第55話 薬師ギルドのお願い
薬師のお姉さんは目を見開いてネムちゃんが作ったポーションを見ていた。
「あ、あの……何か……問題があったのです?」
自信満々に持ってきたネムちゃんがおそるおそる聞く。
すると、お姉さんはネムちゃんに掴みかからんばかりに詰め寄った。
「これ……本当にあなたが作ったのよね⁉ 今の時間で! どっかに隠していたっていう訳じゃなく⁉」
「そ、そうなのです」
「~~~!!! これなら行けるかもしれないわ!」
「な、なんなのです⁉ わたしは一体何をしてしまったのです⁉」
ネムちゃんが今にも泣きそうだけれど、薬師の人はネムちゃんに対して頭を下げる。
「ネムさん! いいえ、ネム様! このポーションの作り方を教えていただけないでしょうか⁉」
「え……えぇ? あの……話が見えないのですが……」
「あたし達のポーションの作り方も教えますから!」
「あ、あの。だから理由を……」
「ノルマがあるの!」
薬師の人は勢いよく起き上がり、ネムちゃんにすがりつく。
「ノルマがね! あたし達が作るポーションだと、一個作るのに1時間もかかるの! でも、あなたは20分でポーションを作った! それだけの時間でできるんなら、みんなをたたき起こしてやればノルマに間に合うかもしれないの!」
「ノルマは諦めてるって……」
「それでも間に合う可能性があるならやるわ! だからお願い! 色々と報酬も色をつけるから! ね!」
「べ、別に構わないのです」
薬師の彼女の勢いに、ネムちゃんは押されて頷く。
「よっしゃああああ! 早速教えてちょうだい! あ! ちょっと待っててね! すぐに他のみんなをたたき起こして来るから!」
そう言って彼女はみんなが寝ていた場所に行った。
私だけじゃなく、他の3人も
「あ、嵐のような方だったのです」
「うん」
ネムちゃんの
それからたたき起こされた薬師ギルドの人達に対するポーション作りの講習が始まった。
ネムちゃんは本当に20分でポーションを作れるらしく、薬師ギルドの人は驚いてた。
「すごい……こんな技術をあんな小さい子が……」
「だな……俺達も負けないように頑張らないと」
「ああ! やってやろうぜ!」
「無茶なノルマがなんだ! 俺達はやってやる!」
薬師の人達は口々にネムちゃんを褒めて、ものすごくやる気になっている。
ネムちゃんは嬉しそうにしながらも、ポーションを作り続けていく。
そんな頑張る人達を見て、私も彼らの応援がしたい。
だから、できることをしようとみんなで話し合う。
「それでは、私達のできる事をしますか?」
「そうだね。あたしはさっき言った通り、部屋の温度とかを変えようかな。ポーションを作るのに最適な温度とかあるだろうからね」
クルミさんはそう言って、ネムちゃんの方に向かっていく。
そして、ネムちゃんと少し話した後、部屋の温度を上げる魔法を使っていた。
後から聞いた話によると、こうすることでポーションが早くできるらしい。
「じゃあサフィニア。アタシ達もやろうか」
「はい」
私達もできる事をやるべく、キッチンを借りる。
「ここにある食材は好きに使っていいんだけど……」
「なにも……ないですね」
食料庫にはほとんど残っていなかった。
最近の徹夜で食べられる物は全て食べて、なくなった後は出前などを取っていたほどだったらしい。
「では、買い出しからですね」
「そうだね。アタシも行くよ」
「私1人でも大丈夫ですよ?」
「いいの。ほら、行くよ」
「わ、わかりました」
ミカヅキさんに背を押され、私は彼女と一緒に街に繰り出した。
「すごい人ですね」
「だね。とあそこかな?」
「あ、はい。あのお店ですね」
私達の前には『アウベニールの食料庫』というお店があった。
薬師の人に買出しに行ってくると言ったら、ここのお店は薬師ギルドにツケがきくからここで買ってきてほしいと言われたのだ。
そして、薬師ギルドと協力関係にあるらしく、なんでも……というレベルで様々な物が揃っていた。
「肉に野菜、魚、パン、調味料だけじゃなくって香辛料まで! 流石王都! すごい!」
「だねぇ。アタシの地元のものも結構おいてあるよ。お茶に米、これはモチかな?」
「ミカヅキさんの地元の品ですか⁉ 私興味あります!」
私はテンションがあがりにあがり、店の商品全てを見ていく。
そして、知らない物があった場合、それをミカヅキさんや店員さんに聞いていくのだ。
流石王都! 私の知らないものが山ほどあって、これは全部聞くまで帰れない!
「あの! これはなんですか⁉」
「ああ、それはですね」
「と、ちょっと待ってください」
「ミカヅキさん?」
私が店員さんに聞こうとすると、ミカヅキさんに止められる。
彼女は優しい目をして私に話す。
「サフィニアちゃん。そうやって聞くのもいいけど、今は薬師ギルドのみんなが君の料理を待っているんじゃないのかな」
「あ……」
「分かってくれた? ならメニューを決めて買って戻ろう」
「はい。分かりました」
私は反省し、それから食べやすい物、そして、好き嫌いが別れても食べられるように数種類を作れるように食材を買う。
「これで問題ありません!」
「うん。それじゃあ戻ろうか」
「はい!」
私達は薬師ギルドに戻り、料理を始める。
まずはパンに切れ込みを入れていく。
「それはアタシがやろうか」
「お願いします」
私はこの作業をミカヅキさんに任せ、中身の具材を作っていく。
まずは分かりやすいソーセージを入れた物。
茹でる温度を調整して、熱しすぎず、かといって短いと火が通らない。
絶妙の
パンとソーセージだけでも美味しいけれど、でも、折角みんなに食べてもらうのだ。
他にも楽しんでもらいたい。
私はシャキシャキとするレタスを手で千切ってパンの上に載せていく。
そして、その上にソーセージを乗せ、ケチャップをかけて完成だ。
「ミカヅキさん。これを出して来てもらえますか?」
「任された」
私はそれからもう2種類作る。
最初のパンに切れ込みを入れる工程は一緒だけれど、中身は違う。
「肉が嫌いな人もいるだろうから、野菜だけのさっぱりした物と、魚を使ったちょっとだけ食べ応えのあるもの。これを作っていこう」
私はポーションを作ることができない。
でも、何か力になりたい。
食べることはとっても大切だ。
何を食べるかで人は変わると言われているくらい。
ここにいる人達は本当なら疲れを癒やす様に安らかに眠れるようにするべきかもしれない。
でも、彼らは彼らの仕事をこなすために、目の下にクマを作りながらもポーションを作っている。
なら、私がすることは彼らの望まない
違う。
私がすることは彼らが眠らないように、彼らが力を振り絞ってポーションを作れるように、その力になることだ。
「これでよし」
私は料理を作って、みんなの元に運ぶ。
ミカヅキさんが渡したものを食べている人は後回し、何も食べていない人に持っていく。
「大丈夫ですか? これ、さっぱりした野菜だけのと、魚だけのどっちがいいですか?」
「お、今あんまり腹に入れたくなかったのよね。野菜だけのをちょうだい」
「はい。こちらです」
「ありがとう。これでまだまだ頑張れそう」
「……はい。応援しています」
いざ応援しようとしても、疲れた顔を見てしまったらその気持ちが揺らぐ。
私は彼らをとっさに止めようとしてしまったけれど、頭を振ってなんとか言わないようにした。
彼らがやると決めているのだ。
それを止めるべきではない。
私だって、やると決めている時にそんな事を言われたとしても、絶対に続けるだろう。
だからその助けになることをするのだ。
「これ、野菜だけど魚も入ったものどっちがいいですか?」
「お? 魚のもあるのかい? 肉は苦手だから助かった。食べてもいい?」
「はい。どうぞ」
「ありがとう。……うん。美味しい。魚のさっぱりした美味しさが、パンに包まれていて元気になるよ」
「頑張ってください。私達にできることはしますから」
「うん。これだけ美味しい物を作ってくれたんだ。やってやるよ」
そう言って彼は再びポーションに向かう。
私は他の人達に料理を配っていく。
それから深夜になるまでできる事をする。
途中で素材が足りなくなったり、倒れてネムちゃんが回復魔法を使ったりと大変だった。
でも、そんなみんなの頑張りもあって、何とかノルマを作ることができた。
「やったー! 終わったー! これで国に怒られずに住む! すぐに運ぶよ!」
「はい!」
ギルドの人は疲れているだろうに、テンションが少しおかしいことになっているかもしれない。
ギルドの人達はポーションを専用の容器に入れて出て行くけれど、最初の人が私達の方に戻ってくる。
「あ、みんな、今回は本当にありがとう。報酬をちゃんと渡さないとね」
「ありがとうございますなのです!」
一番頑張ったネムちゃんに差し出された紙を、ネムちゃんがお礼を言って受け取る。
「ふふ、お礼はこっちが言うはずなんだけど……とりあえず、その紙が依頼達成の受領書。そして、これがあたし達が作っているポーションの製法。いい?」
ネムちゃんは言われるままに中を開けて確認している。
「はい。問題ないのです。時間はかかるけど、効果がとってもすごいのです」
「あはは、冒険者とかに渡すならいいんだけどね。でも軽いケガとかならネムちゃんので十分だからさ」
「使いどころなのです」
「だね。と、これがボーナス……っていう感じかな」
そう言って彼女は割符をネムちゃんに渡してくれる。
「これは……なんなのです?」
「それはサフィニアちゃんが行ってくれたお店で使えるやつだよ。あの店で5万ゴルド分は買えるから、使ってあげて」
「5万ゴルドもいいのです⁉」
「当然でしょ? それくらいはお礼をさせてよ」
彼女はそう言って微笑むと、他の薬師に呼ばれる。
「ギルドマスター! 早くしないと遅れますよ!」
「ええ! 今行くわ! じゃ、そういうことでまたね」
彼女はそう言ってさっそうと他の人を追いかけていく。
「あの人……ギルドマスターだったんだ……」
「なのです……」
私達は薬師ギルドの力になれたことに満足して、宿に向かう。
それから私達は深夜の人が少ない街を歩いている途中にあるものを発見する。
「ねぇ、サフィニア。あれ……」
「クルミさん?」
クルミさんに呼ばれて、私は指し示される方向を見る。
「サフィニアがあれに出て勝てばさ……。もう……お金稼がなくてもいいんじゃない?」
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