ここは(今更)譲れない その3

『“転生追放ギルド”さま


(なんか儀礼的なあいさつが長いので中略)


アケアイモス王国(こちらの公用語ではスパルトーと呼ばれていますが、現地ではこう言うそうです。よく転生者さんが『イギリスとUKみたいなもんか』とおっしゃいます)第四王子テオニポスと申します。


(なんか前振りが長いので中略)


 さて、今回依頼したい内容なのですが、貴ギルドの冒険者を一名、半年ほどお借りしたいのです。と言うのも、我がアケアイモス王室は半年後に、“王位継承者選抜の儀”を控えているのです。


この“王位継承者選抜の儀”は、

「王位継承権を有する王子たち(女性も含める)が、各々専属の家臣の中から一名をパートナーに選び、次期国王の座を目指してトーナメントを戦う」

というもので、アケアイモスの


(以下長いので中略)


という、歴史と伝統、国民の精神性にのっとった、意義深いものなのです。


 その“王位継承者選抜の儀”を勝ち抜くために、どうか貴ギルドの協力を仰ぎたいということなのです。

半年と長い期間を申しますのも、ご理解いただけることと思います。家臣を参加させる儀で、直前になって他所から強者を雇っていてはどうでしょう? そう、優勝したとて国民からの心象が悪い。

そういうわけで儀の前後一定期間、冒険者には私のもとで家臣として過ごしていただきたいのです。


(あとは割とどうでもいいし、読みにくい内容だったので後略。なんで中途半端に賢い人って、読みにくい文章書くんでしょうね? え? おまえの書く履歴ダイアリーも読みにくいだろ、って? うるせぇ履歴ダイアリーの角で殴るぞ)



アケアイモス第四王子 テオニポス』






「どう思う?」

「半年程度だったら、どのみち心象悪いと思います」

「そこ⁉︎」


オーナーの軽い問いに、明後日へ回答をするトニコ。こいつ頭イカれてやがる。


「どうもこうも、こんなの受けたらガッツリ内政干渉じゃないですか!」

「うはは、違いないね」


うははって、の重大さが分かってないのか、この馬面髭。こいつも頭おかしいぜ。

ここは唯一まともな倫理観で正常な判断ができる、天才美少女受付嬢モノノちゃんがリードしなければ!


「こんなもの断る一択です! もし国王に『自国の王位継承に他国のギルドが介入した』なんて知れたら、大大大国際問題ですよ⁉︎」

「なんだ、いつものことじゃん」

「トニコは私に恨みでもあるの⁉︎」


トニコが目線で無言の圧をかけてきたので黙ると、オーナーが助け舟のように話を進めてくれました。


「確かにあまりお行儀のいい仕事とは言えないね。でもまぁ、考えてみてもいいんじゃない?」

「オーナー」


彼は引き出し内のヒュミドールから葉巻を取り出すと、それを両手で弄びながらデスクへ両肘を突きました。


「ウチのギルドはさ、国際問題になる・ならないは別にして、他国に多くの冒険者を派遣している。そして案件の中には国家として要請を出されたものや、政治的な要素を含み国体を左右してしまうようなものも多くある」


オーナーは一呼吸置くようにカッターを取り出し、葉巻の吸い口を切ります。


「だというのに、僕ら自体は対等な『国家』なる存在ではない。国のデリケートな部分に踏み込まなければならないのに、その結果起きるかもしれない不都合や軋轢なんだかんだに対する対抗手段や後ろ盾が、実は乏しい。いくらウチが武力という面では世界最高の集団でも、政治的な争いや裁判になると『国家』という地位や特権がない分、立場が弱いものさ」


ここで葉巻にマッチで火を吸い付け、うっとり煙を吐き出すオーナー。甘いお香のような匂いがしますが、やっぱり副流煙はキツいわ。


「そこに一つ後ろ盾となってくれる国があれば、だいぶが変わってくるよね。彼らは必ず、僕らが潰されたり損しないように仲裁してくれる。今までモノノちゃんがやらかしてきた国際問題も、そういうコネクションで命拾いしてきたんだよ?」

「あれらは正直、私のせいじゃないと思うんですが……」

「ま、とにかく、をしてもらえるよう、普段から種を蒔き恩を売っておくのも悪くないというか、僕らみたいな仕事じゃマストと言えるわけだ。それこそ、『僕らのおかげで王位につけた』というような、頭の上がらない人をね」

「悪い大人だぁ」


他人事みたいに呟くトニコ。こいつはさっきから話の内容分かってるんでしょうかね?

でもまぁ実際に悪い大人みたいな(というかオーナーは事実悪い大人)笑顔を浮かべたオーナー。いったん葉巻を灰皿に置くと、顎の前で両手を組みました。


「だからさ、モノノちゃん。『半年外国に行くことんなってもいい』って言ってくれる冒険者がいたらでいいから、ちょっと検討してみてくれるかな?」


いつも以上にマネジメントのプレッシャーが肩に乗るのを、私はズシリと感じました。

え? いつもはプレッシャー感じずテキトーにやってるだろ、って? 葉巻の煙吹きかけるぞ(吸えない)。






 こうして危険な案件を検討することになったわけですが、「せっかく異世界に来たんだから、もっと多くの国で暮らしてみたい」とおっしゃる転生者ナオキさんがいらっしゃったので、結局受注することになりましたとさ。



 それが数ヶ月前のこと。『スパルトー王国で“王位継承者選抜の儀”始まる』という記事が出たのが、一週間ほど前のこと。

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