第7話 【バブル後】


  バブルが崩壊するまでは夫婦共働きで何不自由なく生活していた悟と留美だったが、崩壊後、留美が退職したのに伴い、徐々に生活は苦しくなっていた。

 悟は、怠けることなく懸命に仕事をし、遊びにお金を使うこともなかったが、いっこうに生活は良くならず、日々、ギリギリの生活をしていた。 留美とは仲良くしていたが、そこだけは留美にも両親にも申し訳なく思っていた。 そしてある日、悟は、そんな気苦労と仕事の無理がたたり脳出血で倒れ、左半身にマヒを遺した。

 懸命のリハビリで仕事に復帰を果たすが、給料は変わらず、相変わらずギリギリの生活を送っていた。


◇◆


  倒れてから8年、名古屋に住んでいる悟の高校時代の同級生が突然、博多で会わないかと電話してきた。 悟は、35年ぶりの急な再会に一体どうしたのだろう。変な商売の誘いとかに来るのだろうかなどと不安になりながらも博多へ向かった。駅で待ち合わせをし、喫茶店でお茶を飲んで話をしていたが、しばらくして、若くてスタイルのいい可愛い女性が現れた。50代白髪頭の男二人でどんな話をするのかと不安だった悟は、そこからテンションを上げてしまった。 そして同級生の話は、こうだった。長い間、大きな病院の取締役をやっていたが、取締役会のドロドロがいやで身体を壊して退職することにした。 今は、自分で会社を立ち上げ独立したのでこちらに商談しに来たついで会えないかと連絡した。 今夜、一緒に飲みに行こう。

 悟は、同級生に連れられ、その若い女性と一緒に中洲のちょっと洒落た和食の居酒屋へ行った。 個室に着くと、もう一人綺麗な若い女性が待っていた。 そう、同級生は、中洲のクラブのお姉さん二人をいわゆる同伴という形で自分のためにも、悟のためにも呼んでいたのである。 もうひとりもスタイルが良くて可愛い。 悟は、テンションが上がるのを抑えながら挨拶を交わした。 同級生と彼女たちはメニューを見ながら何を食べようか、


「東山さんは何を食べますか?」


などと言っていたが、こんなところへはほとんど足を踏み入れない悟には


「なんでも良いです」


と言うしかなかった。 飲み物も『生ビール』で、他は目には見えていても読むことは出来なかった。

 お刺身の盛り合わせや高級宮崎牛の炭火焼などが運ばれ、


「東山さんも食べてください」


と言われ、悟も食べたが、たくさんは食べれず、美味しいことは分かったが、味合うことはできなかった。 

やがて後で来た女の子が


「そろそろ行く時間ですね」


と言って、そこはお開きになった。 事前に『お金ないよ』と告げていた悟は、全て同級生に奢ってもらった。 同級生は外に出ると、慣れた手つきでタクシーを拾い、悟たちを乗せて中洲の中心部辺りと思える、お姉さんたちや人がたくさん歩いている付近のビルの前まで連れて来た。

 そのビルの二階に彼女たちのお店はあった。 中に入ると、壁は高級そうなツヤツヤの茶色い板張りで、照明は、シャンデリア。 壁のところどころにもニ灯式の灯りがあった。 ソファは、赤のチンチラで長手の椅子の前にテーブル。 それを囲んで二人掛けぐらいの四角い椅子が置いてあり、そのパターンで10組ぐらいあった。

 こんなところに来るのは、バブル時期の会社の接待以来で、とても緊張していたし、男性、女性、男性、女性と交互に座ることにも悟は違和感を感じていた。


――まさか触ったりするんじゃないだろうな?


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