第43話 ミカクロウ【※※※和彦視点】
和彦の全身から、痛みと傷が消えた。
ほのかが回復魔法をかけたのだ。
傷が癒えたからといって、もちろん嬉しくもなんともない。
それは次の痛みと恐怖の始まりにすぎないのだ。
「殺せ、殺せよ……」
和彦の言葉に返事するものは誰もいない。
ただ、無表情で和彦が苦しむのを見ている。
いや、アンデッドキングだけはにやにやとした笑顔を見せているが。
「次はなにする? やっぱりミカクロウがええと思うんや! おいで、ミカクロウ!」
するとやってきたのは、またもや犬のモンスターだった。
だが、おかしい。
体は巨大なドーベルマンのような体格のいい犬なのだが。
頭部は人間のそれだ。
髪の長い、けばけばしい感じのおばさんの顔。
「いやー、ママそっくりやな! お化粧してやったんや、かわええやろ?」
そいつ――ミカクロウは和彦のそばにくると、あまりの精神疲労で床に横になって動けなくなっている和彦を冷たい目で見下ろす。
なにがミカクロウだ、どうみても女の顔をしてるじゃねえか、メスだろこいつ。
ミカクロウはじっと和彦をみている。
人間のおばさんの顔をしてはいるがどこかバランスがおかしい。
目が大きすぎる。
口も大きすぎる。
見るだけでぞっとするような造形だ。
そいつが、和彦に顔を近づけてきた。
ほんの十センチほど、鼻と鼻がくっつきそうなほどの距離で見つめあう。
気持ち悪い。
口臭がひどい。
「はは、ミカクロウ、そいつはママの友達やで。おいしそうやろ? ……食ってええで!」
「ガフガフゥ!」
アンデッドキングの合図とともに、ミカクロウは和彦の鼻にかみついてきた。
「くそがっ、やめろぉぉぉっ!」
身体を引き離そうとするが、ミカクロウはものすごい力で和彦を組み伏せる。
そしてそのまま和彦の鼻を食いちぎろうとした。
しかしミカクロウはあくまで人面犬で、その歯はするどくない。普通の人間と同じだ。
人間の前歯で、人間の鼻を食いちぎる。
それを可能にするだけの力がハーフモンスターであるミカクロウにはあった。
ブチブチブチ! と鼻の軟骨をかみつぶすミカクロウ。
「…………! あぎゃぎゃぎゃぁぁぁぁ!」
和彦は手足をバタバタさせるが、ミカクロウの怪力の前ではなすすべがない。
そのまま、
ブチィン!!!!
と鼻を食いちぎった。
そして、まるでガムを噛むかのように和彦の鼻をくっちゃくっちゃと咀嚼するミカクロウ。
「それ食い終わったら、今度はふとももあたりがおいしいと思うで」
――人間の歯で、太ももを食いちぎられる?
ちくしょう、それはどれだけ痛いんだ……?
くそが、カスが、ちくしょう、ちくしょう……。
「くっちゃくっちゃ」
ミカクロウが音を立てて和彦の鼻をかみながら、じっと和彦を見つめている。
こええよ……。
もう、もう……。
「……して……」
「なんや? なんかいったか?」
「ごめんなさい、もう許してください……。ご、ごめんなさぁい……」
和彦は自分でも驚くくらい情けない声をだしていた。
両目から涙がぶわっとあふれて流れる。
「ごめ……ひっく、ひっく、こんなひどいことしなくてもいいじゃんかよおぉ……悪かったよ、ゆるしてくれよぉぉ……」
アンデッドキングは小首をかしげて、
「ふむ。どうする、慎太郎?」
慎太郎はにっこりと笑って、
「そっか、わかってくれたか、和彦、俺たちはパーティだったもんな……。いや、違ったか、お前のパーティと俺だったか? あ、やっぱり腹立ってきた。やれ、ミカクロウ!」
直後、ミカクロウが和彦の太ももの内側、一番やわらかくて痛いところにかみついてきた。
脳天に突き刺さるような痛みが走る。
ああ、俺はこのまま拷問されるんだ、何度も何度も死ぬ直前まで痛めつけられてそして回復魔法で回復させられて、また痛めつけられる。
自分のこれまでの人生が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
今まで犯した女子の顔、殺したクラスメートの顔。
報いだ。
これは、報いなのだ。
「じゅるじゅるじゅる!」
ミカクロウが噴出した和彦の血液をおいしそうに音をだして飲んでいる。
失血でふらっと意識がとびそうになるが、
「
すぐにほのかの魔法が飛んできて意識が戻る。
痛み、恐怖、ああ、いまはもうミカクロウの歯と舌が大腿骨まで達してぺろぺろとなめていて……。
次にミカクロウがかみついたのは、和彦の下腹部だった。
「やだぁぁぁ! 怖いーーっ! 殺してーーーっ! 殺してくださいーーー! 慎太郎さんっ! ほのかさんっ! 桜子さんっ! 俺を、殺してーーーーー!」
泣き叫ぶ和彦の目に、デザートイーグルの銃口をこちらにむけた慎太郎の姿が飛び込んできた。
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