#39 地下都市にて

それぞれ担当の人がいるから、という説明をソルグロス基、シャガラから受けた後、俺はメディとは別れ、その担当者の元へときていた


「んで、あんたが担当者と…」

「なにか不満を言いたげな顔だねぇ?アタシはイケメンが来てくれて嬉しいんだけど」

「そういう不満じゃない…」

「じゃあどういう不満なんだ〜?もしかしてアタシみたいな女はタイプじゃないってことかい?」

「全部違う!距離が近すぎなんだよ!まずは離れてくれ!」


そう。この姉御肌の女の距離が近すぎて、ただでさえ暑い環境がさらに暑くなっているのだ


「近いのは慣れてくれよ。この地下都市では、全員が家族みたいな感じで行ってるんだ!ここにきた以上は、みんな家族同然。1人だけ特別扱いなんてことはしてないからね」

「少なくとも俺はまだ馴染めてねぇよ!」

「初だねぇ…まぁ徐々に慣れて行ってもらって構わないからさ。アンタがそういうの苦手そうな人間っていうの、なんとなく雰囲気でわかってるから」


意外と聡明なんだな…いや待て、苦手そうなのがわかっているんのならなんでさっきあんな距離が近かったんだよ!


「自己紹介から行こうか!アタシは“エヴァ・フォルジュロン”。そして、“八獄”『焦熱』だ。気軽にエヴァとでも呼んでくれ」

「…俺は“ヘイン・トラスト”…よろしく」

「ああ、よろしく!アタシは仕事に戻るけど、ヘインはどうする?」


急に呼び捨てか…まぁ別にいいか。にしても、どうする、つったって…この地下都市のことが何もわからないから誰かに案内をお願いしたいのだが


「この地下都市のことよく知らないから、アンタのところにいる暇な人員を起用してくれないか?この地下都市の案内を頼みたいんだが…」

「わかった。とりあえず、アタシの鍛冶屋にいこうか!そこで案内したいやつがいたらそいつと一緒に行ってくれ!」


そうして、俺はエヴァに連れられ、彼女が営む鍛冶屋へと来ていた。工房の中には意外と動員がいて、真面目に仕事に取り組んでいた


「改めて、ようこそ!アタシの鍛冶屋、“マチルダ”へ!ここは“ドワーフ”や“獣人族ベスティア”とかが武器、防具を作ったりしているところだ!武器とか防具に迷ったらいつでもここにきてくれて構わないよ」

「へぇ…さすが、家族というだけあって、多種多様な種族が一緒にいるんだな」

「ああ、元々この地下都市は、他の種族が迷い込んだときに使う保護施設みたいなものだったんだ。でも表にも今はでっかい街ができてるだろ?それで、ここがもうめっきり使われなくなったタイミングで、アタシが“八獄”としてここを統括するようにって、ボスから言われたんだ。でも何もないところを統括するのもなんだって思ったから、アタシが異形になる前にしていた“鍛冶屋”をもう一回やってみることした。したらまぁ結構一緒にやりたいって奴らも出てきてな!結果的にこういう感じで、色々な種族が集まって作業するっていう形に落ち着いたんだよ」

「へぇ…良かったのかよ。まだ余所者の俺にそんなことを話して」

「よそ者だなんて言うなよ!ここにきたらもれなくみんな家族だ!アンタも例外じゃない!」

「お。おう…そうか…」


急な勢いに気圧されてしまったが、間違いなく、この女は悪い奴ではないし、異形にしては完全な“善”のモノだ。俺は、彼女のことがとても羨ましくなっていた


「さぁ皆んな!一旦こっちをみてくれ!」


その掛け声とともに、作業していた者たちの視線が、一気にこちらに集まった。


「こいつはヘイン!今日からアタシたちのところにくる新しい“家族なかま”だ!みんな、仲良くしてやってくれよ!」


エヴァのその紹介で、視線がエヴァからこちらを凝視するものに変わった。好奇の目、怪訝な目、その目の色はさまざまだったが、気にすることでもないだろう


「んで、ちょっと聞きたいことがあるんだが、お前らの中に、ヘインのことを街に案内してくれるやつ、いるか?」

「私!私したいです!」


エヴァの質問に声を上げたのは、小柄な獣人の少女だった


「シーア!本当か!」

「はい!」


シーア、と呼ばれる少女は、元気よく、エヴァに応える。…こんな子が案内役なのなら、ひとまずは安心だな…


「じゃあ、お前の裁量でいいから、ヘインに街を案内してやってくれ。と言っても、狭い範囲にはなるけどね」

「お任せください!」

「じゃあ、頼んだぞ!アタシは仕事に戻る!」

「じゃあ、ヘインさん、行きますよ!」


そう言って、俺はシーアに連れられ鍛冶屋の外へと出ていた


「立候補、ありがとう」

「なんで私に感謝してるんですか?」

「ああいうのって、立候補する方が珍しいだろ。何処の馬の骨とも知らないやつの案内したがるやつなんて、いると思うか?」

「ああ、そういうことですか。って、その言い方だと、私が普通じゃないみたいになりません?」

「あ、そうなるか?別にそう言って意味はこもっていなかったんだが…そう思ってしまったのなら謝ろう」

「…なんか、ヘインさんって、とても堅いですね。なんか、こういう集団の輪に溶け込むのとか、とっても苦手そうです」

「実際、間違ってないかもな。俺は集団に溶け込めない。苦手というより、あまり好きではないんだ」


俺は1人を好む。できることなら孤独でいたい。そういう思いは、少なからずある。だが、“異形”である以前に元が人間である俺は、孤独でいることはできない。1人を好むと言えども、さすがに命は惜しい。


「俺と違って、アンタは獣人だ。姿は人間だが、身体能力は獣そのもの。…最悪、集団にいなくても自分で狩りはできる」

「狩りも楽じゃないですよ。獲物が完全の油断した時の不意打ちでしか、私は狩れません。それに、獣人の中でも、私は非力なんです」

「それはあくまで獣人の中の話だろ?人間よりも巣の力が強いのは明確なはずだ。それが俺とアンタの違いだ」

「獣人だって楽じゃないんですよ。…人間に、殺される可能性も孕んでいるんですから」

「…は?」


獣人が人間に殺される可能性がある…?アイツらは相互で殺し合ったりはするが、他は人間への害となる生物を始末していく以外は無駄な殺生は行わないはずだ。それなのになぜ…こんな年端もいかない獣人の少女から、そのような言葉が出てくるんだ?


「待て、人間は無駄な殺生を行わないんじゃなかったのか?」

「だから、私たちは人間にとって必要な犠牲として捉えられているのでしょうね。残酷な話ですけど…」

「殺されるって…一体どういう」

「殺される、というのは命がなくなるという意味ではありません。ですけどまぁ、最終的にはそうなってもおかしくないですが…」

「最終的に命を無くす…それって一体どういう意味…」

「こんな暗い話してても良いことないですよね!狭い範囲ですけど案内しますね!しっかり私についてきてください!」

「ちょ!待ってくれ!」


シーアは俺のことを置いて猛スピードで街中を走り抜けていた。それにしてもさっきの話…後でエヴァに聞いてみるとするか


「早く!こっちです!」


シーアのその声に誘われ、俺は今は考えることでもないかと、その考えを振り切り、エヴァに言われていた本来の目的に戻ったのであった

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