第三章 お披露目会
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第53話:神薙様は大忙しです
◇◆◇
お披露目会 当日──
朝、集合した皆を前に、オーディンス副団長は爽やかな声で「おはよう、諸君」と言った。
「昨晩も話したとおり、今日は我々の戦である。ここにいる人数だけでも一個小隊くらいはいるわけであるから、指揮系統はしっかりと決めておく必要があろう。本日の少尉は、侍女長フリガ・バークレイ子爵令嬢とする」
侍女長が「へええっ?」と声を上げた。
本人に打診せずに任命するなんてヒドイ将軍だ、と部下からツッコまれ、ドッと笑いが起きる。やや緊張気味だった場の雰囲気が一気に緩んだ。
言った本人も笑っていたので、皆をリラックスさせるためだろう。
「少尉は冗談だが、彼女からの依頼および指示は、神薙のそれと同様、最優先とする。今日は大変な一日になるだろう。しかし、一人で苦しむな。困ったら近くの騎士に相談してほしい。互いに支援し、最善を尽くして共に戦おう!」
うおおー! という騎士の雄叫びと共に、激動の一日が幕を開けた。
予定は十一時半からランチ会、十四時半からお茶会、そして十九時からお披露目会だ。
すべてドレスとヘアメイクを変えなければならない超過密スケジュールだ。家と王宮エリアを行ったり来たりしているようでは、到底間に合わない。
一歩でも現場に近い場所に泊まりたいとお願いしたところ、王宮の離れ(敷地内にある小さな離宮)をお借りすることができた。
前日の朝早くから身内を引き連れて移動し、一泊して当日を迎える。そして、お披露目会が終わった後は、もう一泊させて頂く予定だ。
時間内に支度を済ませるためのリハーサルは入念に繰り返してきていた。家でもたくさん練習をしたけれども、現場でも一度流して最終確認をした。
侍女が中心となるお色直しもさることながら、騎士団も大変だ。彼らはわたしの護衛の傍ら、二か所の宝物庫から高価なものを出したり戻したりしなくてはならないのだ。
オーディンス副団長に、どのくらい高価なのか訊ねると、「ジェラーニ副団長が打ち合わせ中に軽さを失うくらい、と言ったら目安になりますか?」と冗談っぽく言った。
「はあぁ、それは相当ですよねぇ」と返したところ、くすりと笑いながら「ええ、国宝ですね」と、彼は言った。
誰にとっても失敗できない日だった。
皆の士気は高く、体育会系の部活に近いノリになっていた。リハーサルの最後は全員で円陣を組み、「明日は一丸となって頑張るぞ!」「うおー!」という雄叫びで締めていた。
わたしは元来そっち系の人なので良い。しかし、貴族令嬢である侍女まで楽しそうに「うおー」をやっていたのは可愛くて新鮮だった。
最初のイベントは、重鎮のオジサマ達とのランチだ。
この国のオジサマは格好良すぎて、五人も集まると色気が渋滞し、なんとも目のやり場に困る。
なんとか大臣、なんとか卿……名前がちっとも頭に入らないけれど、ざっくり言えば陛下のご学友イケオジ軍団だった。
唯一、すぐに分かったのはオーディンス総務大臣だ。
イケ過ぎている仏像ことアレン・オーディンス副団長のパパ様だ。メガネを外した彼と顔と声が激似だったので、すぐに分かった。もう、未来のイケ仏様はイケオジ確定だ。
パパ様は冗談好きで、とても楽しい方だった。
日頃、陛下が「リアと食事をした」だの「リアが好きな茶が」「リアがくれたパイが」と、周りによく話しているらしく、お仲間からズルイと言われて実現したランチ会だそうだ。
そのせいか、わたしはオジサマ達から猫可愛がり状態になってしまった。
さぞお堅いランチだろうと緊張していたのに、実際はオジサマ達の楽しい同窓会にお邪魔したような感じだった。
食後のお茶が出てきた頃には、「若気の至り暴露大会」になっていて、会場となったダイニングには、オジサマ達の「がぁっはっはっは!」という豪快な笑い声が響いていた。
なんとも楽しい爆笑ランチだった。
お開きの時間が来ると、思い思いに「そろそろ大臣のフリでもするかぁ」などと冗談を言いながら、皆さん仕事場へ戻っていった。
陛下は優しくわたしの肩を抱くと、「もし、私に何かあったときは、彼らを頼りなさい」と言った。
そのとき、陛下が信用している人達にわたしを紹介するための食事会だったのだと分かった。
その優しさにジーンときた……。
しかし、悲しいかな、その余韻を味わっている時間がなかった。
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