第7話 ダンマの向かう先


王都には誰も言わずとも、なんとなく鬱々とした雰囲気が漂っていた。


本来の活気がまるで失われている。



通り過ぎてゆく人達の顔も暗く、深刻そうな面持ちだ。



国王が言ってた通り、よっぽどヤバいんだな、今のアノーネは。


引きこもりの俺には知る由もない惨状だった。


そして俺はいま、なぜか大男を追っている。


その大きな背中はまだかろうじて視界にとらえていた。



あいつ、どこ行くつもりだ?


“待ち合わせ”と言っていたのは多分、俺のことを言っているのは間違いないはず。


じゃああいつは、なんでその“待ち合わせ”をすっぽかして人に追われているんだ。


大男を追う、中年ほどのゴブリン族の男のスピードは徐々に落ち、ついに俺は追いついた。


すると追いかける様子を見た通行人の女性がこのゴブリン族の男に話しかけた。


「何があったんですか、、?」


「ハァ、ハァ。あの男が、、ハァ、待ち合わせに遅れる、なんて言って、宿代を払わずに、そのままうちの宿場を飛び出していってしまったので、それを追っているんです、、ハァ、ハァ、、。」


上がる息を抑えながら膝に手をつき、そのゴブリン族の男は経緯を話した。


どうやら待ち合わせの酒場の隣が宿場で、このゴブリン族の男はそこの宿主らしい。



「クソォ、、!ただでさえ王都の人の数が減ってて、うちもギリギリでの経営だっていうのに、、これじゃ今月も赤字だ、、。」



1人客の利益を損ねたから赤字、とはならないだろ。


まあこの宿主にそこまで言わせるほど今の王国の経済がダメージを受けているのは確かだし、無理はない話か。


ここはしょうがない、俺が宿賃を払っておこう。



「あ、あの、、その男の宿賃っていくら、、でしたか?」


俺はゴブリン族の宿主に話しかけた。


膝をつき、悔しそうに地面に拳をぶつける宿主がゆっくり顔を上げる。

目は涙で赤くなっていた。


「うん、、?2泊だから6200ルバーだ、、。なんだいあんた、奴の知り合いか?」


ああ、たった昨日、不運なことにもあいつに出会ってしまった。


まあそんなところだ、と俺はぎこちなく答えてお金を渡し、すぐにあいつの走っていった方向へ駆け出した。


「ありがとう兄ちゃーん!あんたには悪いが、奴にきつく言っててくれよー!」


走り去りながら、宿主が後ろからそう言ってくるのが聞こえた。


ここが王都の中央区というだけあって

さすがに人の通りは多い。


前から来る人を肩が何度もぶつかりながらもなんとか避け、急いで追いかけた。


くそ、あいつどこに行ったんだよ。


当然だが、既にあの男の姿は見失っていた。



、、、仕方がない、ここで使うしかない、


連日の魔法は体に堪えるってのに、、!


俺は覚悟を決め、魔法を使った。




“ドコッチ”



足元の地面が、俺を中心として、円形状に青く光りを放ち、すぐに消える。


俺は半径200m内にあいつがいるかどうかをサーチした。




あーいた。、、ん?路地?


大通りを曲がったのか!


この大通りを左に2ブロック折れた細い路地を走っているらしかった。


昨日に続いて、久しく使っていなかった魔法を使ってしまった。


大丈夫、体には特に問題はない。


しかし、その効力がどれほど正確かはさすがに自信がなかった。


あーでもしょうがない、とりあえず

追いかけてみるか、、、。


一体全体、あいつはどこに向かっているんだ、、、?


そもそも、今後の動きとしては


まずは国王城真下に位置する、この王都中央区一の繁華街ガヤドヤの酒場でダンマと待ち合わせ、


西区にある関所から3人で王都を出て、


魔女と薬の町 ”ダックマトー”に向かって無法地区を進む


というものだったはず。


しかし、まったく計画通りに進んでいない。



俺はそこでピンと来た。



まてよ、、?



あいつが走っている路地は西区へと繋がる近道になっていた。

朝、地図を読み込んだから間違いない。



もしやあいつ、そのまま関所に行こうとしている?



だとしたらあいつが待ち合わせているのは

俺ではない。


あいつが待ち合わせているのは、

そう、不安に満ちた今回の俺たちの冒険の

“3人目”の仲間だ。

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