スキル:品性 その1

「なんだなんだ!」

「どうした!」

「何があったの!?」


「むぐ?」


カウンターでイチゴパフェを貪り小腹を満たしていると、なんだか外が騒がしい。そしてその声は、どんどんこちらへ近づいているような……。


ガランガランガロン!


ほら、やっぱり。ドアベルが普段より荒い音を奏で、ズカドカと床の板目が心配になる足音も続きます。

嫌だなぁ。やからに真っ先に襲われる(多少の語弊を含みます)のはいつも受付、損なポジションです。手当て付きませんかね?

手当は付かんが因縁は付けてやろう、では困るので、私が相手を直視しないよう、意図的に目の焦点を曖昧にしていますと、


「ただいま! クエスト終わった!」

「あ、お帰りなさい」


 現れたのはクレーマーかタチの悪い新規登録希望冒険者ではなく、



……誰?



真っ黒焦げで赤髪爆発アフロになった長身女性が、カウンター前に仁王立ち。誰? こんなパリピ知らんよ?


「えーと……」

「ほい、これ、ポーアン国王の感謝状!」

「えっ」


カウンターに力強く叩き付けられたのは確かに国王の感謝状。

それにしても、ポーアン王国、ですか? 確かに冒険者パーティーを派遣しましたけど、ということは……。目の前の人物を声、体格から推測すると……


もしかして当ギルドの『雷神』魔女ラクシャさん⁉︎

いやいやいや! ありえない! 褐色肌ではあったけどこんな煙突掃除した人みたいな色してないし、髪は長いストレートだったし、気の強い女傑ではありますが不機嫌爆弾低気圧を撒き散らすようなお方でもありません! もういったい何があったのやら!


でもまぁ、とにかく知っている姉御なので、クレーマーより怖くはありません。私が目の焦点を正常にして彼女と向き合うと、その肩越しに見えるものが。


「ん……? げっ‼︎⁇」



 なんとそこには、真っ黒焦げ爆発アフロ判別不能さんマークIIが佇んでいるではありませんか!



「えっ? えっ? なにあれ? 見えていいやつ?」


混乱した私ですが、ゲーム&ウ◯ッチ状態の人物の横に、前世は大学で孫子(すごい兵法家なんだとか)を研究していたキョウヘイさんと、大賢者の心臓を移植されたカトリンさんがいるのが見えました。

このお二人はラクシャさんと四人パーティーを組んで同じクエストに行ったはず。となると、あの黒子さんはまさか……、


「ユ、ユージィンさん……?」


私の呟きに、黒いピクトグラムがゆっくり頷きます。


そう、彼こそが今回のパーティー四人目、ユージィンさんなのですが、



私の知ってる彼は、あんなウェルダンステーキみたいな見た目してない‼︎



 いえ、元から薄く日に焼けた肌なのですが、今の状態はさすがにおかしい! ラクシャさん以上、五段階くらいすっ飛ばしてヤバい変貌を遂げている! 進化論が泣いて逃げ出し『このミッシングリンクは太古の昔、宇宙人が地球へ飛来して生物の遺伝子操作をした証拠に違いないんだよね』と陰謀論が台頭するレベルです! だって人型ということ以外、何一つ元と一致しないもん! 何があったの⁉︎


 何一つ私の理解が追いつかないうちに、ラクシャさんがダン‼︎ とカウンターに拳骨を落としました。

おっといけない、遠くの影より目の前の対応! 私が長い思考のカオス・コズミックから解放されると、彼女は拳骨と逆の手を伸ばして、背後のユージィン(仮)の方を見ることなく指差しました。



「あのなぁ! 二度とアイツとパーティー組ませんなよな‼︎」

「え、えぇ……」



本日何度目かの『何があったの?』。

たまたま近くのテーブルで新聞読み漁っていたミネミタさんに、オールブラックスを復元してもらいながら(どうしてカトリンさんは治してくれなかったんでしょうね?)話を聞くと、どうやらことの顛末はこういうことだったそうなのです……。






 そもそも今回彼女らが派遣されたクエストというのが、言ってしまえば傭兵でした。


 実は本ギルド、世界警察みたいなことをしているのです。

軍事力に乏しい国家が列強の侵略戦争に巻き込まれそうな時、冒険者さまを派遣して、侵略側が『勝てない戦争・労力に見合わない戦争』にする。そうすることで相手を引き下がらせたり、調停のテーブルに着かせたりする。それでも諦めない方にはボコられて心折れていただく。

そうすることで大きな戦争や悲惨な蹂躙、泥沼の時代へ発展させないという仕事。


これがまた、ご依頼いただく時はクライアントが国家、存亡のかかった一大プロジェクトなので儲か……ヴッヴン(咳払い)、大事な仕事なのでオーナーが力を入れているのです。



 そんなわけでラクシャさんご一行は、プルセーン公国迫るポーアン王国へ派遣されたのですが……。

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