第42話 よかったよ。【※※※ほのか一人称視点】

「ガウガウガウ!」


 和彦君の肉にかみつき、首をブンブンと振ってその肉を引きちぎるヘルドッグたち。


「ぎゃぁぁぁぁああああ! ああああああ! くそがぁぁぁあっ!」


 ついつい呪文の詠唱をやめて見入ってしまった。

 わたしもこんなふうに食べられちゃったんだなあ……。


「あがががが……」


 ヘルドッグが和彦君のはらわたを咥えて引っ張る。

 もう和彦君は声もだせず、意識もないみたいだ。

 顎をカクンカクンさせてわずかな呼吸をしている。

 私、知っている。

 これ、死戦呼吸っていって、人間は死ぬ直前にこんなふうな呼吸になるのだ。 

 和彦君、これで死んじゃうのかあ……。

 と思ってみていると。


「よし、ヘルドッグたちよ、もうええぞ。。……ん、なにしとるんやほのか。ほれ、回復魔法をかけてやれ」


 あ。

 それで、私はご先祖様の意図がやっとわかったのだった。


「慈愛の女神の心の星よ、星の光で傷をふさげ、痛みを飛ばせ! 大治癒ジアルマー!!」


 和彦君のおなかの傷がふさがり、食いちぎられた手足の肉が盛り上がって治る。


「よし、今度はミカシチロウとミカハチロウ、おいで!」


 すると今度は美香子ちゃんのこどもたちがやってきた。

 巨大な象さんなんだけど、鼻が8本のタコの足になっているという、もはや悪夢にすらでてこなさそうなモンスター。


「よし、踏め」

「「ぱおおおおおん」」


 体重10トンはありそうな巨体のミカシチロウとミカハチロウが和彦君の手足を順番に踏んでいく。

 メキメキミシミシ!

 骨と肉がつぶれる音。

 踏んだだけじゃなくてグリグリと踏みにじってる。

 グリグリグリ!


「ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛」


 和彦君、もう言葉は忘れちゃったみたい。

 へんなうめき声しかださなくなっちゃった。

 えっと、アスファルトの道路でさ、ミミズとか虫とかが自動車に踏まれた死体ってみたことあるかな?

 和彦君の両手足は今そんな感じでひらべったく床に張り付いちゃってる。


「ほれ、ほのか」


 うーん、これ、治るのかな?


「ほのか、もう、やめろ……死なせてくれ……」


 あ、和彦君、まだしゃべれたんだ。なーんだ。

 ってことは意識があるんだね。


 よかった。


 意識があるってことは痛みとか苦しみとか恐怖とか味わってるってことだもんね、よかったよ。


 んじゃ。


「慈愛の女神の心の星よ、星の光で傷をふさげ、痛みを飛ばせ! 大治癒ジアルマー!!」


 ひらべったくぺちゃんこになっていた和彦君の手足がモリモリっと元に戻っていく。

 おもしろー。

 ちょっと笑っちゃった。


「ふむ。じゃあ次は、ミカジロウとミカサブロウとミカシロウとミカゴロウやな!」


 うわー。

 美香子ちゃんと、ゴキ……Gの子供じゃん。

 見た目が一番やばい奴。

 ゴキブ……Gの手足が人間の手足になっているっていう、悪夢の中で眠ってまた悪夢みたってこんなモンスターには会えないぞってくらいキモい子たち。

 昆虫だから足が六本あるんだけど、前足二本が人間の腕、あとの四本は人間の足になっている。ほんと、キモい……。

 あ、キモいなんて思っちゃってごめんね、君らは一生懸命生きてるだけだもんね。


「おい、お前ら、こいつの肉食ってもいいぞ」


 ご先祖様の号令にあわせて、美香子ちゃんとGの間に生まれた愛の結晶はワサワサと和彦君の身体にたかっていく。


 うわぁ……。


 いろんなところが少しずつ食いちぎられちゃってるんだけど……。

 話は変わるんだけど、人間は哺乳動物だから乳房と乳首があるのは哺乳のためで、それは当然だしわかるんだけど、なんで男にもそれがあるんだろうね?

 別に必要ないものなのにね。

 必要ないものだから、ゴキちゃんにかじられてなくなってもかまわないよね。

 ゴキちゃんの気持ちはよくわからないけど、おいしいのかな、あれ?


「やぁめぇろぉぉぉぉぉ!」


 パニック状態になった和彦君が表情をゆがめて叫び続けるのを見ながら、まあでもまだ回復魔法を唱えるほどでもないよね、と思って私はさっきご先祖様からもらった雪の宿をパリパリとかじった。

 うん、おいし。

 この身体だと満腹感がないから歯ごたえ勝負なんだよねー。


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