スキル:品性 その2

 まず今回のパーティーコンセプトはこうです。ポーアン・プルセーン国境は無人の平原広がる緩衝地帯。なのでまぁ、派手にドンパチやってもポーアンに被害は出ません。


 ということで! ここはまず『雷神』ラクシャさんに、雑に落雷で脅しをかけてもらおう! それでプルセーン騎士団が引けばヨシ、引かなければ軍師キョウヘイさんがなんか策を考えてくれるはず! そういうプランでした。


 じゃあカトリンさんとユージィンさん、残ったお二人の役目は何かというと、カトリンさんはもちろん保険のヒーラーです。

保険って大事ですよねぇ‼︎⁇


 そしてユージィンさん。彼はいわゆる狙撃で言うところの、観測手スポッターなるポジションです。

 観測手について軽く説明しますと、敵がどこにどの距離でいるか観測したり、風向きや天気などの狙撃に影響する環境条件を観測したり、着弾を観測したり、あとは近接戦では不利な狙撃手の護衛も務めたりするポジションです。要は狙撃手が狙撃に集中できるようにするサポーター。

それを任されたのがユージィンさんなのです。もちろん彼が観測手に任命されたのには理由、適正があるわけで──






「どうだ、ユージィン。見えるか?」

「あぁ。騎馬で先鋒がざっと五百前後」

「へぇ」


ここは国境、緩衝地帯。ご一行は高台に陣取り、茂みに身を隠してプルセーン騎士団を待ち受けていました。そしてちょうど今、連中が現れたところ。


「しっかしおまえ、望遠鏡もないのに、よくもまぁそんな遠くが見えるよな」


呆れているのか感心しているのか。鼻からため息をついたラクシャさんの視線の先のユージィンさんは、うつ伏せ状態はいいとして、裸眼で遥か彼方を見据えます。


「あぁ」

「俺にゃなんも見えねぇ。ユーさん目ん玉どうなっての」


キョウヘイさんが後頭部へ声を投げ掛けると、ユージィンさんはプルセーンがいるらしい辺りから目を逸らさずに語り始めました。


「俺はスキル『観察』を持っていてな。まぁ正直、視力周りが強化され、相手がよく見えるだけのハズレスキルだ。最初にいたパーティーでもそういう扱いだった」

「ほーう」


こういう時に微塵も同情的な声色にならないのが、カラッとしたラクシャの姉御です。


「だが俺の場合は違った。なんとかこのスキルを活かそうと研鑽しているうち、観察力が高じて『わずかな本人や周囲の状況・情報から、見ている相手の未来を予知』できるまでの実力に成長したんだ」

「それはすごいですね」

「武道の達人みたいだ」


カトリンさんとキョウヘイさんが大きく頷くも、相変わらず振り返らないユージィンさんからは、わずかに苦笑の気配。


「みんなそう評価してくれる世の中ならよかったがな。現実は冴えないものだ。俺はスキルを使って普段から周囲に生息するモンスターの動きを予測し、無用な会敵をしないよう仲間を誘導していたんだ。結果、報告が常に『近くに敵の姿はない』となるもんだから、仲間から『こいつ何も見えていない』と判断され追放された」

「あー……」

「お察しします」

「ま、お前、口ベタだもんな」

「ラクシャさん!」

「ははは。いいよいいよ、事実だから」


カラカラお姉さん(お肌の話じゃないですよ?)の失礼な人物評も流してくれるユージィンさんですが、すぐに肩がピクリと強張ります。


「ラクシャ、準備しろ。連中が川に差し掛かったところで

「あいあい。あの川だな? アタシにもやっこさんら、見えてきたぜ」

「合図したら落とせ」


腕まくりして舌を出す『雷神』と、右手を挙げる観測手。やがて馬の立てる土煙が水飛沫に変わり始めたところで、



サッとユージィンさんの右手が下がり、同時に見るだけで目を焼かれるような閃光も大地へ!



カトリンさんが「腰を抜かすので正直組ませないでほしい」とコメントするほどの轟音と衝撃のあとには、


「やりぃ!」


ここまで悲鳴は届かないものの、想像はできるような勢いで逃げるプルセーン騎士団。


「これで連中も俺たちが来てることに気づいただろう。あの慌てぶりだし、ここから無理押しはしてこねぇと見た」


腕を組み見解を述べる軍師キョウヘイさんと、それを聞きカトリンさんにガッツポーズでの前腕伸筋群ハイタッチを強要するラクシャさん。

これにて一件落着、クエストは完璧にこなした、と盛り上がる一同ですが……。



「なにやっとるんだ、このバカ!」

「いてっ!」



唐突に立ち上がったユージィンさんが、軽くペチリとラクシャさんの頭を打ったのです。

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