第4話 深層から上がる道



:深層ってなんでこんなに明るいんだろう

:明かり持ってなくね?



「恐らくだがこの洞窟自体が特殊な鉱石で出来ているからだ。この特殊な鉱石は深層の中では何百と種類があって、この深層の通路になっているものは特殊なエネルギーを常に微量放出している。そのため光が無いはずのこの場所が明るいんだ。このエネルギーは人体には影響はないが、モンスターに対して栄養があるらしい」


「それって根拠はあるんですか?」


「実験を繰り返して得た結果とだけ答えておく」


 スタスタと男は歩きながら端末の画面を見ながら喋り、あかねの質問に対してはぼかしながら答えていく。


 あかねは厚着の下に対刃性のあるチョッキを着こみ、背中には企業産の大容量のリュックサック。手は鉄板の入った丈夫な手袋にどう見ても撲殺すると言わんばかりの棘のついた棒を持っている。


 それに対して男はTシャツにくるぶしまである綿パンツ。腰には手製のポーチを巻き、その右手には純白な剣と左手にはハンマーを持っているだけ。


 一見、装備の差は大きいと思えるだろう。だが、武器や装備の性能は男の方が圧倒的に上回っている。


 あかねの装備は中層までなら通用するが、この深層のモンスターに対して防具は大した効果を得られない。攻撃一つで容易くひしゃげてしまうだろう。


 厚着で動きにくいあかねの装備に対して男はいつでも回避しやすい装備に本人が簡単に振ることができ、なおかつ手軽に投げられる物を持っている。



:その装備何?

:どんな鉱石使ってるんだろう

:白いからステンレス?

:ハンマー堅そう

:キメラの頭潰せるハンマーってなにさ

:多分、素のステータスが違うんだよ



「皆さん装備に興味を示してるみたいなんですけど」


「この深層で採掘したものを使用している。適当にアダマンタイトとかミスリルとか伝説上のものから名付けてる素材だ。地上でどう呼ばれてるかは知らないが」


「えーっ!?確かに深層にある鉱石はそんな感じで呼ばれてますよ!でも、加工が滅茶苦茶難しいって聞いたことあるんですけど」


「確かにな。並大抵の火力じゃ溶かすこともできないし、曲げることも非常に困難だ。こいつも初めて加工した時は苦労した」


 そう言って男は白い剣を前へ掲げる。明るいとはいえ光が入り込んでいるわけでない洞窟で、その刀身はきらりと輝いた気がした。


「こいつはヒヒイロ金で加工した23代目の剣だ」


「ヒヒイロカネ!?超レアな鉱石じゃないですか!」


「上じゃそうだろうな。だが、ここだとそれなりに採れる。使い捨て出来るくらいにはな」


「金持ちの自慢かな?」


「君達が命懸けで手に入れるものを日常的に手に入れてるだけだ」


 フッと鼻で笑うように、あえて嫌な奴を演じながら男は答えた。



:うわ腹立つ

:でもこんなところに居る奴だしなぁ

:本当に人間か?

:道中もモンスターに遭遇してるんだよね

:手持ちハンマーで倒せる奴じゃないんよ

:どんな速度で投げたらモンスターを貫通するの?



 そう、何気に解説しながらの散歩のように見えるが安全の度合いは非常に低いのだ。


 喋ってる都合上、声に反応してモンスターは寄って来る。基本的にこの男しか深層に居ないため人間の喋り声というのは珍しいのだ。


 たまに深層に挑戦する人間が居るが、喋り声や掛け声が珍しいため耳の良いモンスターが非常に寄ってきやすい。


 そう言った類のモンスターは深層では弱い部類に入るが、それよりも上の階層だと十分に強者の部類に入る。


 そう言ったモンスターが食料として人間を襲うため、実は声を出しながらの探索は非常に高レベルなものになってしまう。


「だから、こういった喋りながらの探索は誇張無しで死に繋がるかな?」


「えぇ…………もしかしてこういった攻略配信とかもヤバい感じ?」


「ヤバいだろうね。無駄にトークばかりしてるとモンスターが寄ってくる。それに対応して戦って、その後にトークして、その声でまたモンスターが寄ってきての繰り返しになると思う」


「それで疲れたところを」


「ガブリ!奴らだってダンジョンで湧くとはいえ生物だ。格好の獲物を逃す訳がないだろう」



:はえー

:配信者がよく戦ってるシーン集できるのってそういうことだったんだ。

:嘘乙。なんも来ないぞ

:死亡率高いのってそのせい?



「実力があって体力も持つなら問題はないと思う。こんなように、なっ!」


 男はハンマーを唐突に通路の曲がり角に投げつけた。パァンッ、という弾ける音と突風があかねを襲う。


 壁に着弾したら破壊音が鳴った。ただし、壁が破壊される音ではなく、壁に擬態していた成人男性ほどのサイズの蜥蜴型モンスターの肉体が破壊される湿った音だった。


「正直なところあいつは肉は不味いし血液の成分も使えるところもない。皮は電流を通したら背後の景色と同化するが、流すための電気が割と多めに流さないと満遍なく透明化しないのでスルー安定だな」


「あのモンスター結構の探索者がやられてるやつなんですけど!?全く気付かなかったんですけど!?」


「考えるな、感じろ」


「できません!」


「冗談だ。しっかりと周りを見たら奴が居る所だけ薄暗かったりするから、そこに気をつけたら見つけられるだろう」


「人間離れしてるよぉ~」



:普通に人間離れしてて草

:玄人殺しがこうもあっさり

:人間に擬態してない?

:あかねちゃんに同意

:見てる分にはいいけど、絶対に行きたくねえな



「まあ、来ないほうがいいな。生き残って奥まで行けるかどうかは分からないからな」


 男はコメント欄の一部に同意した。


「ここは地獄みたいなところだ。異常者じゃなければここに潜ることもないだろうな」


「それってあたしも含まれてます?」


「君は事故で来ただけだろう。例の転移トラップでどこに飛んでくるかは話で大体わかったし、そっちでも対策はしてくれ…………おっと、お客さんだ」


 ずん、ずんと重い質量を持つなにかが音を立てて近づいてくる。


 無駄に曲がり角が多位置であるこの場所の、曲がり角から姿を現す。


 4mはある身体。その体のいたるところには新しい傷が治りかけていた。その首には大きな蛇の革をマフラーのように巻いており、強者の風格を持て余すことなく見せつけてくる。


「ひっ…………」



:この大鬼オーガ型ってあの時の!?

:生存競争でこいつが勝ったのかよ!

:大蛇が首元に嚙みついてたのにしぶとすぎるだろ!?

:これが深層のモンスター……

:怖い

:オワタ



 思わず身が竦み動けなくなるあかね。だが、今の彼女には最高の鉾であり盾でもある男が居る。


「こいつが最初に遭遇した奴か?まあどうでもいいか」


 動けなくなった彼女の代わりに男が前に出る。


「送ると言った手前、この子に傷を付けられる訳にはいかないんでね」


 男は剣先を大鬼オーガ型モンスターに向ける。その顔は大鬼オーガ型モンスターの威圧をものともせず、それどころか余裕の笑みを浮かべて宣言した。


「さっさと仕留めさせてもらおうか!…………使えるところあんまないし」


「いや、素材的な観点からかーい!」


 それでいいのかこの男。あかねのツッコミが虚しく響き渡った。


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