第4話 推しのつくるご飯はなんでも旨い

「ほおら、ご飯作ったぞぉー!」

 

 エプロン姿の綾音が、料理を持ってきた。

 ピンクのフリルがついたエプロンと、髪をポニーテールにしている。

 ベビーシートに座らせた俺の前に、お皿を置く。

 せっかく推しが作ってくれた料理だけど……俺の目の前にあるのは離乳食だ。

 オレンジのゼリーを、綾音がスプーンで掬った。

 

(綾音が作ってくれたんだ。おいしく食べないと!)

 

「はい! あーんして♡」

「おぎゃ!」


 俺は精一杯、小さな口を開ける。

 そっと、ゆっくり、綾音がスプーンを口に運んでくれる。


「おぎゃおぎゃ!」


 とびっきりの笑顔で、俺は喜びを表現する。

 小さなぷにぷにの手をバタつかせる。


「……う、嬉しい! おいしいんだね! もっともっと食べて♡」


 綾音はどんどんゼリーを俺に食べさせる。

 俺は手も足も動かしまくって、おいしいおいしいとアピールする。

 正直……二十七歳の男の舌には薄味すぎておいしくないけど、推しが喜んでくれるなら、何杯でもゼリーを食べられる。


「あーもう! かわいい♡ かわいすぎる♡ かぁいいあスバルくんを、みんなに見せなきゃ!」


 綾音は右手でスマホを持って、


「はーい♡ 撮るねー!」


 スマホのシャッター音が鳴った。


「よぉし! Twitterに上げちゃうぞ!」


 Twitterに俺の画像を上げるらしい。

 おいおい。マジか。

 俺の画像なんて上げたら、綾音のファン——アヤメンたちがガッカリするんじゃないか?

 声優が子育てしてるなんて、夢が壊れるんじゃないか?


「えい! ツイート!」


 綾音は俺にスマホを見せながら、画像をツイートした。


 ピコン!

 ピコン!


 ツイートしてすぐに、Twitterの通知音がした。

 途切れることなくずっと。

 うん。さすが人気声優の綾音だ。俺のようなおっさんのアカウントとは戦闘力が違いすぎる。

 てか、俺の綾音をフォローしていた推し活アカウントは、今どうなってるんだろう?

 前の俺は死んだから、誰もログインできないが……


「あ! みんなスバルくんが大好きだって!」

「おぎゃあ?」


 俺がゼリーを食ってる画像に、リプがもう300、リツイートが1000、いいねが500もついている。

 前世でフォロワーが120人にしかいなかった俺には、異世界の数字だ。 


≪あやねの子、すげえかわいい!≫

≪スバルくんイケメン!≫

≪俺もあやねにあーんされたいぜ……≫

≪尊い。ひたすら尊い≫

≪砂糖は吐きそうで草≫


「バズってるよ! スバルくんすごい!」


 綾音が俺の頭を撫でた。


「スバルきゅんはかわいいな……そうだ! ご飯食べ終わったらママと一緒にお風呂入ろうねー♡」


 お、お風呂だって……!


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