第57話 王都の市

 私達は大食い大会の賞金をもらった後、王都で開かれるという市に来ていた。


 ザラのラミルさんが言っていた通り、場所は広く多くの人がこれでもかといる。

 パッと見るだけでもかなり遠い場所までこの市というのは広がっていた。


 ここに何か私がほしい物はあるのだろうかと不思議に思っていると、ミカヅキさんが言う。


「それじゃあ。アタシは失礼するよ」

「ミカヅキさん?」

「悪いねサフィニア。ここには世界中の包丁が来ているだろうからね。1人で行動させてもらうよ。アタシのためにみんなが付き添ってくれるのも悪いし」


 そう言ってミカヅキさんは1人でいく。


 彼女の背中を見て、クルミさんが言う。


「それなら今回は別れようか。見たいものも別々にあるだろうし、どう?」

「わたしはそれでもいいのです」

「分かりました」


 2人がそう言うのであればそれでもいいと思う。

 私も色々な調味料や食材、レシピ本などあったら我を忘れて熱中するに違いない。


 私達は時間と集合場所を決めて別れ、市を見て回る。


「ちょっと……久しぶりかも。こうやって1人で歩くの」


 私は何か興味を引く物はないか、のんびりと見ながら進む。

 今まではずっと誰かが一緒にいた。

 すぐ近くには信頼できる仲間がいて、何かあったらすぐに話しかけられた。


 でも、今すぐ近くにいる人達は知らない誰か。

 別に仲良くしよう、という訳ではないけれど、これだけの人がいるのにどこか孤独に感じる。


「私は……それだけみんなと一緒にいる事が当たり前になっていたのかな」


 山奥で1人でいた。

 その時は孤独が当たり前だった。


 それが今は誰かといない事が不安になるだなんて……。


「お、あれはなんだろう」


 私はそんな考えを振り払う様にして、市で売られている商品を見ていく。



 それから少しして、私は暇になっていた。


「どうしよう……」


 というのも、私が興味がある物がほとんどなかったからだ。

 ほとんどなかった、と言っても実際はあったのだけれど、その興味がある物はほぼ全て薬師ギルドが紹介してくれた店で見かけた物だった。


 なので、別にここで買わなくても、その店で買った方がいいと思ったのだ。

 料理のレシピもないかと思っていたけれど、特にないか売れてしまったらしく、暇になってしまった。


 なので、他のみんながどうしているのかを探すことにする。


 私はそれからすぐにミカヅキさんを見つけた。


「ミカ……」

「きゃー! ミカヅキ様! この包丁を持ってくださらない⁉」

「ああ、いいとも」

「すごくお似合いになっているわ!」

「そうかい? 君がアタシに似合うこれを売っているというセンスがあるからじゃないのかな」


 ミカヅキさんに声をかけようとしたけれど、彼女は多くの女性達に囲まれていた。

 だから私は声をかけるのを諦め、他の人を探すことにする。


「あ、あそこにいるのは……」


 それから10分もしない内に、ネムちゃんを見つける。


「ネムちゃん」


 私がネムちゃんに近付くと、彼女はワールドマップを熱心にかきながら独り言を言っていた。


「これがヤンツ産の鉱石……でも今までの情報ではこんな物はなかった……」

「ネムちゃん?」

「それにこっちのゼルドって名前……とっても聞いたことがあるのです。でも彼はもう100年も前の人ですし……しかもこっちの地方にはあんまり……」

「……」


 彼女は集中しているらしく、邪魔をしては悪いと感じさせた。


 だから、私は最後の1人、クルミさんを探して歩き出す。


 少し時間がかかったけれど、私はクルミさんを発見した。

 彼女は魔道具を見ていて手に取ったりじっと見つめたりしている。


「クルミ……さん?」

「ん? サフィニア。どうかしたの?」


 クルミさんも集中していたので、気付かれるか分からずにためらいがちに聞く。

 でも、彼女はなんでもないことのように答えてくれる。


「いえ、私が見たかった物がほとんどなかったので、みんなはどうしてるのかなと」

「ああ、流石に食料品とかはこういう場所にはあんまりないかな。一緒に見て回る?」

「いいんですか?」


 私が聞くと、クルミさんは笑顔で頷いてくれる。


「もちろん。1人で見て回るよりも、こうやって誰かと回るのは楽しいからね。それに、あたしも新しい魔道具を簡単には買えないから」


 彼女はそういって手に持っていたコップの様な魔道具を置く。


「そうなんですか? さっき結構金額を手にしたとは思うのですが……」


 私がゲットした賞金は私の強い希望でみんなで分けることにした。


 みんなは私がもらうべき、そう言ってくれたけれど、私はみんなと一緒にこうやって過ごしたい。

 今はバラバラになってしまったけれど、それもみんなで分ける選択をしたから。


 私が1人で賞金をもらってしまったら、みんなはまたギルドで仕事に行かないといけなくなるから、それは私の望みじゃない。


 しかも、薬師ギルドの時も報酬はみんなで分けることにした。

 ネムちゃんがあれだけ頑張ったのに……だ。

 誰かが頑張ったからその人の取り分が多くなるのじゃなくて、どんな時でもみんなで分ける。

 それが一番だと思う。

 私達は同じパーティなのだから。


 クルミさんは私の言葉に、苦笑しながら話す。


「サフィニアは魔道具がどれくらい高いか知らないな~?」

「そんなに高いんですか?」

「そうだよ。例えばあたしが持っていたこのコップ。飲み物を入れてから温度が24時間変わらないっていう魔道具だけど、いくらすると思う?」

「え……確かにすごいので……3万ゴルド……くらいでしょうか?」

「15万ゴルドします」

「15万ゴルド⁉」


 それだけの金額だったら、私達が泊っている高級な宿で4泊もできる……。


 というか、クルミさんにとってはポーション15本分。

 絶対に買わないと私でも分かる。


「そうだよ~。結構高いでしょ? ま、それだけ良いものなんだけどさ」

「悪い物だともっと安いんですか?」

「うん。普通の……同じ効果のだと5万ゴルドくらいかな」

「3倍も違うじゃないですか。一体何がそんなに違うんですか?」


 3倍も値段が違うという話を聞いて、一体どんな違いがあるのか気になってしまう。


 クルミさんはちょっと楽しそうに教えてくれる。


「それはね、この15万ゴルドのコップを作っている商会がとってもすごいからだよ」

「商会?」

「そ、この商会の名前は《エターニア》魔道具を永遠に使えるように……っていう意味合いで作られた商会なのさ」

「《エターニア》……」

「そ、100年以上続く老舗しにせで、値段は確かにするけど、他のお店の物の3倍以上長く使えるって言われてるから、この値段設定でもやっていけるんだ」

「3倍以上も……」


 信じられない。

 そんなに魔道具に差という物が生まれるのだろうか。


 クルミさんはそんな《エターニア》のコップをじっと見つめて話す。


「昔、魔道具っていうのは結構使い捨てられることが多かったんだ。でも、1人の魔道具師が愛着を持って長く使える魔道具を作りたい。っていうのが元になったんだって」

「クルミさん。とっても詳しいですね」

「まぁね。ま、そんな感じで、何か魔道具がほしいと思ったら、この《エターニア》っていう刻印が掘ってあるのをおススメするよ。ま、時々ニセモノがあるから気をつけないといけないけどね」


 クルミさんはそう言ってコップを戻し、次のところに進む。


 私はそんな《エターニア》という商会のことについて考えていた。

 というよりも、その《エターニア》という名前について。


 ずっと続いて行くことを願って名前をつけた。

 そうであるならば、私達は……どうなんだろう……と。


 冒険者になり、パーティを組んだ。

 なら、何かパーティの名前を考えていかないといけないのではないだろうか。


 ザラで出会った《女神の吐息アルテミス・ブレス》のように、私達の名前を……。


「あの、くる「大変なのです!」


 私がクルミさんに声をかけようとしたら、ネムちゃんが慌てて走ってきた。


「ネムちゃん? どうしたの?」


 クルミさんが驚いて彼女の方を向いて聞く。


 私も慌てているネムちゃんを見ると、彼女は息を切らしながらも何かを伝えようとしてくる。


「その……今……かなり……大事な……話を……聞いた……のです」

「ネムちゃん。落ち着いて」

「おちつけ……ないの……です。実は……」


 次にネムちゃんの口から出てきた言葉は、私を絶望させるには十分な内容だった。


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体調が悪く数日更新が止まります。

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のんびり食べ歩き旅行記。 ~ぼっちだった私は冒険者ギルドの彼女達と一緒にご飯と旅を楽しみたい~ 土偶の友@転生幼女12/15発売! @doguunotomo

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