最終話 割井と真虎斗と戦う俺

 俺たちは勇者認定を受けるため、王都ラウンザーガの王城に来ていた。


 集まったのは4人。

 俺とゆいのパーティー。

 それと、割井わるい 真虎斗まことのパーティーだ。


 美男美女だった先輩のパーティーは隣国に行ったらしい。

 隣の国でも勇者認定の儀式があって、なんでも、そっちの方が条件がいいんだとか。

 報酬の条件で国を出ちゃうなんてすごい行動力だよな。


 まぁ、そういうことなので、俺たちと割井わるいのパーティーで、どちらが真の勇者パーティーか決定することになった。

 王は説明する。


「ルールは簡単だ。降参宣言をするか、気絶した方が負け。勝った方が勇者と認める」


 単純に力の差ってことか。


 割井わるいはニヤニヤと笑っていた。


「へっ。逃げずにここに来た勇気は褒めてやるぜ」


「そりゃどうも」


  真虎斗まことは全身を真っ赤にしていた。


「そ、その横にいる人は誰だよ!?」


 ああ、ゆいのことか。


「おまえが髪の毛を引っ張った倉木さんだよ」


「な、なにぃいい!? あ、あの女がそんなに可愛いだとぉ!? それに眼鏡をしてないぞ?」


「まぁ、色々あってな。彼女の視力は回復したんだ」


「ぐぅうう。 空児くうじの癖に狡いぞ!」


 なんの話だよ?


「おい。飯田。勝者が勇者認定ってだけはつまらんと思わんか?」


「何が言いたいんだ?」


「賭けをしようじゃないか」


 やれやれ。

 そんな遊びに付き合うのはごめんだがな。


「そんなことより、俺たちから奪った金貨を返せよ」


「おおーー。言うじゃねぇか。なら、おまえらが勝ったら俺たちの有金をぜんぶくれてやろう」


「なに?」


「ただし。俺たちが勝ったら倉木をもらう」


「!?」


 さては、彼女が可愛いのを知って仲間にしたくなったんだな。

 しかしな。そんな条件は受けれるわけがないんだ。


「ことわ──」

「わかりました!」


 はい?


「ちょ、ゆい!」

「大丈夫です。 空児くうじくんなら負けません」


 いや、しかしだな。


「その勝負受けます!」


「ははは! いい根性してるじゃねぇか! だったらおまえを俺の物にしてやる!!」


 ああ、とんでもないことになったな。


「ギャハハハ! おい 空児くうじ終わったな! おまえが割井わるいさんに勝てる要素なんかないんだぜ! 俺たちはこの前より強くなってんだからなぁ!!」


 それなら、


「俺だってな。この前の俺じゃないさ」


 そうだ。

 俺は強くなるために努力した。

 接戦でもいい。無様な負け方はもうしないぞ。


 審判が手を挙げる。


「勇者認定開始です!」


 割井わるいは大きな 岩巨人ゴーレムを出した。


「一瞬で終わらせてやるよ。 岩巨人ゴーレム 操作オペレイト!」


 大きな手が俺を襲う。


 しかし、


 おかしいな? なんだか動きがよく見えるぞ。

 割井わるいは手を抜いているのか?


「ギャハハ! 死ねやぁああ!!」


 俺は 岩巨人ゴーレムのパンチを避けた。


 ふむ。やはり遅い。

 これじゃあ、当たる方が難しいや。


「クソ! この野郎!! ちょこまかと!!」


「随分と手を抜くんだな」


 さては、準備運動ってやつだな。


「クソがぁああ!! 当たれば勝てんだよぉおお!!」


 ふむ。

 準備運動だしな。


 俺は 岩巨人ゴーレムのパンチを受けることにした。



ガンッ!!



 鈍い音が場内に響く。

 俺は 岩巨人ゴーレムの拳に押されるように5メートル後ずさった。


「ハハハ! バカめ! モロに喰らいやがったな! これで貴様の体はボロボロだぁあああ!!」


 俺は 岩巨人ゴーレムの拳を片手で受け止めていた。


 ふむ。


「元気にしてるが?」


「なにぃいいい!?」


「んじゃ。次は俺の攻撃だな」


 それは瞬きほどの一瞬。

 

 俺の拳は割井わるいの頬を捉えていた。


「よっと」


 ベゴァっという肉にめり込む音とともに割井わるいは吹っ飛んだ。


「ほげらぁあッ!!」

 

 よし。

 クリーンヒットだ。


「準備運動終了!」


 と、屈伸運動をしていると、割井わるいは立ち上がってこなかった。


 寝転んだままピクピクと痙攣している。


 あれ?


 審判が顔を覗き込んで両手を振った。


割井わるい殿は気絶している。リタイアだ! 勝者は飯田  空児くうじ!」


 えええ……。


「偶然か? それとも割井わるいは調子が悪かったのか?」


 まぁ、どっちにしろ勝てたからよかったな。


「この野郎!  空児くうじの癖にぃいい!!」


 次は 真虎斗まことか。

 

「喰らえ、アイス 操作オペレイト!!」


 俺の体は凍りついた。


「ギャハハハ! 終わったなぁあ! 全身が氷りついては動けねぇだろがぁあ!!」


「いや。そうでもないぞ。ふん」


バリーーーーン!!


「なにぃいいい!? 俺の氷が破壊されたぁああ!?」


「あーー。氷属性耐性を持ってるからさ。ダメージは通らないみたいだな」


「ク、クソがぁああ!! だったらポイズンアイスだぁああ!! ギャハハハ! 俺だってレベルが上がって 天技スキルが進化してんだよぉお!! 毒を付与した氷攻撃だぜぇえええ!! 死ねやぁあああああ!!」


 ふむ。

 この氷吹雪に毒が付与されてんだな。

 でもな。


「俺。毒耐性もあるんだ」


 だから、毒の氷吹雪でも平然と歩ける。


「なにぃいいい!?」


 さてと……。


 俺は 真虎斗まことの眼前に立った。


 兄の情けだ。

 降参宣言をするように助言してやろうか。

 

 と、その瞬間。

 脳裏に過ぎったのはゆいのことをブスと罵り、髪の毛を引っ張った 真虎斗まことの姿だった。


「あーー。やっぱ、許せんな」


「フハハハ!! 俺の技はまだあったんだよぉおお!! 油断しやがってバカがあぁあああ!! サンダーアイス!!」


 電気を纏った氷の攻撃か。


「悪いな。雷も耐性持ってんだ」


 俺は雷を弾きながら拳を振り下ろした。

 その拳は 真虎斗まことの腹にめり込んだ。



ズボォァアアアアアアアッ!!



「ゲフゥゥウウウッ!!」


  真虎斗まことは地面に突っ伏した。


「な、なんで……。そ、そんなに……。つ、強いん……だ……?」


「俺の強さなんてどうでもいい……。兄としておまえに言っておきたいことがあるんだ──」


 俺は鬼の形相と化した。




ゆいに手を出したことを反省しろ」




 それだけは絶対だ。


「今度、彼女に何かしてみろ、こんな程度じゃ済まないからな」


 審判は手を挙げる。


「勝者。飯田  空児くうじ!」


 良かった……。

 勝てた。


「あは!  空児くうじくん! やっぱり勝てました!!」


「ああ。運もあるな」


「運なんかじゃないですよ! 努力が実ったんですよ!!」


 努力か……。

 強くなるために過ごした日々の積み重ねがここに来て芽を出したんだな。


「すごいです! やっぱり 空児くうじくんの強さは本物です!!」


「本物?」


「だって、ずっと私を守ってくれるんですもの……。出会った時からずっと……。今だって……。わ、私のことで怒ってくれました」


 と、彼女は全身を赤らめた。


「あ、いや……。だってさ。許せなかったから……」


「あ、ありがとうございます。す、すごく、嬉しかった……」


 照れてモジモジしてる彼女は凄まじく可愛いな。


「コホン。あーー。イチャイチャしてるところ悪いのだが。勇者称号の授与式を始めても良いか?」


 俺たちは国王の言葉に慌てるのだった。


 そうして、勇者の称号が俺たちに与えられた。

 国王は王の間で宣言する。


「飯田  空児くうじ。並びに倉木 ゆいを勇者と認め。金貨千枚と住まいを与える」


 おおお!

 流石は勇者認定だ。報酬が豪華だよな。


 ああ、そういえば、割井わるいたちとの賭けを忘れちゃいけないよな。

 俺が勝ったら有金を貰えるんだった。


 って、ことで、俺は気を失ってる2人からしっかりと有金を貰った。

 勿論、ゆいと山分けだ。この金で美味しいスイーツでも食べよう。


「さて、勇者 空児くうじよ。そなたらを異界より呼び寄せたのには訳がある」


 確か、厄災から王都を守ることだよな。


「そなたのステータスは素晴らしい数値だったな。レベルが20にも到達しておる」


「ありがとうございます」


「しかしな。敵は強い」


 え?


「と、言いますと?」


「来たる厄災とは魔神の襲来のことなのだ」


 魔神か。


「やはり強いのでしょうね」


「うむ。そのレベルは100を超えているというからな」


 おお、強敵だ。


 その時である。

 

ドシィイイイイイイイイイン!!


 とてつもない轟音が王都に響いた。


 城外に出ると、丘の向こうに見たこともない城が建っていた。


「なんだあれぇ!?」


 あんな城、いつ建ったんだ?


 その時である。

 可愛い声が空に響いた。


「キャハハハ! 我が名はザルディナ。お城ごとさ。こっちに来ちゃった!」


 はいいい?


 すると、俺たちの前に何かが飛来する。


ドォオン!!


「やっほーー! エヘヘ。おまえが勇者か?」


 それは緑の髪をしたポニーテールの美少女だった。

 年は小学生高学年くらいだろうか。

 華奢な体でとても強そうには見えない。

 しかし、ポニーテールの先が蛇の頭になっていることから人間でないのはわかった。

 

 その正体は国王の絶叫で判明する。


「ま、魔神ザルディナだ! 魔神城とともにやって来たのだ!!」


 ええ!?

 もしかして、あの大きな城を持ち運んだのか?


 俺たちの冒険はまだまだ続きそうです。



おしまい。




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異世界行って食べて最強〜スキル「食事」で落ちこぼれ扱いされたのだけど、陰ながら努力してたら強くなってました〜 神伊 咲児 @hukudahappy

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