#40 強くなる理由

私は“八獄”の“衆合”であるお医者さん基、アルマさんと出会ってから何日か経過し、アルマさんに稽古をつけてもらっていた


「うんうん、前に比べて、結構動きが良くなってきたネ」

「でも全然アルマさんの速さについて行けませんよ…その“俊響歩法”のコツってなんなんですか?」

「稽古つけてるとはいえ、ワタシもそこまで教えるのが上手いわけじゃないんだガ…そうだナ。そもそも”俊響歩法“がどんなものか知っているカイ?」

「はい、シャガラさんから以前教えてもらいました」

「ああ、アイツから…まぁあっちの方が教えることに関しては何倍も上手いカラ、ある程度理解はしているのカナ?」


理解はしているが、実行に移そうとしてもなかなかできないものである。闘気の放出をしようとすると放出に全てが行って制御が効かずにそのまま短い距離を爆速で進むだけ。しかもその後は一から“錬気脚”を練り直さないといけないし、それにも時間がかかる。ステップに集中すると闘気が放出できない。というループに陥っていた。そのレベルで闘気は意外と繊細で、扱いが難しいものだった


「“俊響歩法”は闘気の技術の中でもトップクラスに難しい技術ダ。それは知っているネ?」

「はい、一応知っています」

「うん、よろしイ。そしてやり方は闘気の放出とステップを同時に行うコト…コツっていうコツは多分ないけど、一旦“闘気解放”を覚えるのが良いかもネ。それを覚えれば、闘気の放出量の調節の感覚がかなり掴めるとは思うヨ」

「“闘気解放”…ですか?」

「その反応だト、聞いたこともない、って感じだネ。闘気には人それぞれの“気質”があるんだヨ。リュウゲンの気質は“烈火”。シャガラは“暴風”って言ったようにネ。でもそれは一例でしかなイ。現にワタシの気質は“烈火”とか“暴風”とかそういうのじゃなくて、“流体”っていうものだカラ。」


“烈火”とか“暴風”とかはわかりやすいけど、“流体”って…見当もつかない


「今は教えるのは後回しダ。とりあえず、自身の気質を把握することが最優先だヨ。そうでもしないト、多分“俊響歩法”は会得できないヨ」

「はい!」


その後はしばらく沈黙が続き、私は黙々と、自身の闘気に眠る気質を探るべく闘気を放出し続けた


「ひとつ、聞いてもいいカナ?」

「?なんですか?」


沈黙はアルマさんのその一言で破られた。それにしても、突然聞きたいことがあるって…一体どうしたのだろうか


「キミは何故、そうまでして強くなろうとするんダイ?何がキミをそこまで動かすのカ、普通に疑問なんだよネ」

「なぜ強くなろうとするか…ですか…」


ぶっちゃけ、考えたこともなかった。のらりくらりと過ごしてきて、この特訓も、強くなろうとするのも最初はヘインから言われて流されるようにしてやっていた。今こうやって前のことを考えれば、私自身が強くなるための理由はないかもしれない。だが、今は胸を張って言えることがある


「今の大切なこの時間を、守りたいから…ですかね」

「ふーん…そんなに大切なのかイ?」

「はい、とっても。心の底から、守りたいって思うくらいには、大切に思っています。少し照れ臭いですし、ありきたりなことだとは思いますけど、でも、それが本心です。」

「…思えてることだけ、良いことじゃないカ。ワタシも、キミとの時間は、結構楽しいと思っているヨ。」

「急に何ですか。そんなこと思ってなさそうな顔して…いや、なんでもないです」


思ってなさそうな表情して、なんて言葉を顔も見ずに言っていたが、アルマさんの顔は、口元が少しだけ緩んでいた


「すごく失礼なことを言いかけていた気がしたケド…まぁ別に気にすることでもないカ。ホラ、闘気の放出止まってるヨ。」

「あ、すいません」


アルマさんに指摘され、私はまた、闘気を扱う鍛錬に戻ったのであった

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「強くなる理由?」


エヴァとの鍛錬の休憩中に何の突拍子もなく、エヴァからそう言われたために少し驚いてしまった


「ああ、アンタのことを突き動かす理由、それがアタシは知りたい」

「…聞いて何になる?」

「いいじゃないか。ここにきてからそこそこ期間も過ぎたし、親睦を深めれていると思ってるんだけど、だから、今更だとは思うけどアンタのことをもう少し深く知っておきたくてな」

「…アンタがそう思っているだけだ。俺は別にそうは思っていない」

「悲しいこと言うなよ。来た時も言ったろ?アタシはここにいる全員は家族だって思ってるって。アンタがそう思ってくれてないのは悲しいことだな」

「⋯強くなる理由⋯か。お前に言っても分からないだろうが、もう二度と大切なものを失わないためだ。そのためならこの身を投げる覚悟だってある。」

「なんだかんだで話してくれるんだね。にしても、大切なものを失わないため⋯ねぇ⋯アンタ、意外とキザなこと言うじゃないか。」

「痛っ⋯ちょ、肩叩くな。叩く力強すぎだ」

「おっと、すまないね」


過去に俺は、自分が大切だって思ってたものを、失ってしまった過去がある。それは俺だけの原因ではなく、ほとんどが人間によるものだ。だが、守れなかったのも事実。だからこそ、今度は守る。⋯それが理由だ。


「がっかりしたか?」

「何をガッカリする必要があるんだい?立派な理由さ。アタシも、ヘインと同じような理由で”異形衆”に入ったんだからさ。」

「⋯同じような理由⋯意外と、似たもの同士なのかもしれないな。」

「親近感でも覚えてくれたのかい?だったら嬉しいことだね!」

「どうだか。」


少し、笑みが溢れてしまったが、親近感を覚えたのはあながち間違いでは無い。


「休憩もこの辺にして、また実戦演習始めてみるかい?」

「ああ、またよろしく頼む」

「ああ、アンタが満足するまで、いくらでも付き合ってやるよ!」


エヴァは強い。何度か実践演習を重ねてみて思った率直な感想がこれだ。本人曰く、演習の時は本来の力を出せて居ないらしく、本当は自分の背丈よりも大きいバスターブレードを使っているらしく、体術はそこまで心得がないとの事だった。


「アンタ、いい意味で嘘つきだよな。」

「それ褒めてんのかい?」

「あぁ、褒めてる」


実際ほんとに嘘つきだと思う。体術の心得がないにしては動きがそこらの異形より全然よく、下手すれば軍人よりも動きは良かった。それに、受け流しがとても上手く、中々攻撃をさせて貰えない。


「体術の心得がないなんて嘘じゃねえか。」

「嘘って訳でもないよ?アタシは豪快な方が得意だからね。体術なんて地味なもん、あんまり心得てないんだ。チマチマ相手に攻撃を与えるのは、アタシの性に合ってない」

「にしては受け流しがめっちゃ上手いけど⋯な!」

「ははっ、そうかい?素直に褒め言葉として受け取っとくよ!」


いくら拳をエヴァに向けようが、フェイントをかけようが、全て避けるか、受け流されるか、止められるか。当たるなんて選択肢はなかった。


「アンタの拳結構痛いから当たりたくないんだよ!」

「そもそも当てさせてくれねぇじゃねえか!」

「悔しかったら一撃でもアタシに喰らわせてみな!」

「それが出来てりゃ苦労してねぇっての!」


そうしてまた、俺はエヴァとの鍛錬を再開し、強くなるための1歩を踏み出そうとするのだった

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