第4話『屋上の初陣戦』

 俺たちだけしかいなかった屋上に、扉を蹴破り制服を着崩した男子生徒たちがやってきた。


 馬鹿な現実逃避タイムも終了かな。


 わかっていました。クラスの美少女を三人も侍らせてワイワイ楽しくお昼を食べていたら、そりゃ不機嫌な男子が現れますよね。

 特に俺をいじめていた不良のみなさんは許せないと乗りこんでくるでしょう。


 現れた不良男子は四人。


 ここに岸野さんたちがいる以上、逃げるわけにはいかない。と考えていたら岸野さんが立ち上がり向かっていこうとするので慌てて止めた。


「サトルくん」

「ここは任せてほしい」


 びっくりした、岸野さん勇気ありすぎるでしょ。


「彼らの標的は俺みたいだから」


 二、三発殴るぐらいで許してくれるかな、無理かな、骨折くらいは覚悟しないとダメかな、とにかく体の急所だけは守って生活に支障が出るダメージだけは回避しよう。


「彼女たちには手を出さないよね、だったら殴られてあげるよ」


 彼らがムカついているのは俺なんだから、四人の中心へと歩み出る。


「テメェ、ホントに夷塚か」

「何でそんなこと確認するの? あなたたちがいつもいじめてくれている夷塚悟ですけど」

「ありえないだろ、いつもは怒鳴るだけで震えあがるテメェがどうして取り囲まれて平然としてるんだ!!」


 あ、そう言えば、いつもなら足がガクガクに震えて意見なんてできなかった。

 不思議なことに、今日は彼らからまったく恐怖を感じない。取り囲まれたのに心には余裕がある。ホントに不思議だ。


「なにビビってるんだ、こいつは女の前だからカッコつけているだけだ」


 まさに、その通りです。


「一発殴ればいつもの震えが始まるさ」


 俺もそうなると思うんだけど、一部三名ほどの女子は違った見解のようで。


「サトルくん、手加減してあげてね」

「支援は不要でしょうか」

「あのくらいの相手なら、今のサトッチでも余裕だよ」


 どうしてか、女子のみなさんまで余裕なんです。


「テメェ、調子に乗り過ぎだ!!」


 沸点が低い、不良の一人が殴りかかってきた。

 それがとてもスローに見える。

 体をズラして避けたらバランスを崩しそうになったので、軽く足を払ったらもう一人の不良を巻き込んで転んでしまった。


「ぶっ殺す!」

「岸野や青磁の前で情けなく泣きわめけ!!」

「あたしが見事にスルーされてる」


 不良の叫びに真帆津さんはツッコミまで入れてくる。本当に余裕があるなー。

 今度は二人掛り、でもまたスローなので、突き出された拳の軌道に手を添えて互いになぐり合うように誘導してみた。


「ブヘ」


 豚が潰されたようなうめき声で二人の不良が顔を押さえてうずくまる。

 体が信じられないくらい軽い、朝の一駅分全力ダッシュでも薄々思っていたけど俺の身体能力が知らないうちに跳ねあがっている。


 自分の力が信じられなくて、その場で両手をグーパーグーパーと繰り返し意識が完全に不良たちからそれてしまっていた。そのため、不良の一人がポケットからナイフを取り出したのに気が付くのが遅れた。


 不良は倒れた姿勢のまま、ナイフを俺の足に目掛け突き出してきた。

 完全な不意打ちを決められた。

 スローに見えているが避けられる間合いじゃない。


 足を刺される。


「はい、そこまでだよ」


 一直線に向かってきていたスローのナイフが、背後から現れた高速の蹴りによって上空へと弾き飛ばされる。

 見事に真上に飛んだナイフは真下に落ちてきて、真帆津さんの回し蹴りにより刃の部分が粉々に砕かれた。

 折ったとか曲げたとかじゃない。砕いただ。


「さすがに刃物はダメだよ、男の子なんだから喧嘩はしてもいいけど、刃物は人に向けてはダメ、絶対だよ、あと火炎系の攻撃もダメだからね」


 不良たちだけでなく、俺までも真帆津さんの豪快な足技に唖然となってしまった。

 蹴りの威力にも驚いたけど、幻覚で見た真帆津さんのジョブは確か。


「魔法使いだったような」

「え、サトッチ、あっちのこと思い出したの、この蹴り技はサトッチのアドバイスで閃いたんだよ」


 マジですか。それにあっちってどっちですか。

 薄々は思っていたけど、岸野さんを含め、この三人の女子は俺の知らない俺の事を詳しく知っていそうだな。


「ちょっとサリちゃん、今はスカートなんだよ、そんなに足を上げたら、そ、その、見えちゃうよ」


 ツッコミはそこですか、岸野さんはやっぱり真帆津さんの足技自体には驚いていない。もう、信じられない事ばかりだけど、これは現実だと受け入れるしかないか。


「だいじょーぶ、こんなこともあろうかと、あたしはいつもスカートの下は見せてもいいヤツだから。ほら」


 真帆津さんがスカートをたくし上げて見せてきた。そこは絶対領域を突破したピンクの桃源郷。


「ちょっとサリちゃん!」

「サリさん、それはダメです!」


 岸野さんと青磁さんが慌てて俺の前に立ちカーテンとなる。


「どうしたの二人ともそんなに取り乱して、あ、これ見せちゃダメなヤツだった、あはは、ごめんサトッチ、見なかったことにして」


 無理です。

 やっぱりこの世界そのものが幻覚だったんだ。


「おい、お前ら、こんな所で何してやがる」


 桃源郷に鬼の頭がやってきた。

 不良たちのトップ盾崎丹狗。


「丹狗さん、すみません、夷塚の野郎が調子に乗っているので、少し懲らしめてやろうとしたら、抵抗されて、お願いします。俺たちの敵とってください」


 一昨日は急に優しくなったと違和感があった。やっぱり白髪になっても盾崎は不良たちのトップのままなのか。

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