第32話 『俺のパーティ』と『お前』
俺は桜子の胸から手を離した。
名残惜しいが、いつまでもこうしているわけにもいかない。
桜子とほのかさんのおかげで、マPは満タンだ。
このまま物量でおせば、和彦たちを数で押しつぶせそうだった。
でも、それじゃあ、俺の気持ちがおさまらない。
この手で、やっつけてやる。
おれはゆっくりと和彦たちへと近づいて行った。。
剣を鞘から引き抜く。
安物の、なまくらだ。
和彦たちのパーティは俺の武器に予算をまわしてくれなかったからな。
でも今はこれで十分。
和彦も春樹もMPをかなり消費していて、もはや最大の攻撃呪文はつかえまい。
あとは物理で殴りあうだけだ。
「和彦。お前はもうパーティにいらない、と俺に言ったな?」
俺はそう聞く。
「……ああ、言ったさ」
「今もそう思っているのか?」
「はは、今ももなにも。お前が俺たちのパーティに加入してきたときから、お前が邪魔だった」
「そうか」
その答えに、俺は心からがっかりする。
初心者のころから、四人でこのダンジョンを攻略してきた。
少しは、少しは、仲間意識があったと思っていたのに。
「なあ、和彦、俺たちはパーティじゃなかったのか」
「慎太郎、『おれたち』ってなんだよ、最初からいたのは、『俺のパーティ』と『お前』だ。お前が俺たちのパーティの一員だったことなんてなあ、俺の気持ちの中では一度もなかったぜ」
それは和彦の、俺への最終宣告だった。
わかったよ。
一時の気の迷いで俺を追放してリンチして放置したわけじゃないってことを、きちんと理解した。
「和彦、もうひとつ聞きたいことがあるんだ」
「なんだ」
「トロールゾンビを俺たちがやっつけたとき、赤い宝石を手に入れたな。……マゼグロンクリスタルって宝石だ。今、持っているか?」
「なんだ、お前、これが目当てか? 今持っているよ、ほら。もしやとは思うが、これを渡したら俺らを見逃すか?」
「いいや」
俺は和彦のせいでアンデッドとなり果てたほのかさんを見た。
彼女は和彦たちをすごい鋭い目つきでにらみつけている。
「その宝石があるとわかったらそれでいいんだ。あとは、――お前たちを殺して、お前たちの魂と、その宝石を手に入れるだけさ」
「……そうかい! じゃあ、こいよ、慎太郎!」
「……いくぞっ!」
俺は剣をふりかぶって和彦たちに襲い掛かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます