第12話 一触即発

大男ダンマが対峙していたのは、

ダンマのその体格に負けずとも劣らぬ

大きな体の男だった。


体の前には膨れ上がった立派な腹が突き出てていて、背中にはその腹と同じくらい大きなハンマーを背負っていた。


よく見ると、大男ダンマを止める従騎士パーエムのようにデカっ腹を止めようとする者達もいた。


「おい、落ち着けマーボ!こんなところで喧嘩はよせ!」


「そうよマーちゃん?!

さっきあれだけ飯屋で食べたんだから機嫌はいいはずよね?!」


「王都を旅立つ前の最後の一悶着、これもまた一興、、。」


変なやつも混ざっていたが、おそらく仲間の面々なんだろうと察しつく。すると、



「おでの前にいたこいつがワルイ!俺、悪くナイ!お前が、、ドケッ!!」


そのデカっ腹の男が、勢いよくその腹をダンマにぶつけた。


「うおわぁっ!」


まともにその腹タックルを食らったダンマは従騎士パーエムを巻き込みながら後ろに倒れる。


「うわぁわぁ重いぃ!重いです!大男の旦那!早くどいてくださいぃっ!」


従騎士パーエムは必死に訴える。


「あ?何してるんだお前。」


 パーエムがさっきまで見えていなかったのか、冷たくそう言うと大男ダンマはすぐに

起き上がった。


「おい、肉塊ピグル、、お前はこの俺を完全に怒らせた、、覚悟は出来ているんだろうな、、?」


ダンマは怒りに満ちた顔で相手のデカっ腹の男に言いかける。

ちなみにピグルとは豚によく似たFランク魔族のことで、平民であっても農具なんかで簡単に倒せるモンスターだ。


「ピグル?!ちょっと喧嘩をヒートアップさせるようなこと言わないで!」


「そうですよ旅人のお方!我々はお互い、こんなとこで揉めてる場合じゃないでしょ?!」


ダンマの思わぬ罵倒に、相手方の同行人が慌て制そうとする。が、


「ぶぅぅぅっ〜!!今、おでのこと、“ピグル”って言っタカ!おでを馬鹿にするなんて、、許セナイィ!」


ダンマの挑発をまともに受け、デカっ腹の男の方も怒り心頭であるのは明らかだった。


「ひひっ、俺らはちょうど“仲間”がもう1人来るのを待つ暇があるんだ。お前がその気なら相手してやろう。」


ダンマは面白がるように笑みを浮かべそう言った。


「いやいやいやいや、だからこそこんなことしてたら“目つきの旦那”が来ても気付けませんよ!」


従騎士パーエムが突っ込む。


いや、俺“目つきの旦那”って言われてるの?

そのことに少しだけショックを受けたが

確かにここで暴れてもらうのは困る。


敵は増やさないほうがいい。

何事においてもそれは通ずることだが

この冒険においても、もちろんそうだろう。


しょうがない、ここは一つ俺が事態を収めよう。この魔法を人生でもう一度使うことが来るなんて思わなかったな、、。



“コーヴァレート”


「、、ん?なんだか美味しそうなニオイっ!どこどこドコ!おでが食べルゥ!」


真っ先に反応したのはやはりデカっ腹のマーボとかいう男だった。


「ど、どうしたマーボ!、、ん?確かに美味そうな匂いがしてきた!」


「一体なんの匂い?、、分からないのに、なんだか私も、、お腹空いてきちゃった、、」


「食欲をそそるような高貴な、フッ、、王都では出会ったことのない匂いだ。」


続いてその仲間らしい面々が次々に匂いに気づき、その匂いの元を探し始めた。すると、


「もおぉおぉお!我慢でキナイ!おでに食べさセロォォ!!」


そう叫ぶとマーボという男は、全速力でその匂いの元を探しに、混雑する人を跳ね飛ばしながらどこかへ走っていった。


「おいまてマーボ!俺たちの冒険はこれからなのにっ!おい、追いかけるぞっ!」


仲間を追いかけるため、残りの者たちも急いでデカっ腹の男の後を追って行ってしまった。


「匂いが消えた、、なんだったんだろう今の、、。」


従騎士パーエムが不思議そうに、疲れた様子でそう言った。


それもそのはず、

俺が使ったのは“とてつもなくおいしそうな匂いがどこからかしてくる”魔法だった。


これでようやく合流か。というか、どれだけ冒険に出るまでに時間がかかってるんだ。



俺は2人の元へ足を踏み出した。





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