ここは(今更)譲れない その2

 さて、そもそもの『スパルトー王国の案件』とはいかなるものか、ですよね。

実はこの案件、数ヶ月前から続いているもので、始まりは一通の手紙でした。






 私がいつものように朝イチの手紙確認をしていると、紙質からして貴族レベルの綺麗な封筒からお金がない人のヨレヨレの便箋まで雑多な中に、それはと紛れ込んでいました。

立派なデザインの封筒は、しっかり蝋どめがなされていますが、


「ん?」


その判の形は『完全記憶』の私を持ってしても、思い当たらないものでした。つまり、初めてのお客さま。


「あれ? でも、送り主はスパルトー王室から……」


スパルト王国からの公的なお仕事の依頼は、今までもありました。なのに見たことがない判ということは、


「少なくとも、国王を通していない、な依頼の可能性大だね」

「うわビックリした!」


いつの間にか正面にいたのはトニコ。新聞片手に流動果実スムージー飲んでる。美容と健康ってか? へっ!


「ていうか、なんでトニコがそんなこと分かるの」

「だってその蝋どめのマーク、スパルトーの第四王子が最近使い始めたやつだし」

「へぇ〜、どうりで見たことないわけだわ。詳しいんだね。受付嬢でもないのに」

「モノノちゃんがうとい分、ニュースには詳しくしてるの」

「なんだと?」


シュッシュッとシャドウボクシングの応酬をする私とトニコ。誰がギルドのことしか頭に入ってない脳みそ引き篭もりじゃ!


と、こんなことしてじゃれてる場合じゃありません。こういう手紙が来た時は、


「オーナー!」






 私とトニコの二人は、未開封の手紙を持ってオーナーの部屋に移動しました(トニコが来る必要は特になかったんですが)。


「ふぅん。第四王子として個人の紋を作ったってことは、立派な政治的一個人、『王位継承者候補の一人』になったってわけだ」


オーナーは椅子の背もたれに沈みながら、ちょっと真面目そうな声。


「それがどうかしたんですか?」

「つまり王子さまのお悩みは十中八九、降ってきた跡目争いに関係ありそうってことさ」

「うへぇ」


さすがオーナー、伊達に胡散くさくない。こういうキナくさい話には精通しているようです。


え? どうしていつもは自分で案件を処理するのに、今回はオーナーへ持っていったんだ、って?


それはですね、さっきトニコが言ったとおり、非公式の可能性大だから。


だって想像してみてください。国家の身分ある人が、国王を通さずに依頼。しかも当ギルドはチート冒険者さまを山ほど集めた、世界最高戦力を保有していると見て間違いない集団です。

……はい、お分かりですね。



結構ね、クーデターのお誘いとか来るんですよ、ウチ。



さすがにそういう内容だったら、私みたいな一受付嬢で判断できる問題じゃないでしょう?

一国の政治を揺るがすわ、国際問題になるわ、ギルドの今後の身の振り方が変わるわ。

こういうことは、オーナーが責任持って舵を取る案件です。


え? 今まで散々おまえのマネジメントミスで国を揺るがして国際問題起こしてきただろ、って?

うるせぇ、おまえの実家に冒険者さま送り付けるぞ。


というわけで、怪しい封筒が来たらまずオーナー。そして、受けるにしろ受けないにしろ、依頼内容が周囲に漏れてロクなことはない可能性が高い。ということで人に見られないよう、迂闊に開封せず、密室で確認するのです。

だから本当はトニコがいちゃいけないんですよ。


「じゃ、開けるね」

「は、はい……」

「緊張してきたね……。なんかお腹痛い」

流動果実スムージー腐ってたんじゃないの?」


緊張感ない会話をしているうちに、オーナーがナイフで手紙を開封!

その内容とは……

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