に、魔物たちの棲域なのだろうか半球型に黒石を積み上げられた建物らしきものが多数並んでいる。
通路であろうか?岩場を削り抜いたような溝道が半球型の建物らしきものを放射線状に繋いでいる。
見渡す空間の中に、王宮であろうか一際巨大な建物が漆黒の岩山のようにそびえ立つ。
入口らしきポッカリと開いた大きな開口部の前には、3mを超える巨大な昆虫に似た妖物『使い魔』たちが護衛に立っている。
マースは畏まる2体の使い魔の前を無言で通り抜け、建物の奥に進んだ。
建物内は広く天井は高い。どれ程の高さがあるのだろうか。薄暗い狐火のような蒼白く冷たく揺れる炎が、暗い壁面のあちこちに灯されている。
「フッフッフ、遅かったな」
低く太く圧倒的な力を感じさせる声が、空間を震動させた。
建物のほぼ中央、大広間のような空間に一段高まった祭壇らしき場所がある。祭壇には巨大で黒く煌く石の席が設けられている。彫刻家が数十年かけて岩から削り出したような、精緻妖美な彫刻で彩られた巨大な席である。
無数の魔物が人間を襲い、喰らい尽くす彫刻であり、まるで彫られたもの全てが今にも動きだしそうだ。
幅も奥行きも大きく、高さも2mほどの漆黒の巨大な席を今、巨大な影が満たしている。
「マース、ただいま戻りました」
マースが広間の岩床に膝まずき、深い敬意を表している。心なしか、その声さえも緊張を隠しきれず硬い。
「マース、お帰り、ずいぶんと時間がかかったようだね。お願いした任務はちゃんと片づけてくれただろうね?」
金髪をオールバックに流した巨大な影が優しく重く語りかけた。30代半ばに見える。まるでギリシャ彫刻のような美しい顔が微笑んでいるようだ。
巨大な席に見合う巨大な影。鋼鉄のように引き締まった肉体を剛毛が全身を覆う。立ち上がればゆうに3m超えるかもしれない。
まさしく王そのものである圧倒的なオーラ、迸るような妖気が空間を満たしている。
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