ここは(今更)譲れない その1

「モノノちゃん大変!」

「シャーッ‼︎」

「威嚇⁉︎」


カウンターで手紙を書いていると、トニコが襲来してきました。立ち去れ! 凶なるしらせを呼ぶ悪しき妖精よ!(トニコは人間です)


「いい年して意味不明なリアクションしないの!」

「うるさーい! 嫌じゃ嫌じゃ! 聞きとうない! どうせまたワシがなじられるような恐ろしい話なんじゃ!」

「逆に魔女レベルまで老けないの!」


トニコがカウンター来客用の椅子に腰掛けました。こいつ、居座る気だ! 追い返すことができないなら、せめて余計な話を引き延ばして、本題に入れなくしてやりましょう。


「どうせ今回も嫌な話なんでしょ?」

「そうに決まってんじゃん」

「決まっ……」


トニコからの扱いにおうち帰りたくなりましたが、黙ると死刑宣告が始まってしまうので踏ん張りましょう。


「だったらもっと伝え方に気を使って!」

「伝え方ぁ?」

「私が傷つかないように!」

「どうせ後で酷い目に遭うのに?」

「うぐっ」


そうですよ、どうせ酷い制裁を受けますよ。ボーナスカットとかボーナスカットとかボーナスカットとか。

でもね、女はね、わずかでも夢が見たい、騙していてほしい生き物なの……(諸説あります)。

それを同じ乙女なのに分かってくれないトニコ、呆れて見下すような顔でこっちを見ています。メンドくさそうとも言う。


「で、具体的にどう伝えたらいいわけ?」

「まずファーストコンタクト!」

「はぁ」

「『モノノちゃん大変!』はダメ! もうそれが地獄の入り口だって私覚えちゃったから! それ聞くだけで心臓がキュッてなるの!」

「生活習慣病?」

「失礼だなオマエは!」


なんだコイツ、容赦ない。私への伝え方以前に、根本的な思いやりが欠落してるんじゃないの⁉︎ カウンターに頬杖つく姿はすごい態度悪い。授業中にやってたら先生をイラつかせる感じ。


「とにかく! 私の小鳥のようにか弱い心臓は、その刺激には耐えられないようにできてるの!」

「テメェみてぇな厚顔無恥の塊がそんなタマかよ。カマトトぶってんじゃねぇよ図太いの擬人化がよ」

「シャラーーーッッップ‼︎ とにかく話が始まる前から私を傷つけんじゃないよ!」

「じゃあ聞くけどさ」


もう呆れて私を直視しなくなったトニコ。たぶんその目は飛蚊症追いかけてる。


「何!」

「私が『ねぇねぇモノノちゃ〜ん』って、近所にいいパン屋でも見つけたノリで話しかけるとするじゃん?」

「うん」

「それにモノノちゃんはウキウキで『なぁにぃ?』って聞き返すわけだ」

「私そんなあざとい喋り方しない」

「黙れ。で、すかさず私が『おい、おまえが派遣したパーティー、事件起こしたってよ』」

「……」

「どう? 心の準備ができてるのと騙し討ちされるの」

「……これからも、いつもどおりお願いします……」

「よろしい」


みんなぁ! トニコが冷たいよぉ! 『おい』とか絶対言わないくせに、脅す用に語気強めてるよぉ!

私の悲しみを気遣うことなく、トニコの冷たい調子は続きます。


「本題入っていいかな?」

「はい……」


こんなことなら、いつもの『モノノちゃん大変!』な明るく軽いトニコに水を差さなきゃよかった……。こいつ、マジになるとマジなやつだ。


あれ、じゃあ普段のって、キャラ作って……?


「聞いてる?」

「はいはいはい!」

「聞いてなかったよね。もっかい頭から話そうか」

「お願いします……」


トニコは私がカウンターに出しっぱなしにしていたクエスト履歴ダイアリーを、パラパラ捲りはじめました。


「あのスパルトー王国に派遣した冒険者さん」

「あぁ、あれね」


トニコは履歴ダイアリーを閉じると、視線をこちらへ戻しました。

そして、当ギルドに所属する最強チート冒険者さまのことを思えば、ある意味普段の国際問題とかより信じられないようなことを、静かに呟いたのです。



「クエスト、大失敗に終わったらしいよ」

「なんだって⁉︎」



……『普段の国際問題』って文章は、ちょっとパワーワードが過ぎますね。泣きたい。

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