第9話 光と闇

ジャン・サンクス。


俺が、“ある事件”を原因に

士官学校を退学になるまで、学校でのほぼ全

ての時間を共に過ごした親友だった。


俺が士官学校を退学して2年経った、

5月のある日のこと。


俺は、ジャンの名前と顔が王都新聞の一面に

デカデカと載せられているのを見てしまった。


“王国騎士団最年少支部団長、誕生!史上初、今年の春入団のスーパールーキーを即昇格”


その記事を見て、俺はしばらく動くことができなかった。


そしてすぐに激しい喪失感と言葉にできないほどの虚しさに襲われた。


俺はそのことをはっきりと今でも覚えている。


ふと我に帰った。



「お前がこんなとこに居るなんて珍しいなぁ。


なあ、もしかして俺を見るためにわざわざ来てくれたのか?


塩臭いやつだなー、全然手紙も返してくれないし、心配してたんたぜ?


あ!どうだ、今夜あたりでも俺といっぱい飲みに行かないか?


昔みたいによぉ、久しぶりに2人でいっぱい話しながら笑わな、、、」



“ ハドウブールド ”



俺はジャンに向かって左手を突き出し、そう唱えた。


「うおおあっ!」


ジャンはその場から勢いよく飛ばされ、

数秒間、手足をばたつかせながら宙を舞い、

やがて、中通りの中央まで戻されるような形で体を地面に激しく打ちつけた。


一瞬の間のその出来事に群衆が大きくざわついた。


「な、あいつ今なにをした!」


「あのジャン支部団長が飛ばされたぞ!」


「俺たちの英雄に、なんてことしてくれるんだ、、!」



俺の思わぬ行動に周囲の平民が慌てふためき、俺から逃げるように離れていく。



、、やってしまった。

、、すまない、、ジャン。

お前はもう俺と違う世界の人間だ。

これ以上お前と居ると自分の中の何かが

壊れてしまいそうになる。


俺はどうしようもない落ちぶれフリーターだ。

お前とはもう話すことすら許されない人種なんだ。


そうだ、俺はどうしようもないフリーター、


なにをこんなに頑張ろうとしている?


国王のため、王都を出て冒険に出る?


舞い上がっていた。


自分が生きる価値もないような人間であることを忘れかけていた。


何してるんだ俺。



俺を囲むように距離を取った平民の群衆の中から声がする。


「王国の英雄を吹き飛ばすなんて、どこの誰だよ!」


「よく見たら服もボロボロだし!

よくあんな学校で王都を歩けるわ!」


「そうだそうだ!どうせ大した身分でもないだろ!なんて無礼なやつだ!」


「どっかいけー!」


俺を批判する声はどんどんと大きくなっていった。



終わった。

冒険なんてやめだ、もうどうでもいい。


王の指令に逆らったら俺は、正真正銘の犯罪者か。


それとも今すぐに騎士団に連行されるのか。


どうなるのだろう、少なくとも王都にはいられないだろう。


もしくは地下牢にでも閉じ込められ、一生出られないことになるのか。


まあ引きこもりの俺は、どこに閉じ込められたって大して今の生活と変わらないか。


とにかく帰ろう。どうせ少ない時間だろうけど、家で最後の昼寝でもしよう。


俺はその場から逃げ出そうとしたそのとき、

ジャンが俺に言った。


「待ってくれピオ!」


俺は思わず足を止める。

批判の声を上げ続けていた群衆もジャンの声を聞いて静かになる。


「冗談だよ、冗談。お前の今の目的は知ってるさ。、、関所に行くんだろう、違うか?」


なんで、なんでお前が知っているんだ。



「、、さっきそこで、これからお前と冒険に出るっていう従騎士と会ってきた。

従騎士がひとりで落ち着きなさそうにいるももんだから、声をかけたんだ。」


そうか、ジャン達は西の関所から王都に帰ってきたのか。そこで待つ“あいつ”に会ったのか。


「あいつ、不安そうにしてたぜ(笑)

昨日、国王の寝室に乱入してきた、

見るからに危険な平民ふたりと、冒険に出るハメになったって。」


俺は黙っていた。


「しかもその2人が、とんでもなくゴツい体の大男と、体格は痩せてるのに、とんでもなく目つきと、姿勢が悪いって言うんだ(笑)」


目つきが悪いか、、きっと俺のことだ。

俺が人生で最もかけられてきた言葉のひとつだった。


「そこで俺はすぐに思ったよ、“もしかしたらピオがまた、冒険に出るのかもしれない”って。なあ違うか?また出るんだろ、冒険に。」



俺は返事をするべきか迷っていた。










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