第54話 薬師ギルド
翌日。
私達は揃って冒険者ギルドに来ていた。
昨日と同じように混んでいるけれど、すでに慣れたものでどの依頼がいいか物色をしていく。
私達がどの依頼がいいか悩んでいると、クルミさんが目を輝かせて1枚の依頼を持ってきた。
「ねぇねぇ! ネムちゃん! この依頼ってできない⁉」
「ク、クルミさん? どうしたのです?」
「お姉さんこの依頼受けたいなーって! どう⁉」
「な、なんなのですか? 何々……ポーションの作成……しかも薬師ギルドなのです⁉」
ネムちゃんは驚いて依頼を見ていた。
「そんなに驚くような事があるんですか?」
「はいなのです。薬師ギルドは基本的に自分達の利権を守るため、他の所に助けを求めたりはしないのです。でも、今回こうやって依頼を出している。という事は何か大変な状況かもしれないのです」
ネムちゃんが悩んでいると、クルミさんがネムちゃんに詰め寄る。
「でもでも、金額見て? かなり破格じゃない? しかも材料まで用意してくれてるんだって!」
「え? 本当……本当なのです!」
「それってすごいことなの?」
私が聞くと、ネムちゃんは説明してくれる。
「はいなのです。薬師ギルドはポーションの買い取りは多少はやっていても結構足元を見てくるのです。まぁ……それができるだけ技術力も高い。という事ではあるのですが……」
「不安なら違うのにします?」
「ええ⁉ サフィニアも反対なの⁉」
クルミさんが絶望した表情を浮かべる。
「反対ではないですけど、ネムちゃんが不安ならやめた方がいいのではないかと……」
「そっか……そう……だよね……」
クルミさんはがっくりして依頼を壁に戻しに行こうとする。
「待ってくださいなのです」
「?」
「ちょっと不安ですが、皆さんも来てくれるのであれば行ってもいいのです」
「でも、あたし達はポーション作れないよ? ミカヅキもできないでしょ?」
「アタシも作れないけど、何か手伝いくらいはできるんじゃない?」
黙って聞いていたミカヅキさんはそのように答える。
「はいなのです。依頼にも1人でもポーションが作れれば来てくれて構わない。と書いてあったのです」
「あ、ほんとだ」
「という訳で、その依頼に行きましょう。きっと困っていると思うのです」
ネムちゃんはそう言って、やる気を見せてくれた。
私達は依頼を受け、薬師ギルドを目指す。
薬師ギルドは冒険者ギルドからかなり近い場所にあり、大きさも同じくらいだ。
ただ、こちらの方が全体的に暗い雰囲気だった。
「それじゃあ行くよー!」
クルミさんはそう言っていつもより1,5割増しで楽しそうに進んでいく。
「依頼を受けてきま……し……た……」
薬師ギルドに入ると、クルミさんの声がしぼんでいく。
どうしたのかと後ろからのぞき込むと、そこには床に多くの人が倒れていた。
「えぇ⁉ どうなってるの⁉」
「うぅ……」
「ちょっと⁉ 大丈夫⁉」
クルミさんが駆け寄って近くにいた女性を起こす。
床に寝ていた女性は少し背が高めで、肩口できれいに茶色い髪を切りそろえていた。
ローブを
彼女は目を薄っすらと開けて答える。
「えぇ……納期は……後……何日……?」
「納期……?」
「ええ……ポーションの納期が……って、どちら様?」
少し話したら彼女は気が付いたのか、目をパチパチとさせていた。
「あたし達は冒険者ギルドのポーションを作ってほしい。という依頼で来たんですが……」
「本当⁉」
彼女は起き上がってすがるようにクルミさんに
「は、はい……ポーションを作れるのは彼女ですけど」
「ひぃ」
クルミさんがネムちゃんを紹介すると、女性はぐりんと顔だけをネムちゃんの方に向ける。
目の下には濃いクマがあり、目は暗く
ネムちゃんが思わず
そのことに女性も気付いたのか、少し冷静になって謝る。
「あ……ごめんなさい。今はゴブリンの手ですら借りたい状況で……」
「一体何があったのです?」
「それが……今すっごく人手不足で本当に困っているの」
「はぁ」
「実は……」
それから彼女が話すことによると、例年、お祭りの時期が来るといざこざが増えポーションが必要になる。
だから今年もある程度準備をしていたんだけれど、リンドールでの魔物の襲撃や、ヒュドラが出たり他の地域でも魔物が出たそうだ。
その対応でポーションを送ってしまい手元にはなくなる。
なら新しく作ろうとした時に、国から腕のいい薬師達が
今いる者達でなんとか作ろうとはしていたんだけれど、祭りという時期もあって他にやることも盛りだくさん。
徹夜続きで疲れてみんな床で寝ていたということらしい。
私は分からなかったことを薬師に聞く。
「国が招集というのは……どういうことなんですか?」
「それがあたしもよくわからないんだけど、新しい素材が見つかったかもしれない。っていうので言われているんだってさ」
「素材?」
私が聞くと、疲れている薬師に代わってネムちゃんが答えてくれる。
「はいなのです。ポーションを作る時には素材がいる。という事は分かるのです?」
「うん。イヤシソウとか使ったり……という事は知ってる」
「そのイヤシソウを使ってポーションを作るのが基本とされていますが、そこに何を加えるのか、どんな製法をするのか。によって効果が変わってくるのです」
「そうなんだ」
「はい。なので、ポーションを作る新たな素材が発見された時、その素材が身近な物だったりすると、いきなり値上がりしたりすることがあるのですよ」
ネムちゃんはそう得意げに話してくれる。
「身近な物?」
「はいなのです。例えば亜鉛等がいい例なのです。これは普段使っている金属製品に使われているのですが、ポーションに混ぜると効果が増す。という事が言われたことはあるのです。そして、それが発表された時に亜鉛の値段は10倍に
「10倍? すごいですね」
「そうなのです。今では落ち着ていていますが、そうなったことがあったくらいなので、国もかなり慎重に対応しているのですよ」
「なるほど……」
私はネムちゃんの知識に感心する。
薬師の人もちょっと驚いていた。
「すごいね。そんな小さいのに良く知ってる」
「小さいは余計なのです!」
「ふふ、ごめんね。それだけ知っているならポーションの作り方も問題ないかな?」
「任せてほしい……のですが、流石に薬師ギルドの人ほどはできないと思うのです」
「それは最初から織り込み済みよ。むしろ同じレベルで作られたらお仕事無くなっちゃうからね。こっちよ。あ、寝ている人達は踏まないであげると助かるわ」
私達は床に寝ている人達を踏まないように進むけれど、彼らの事が気になる。
「あの……このまま寝かせておいて大丈夫なんですか?」
「ええ、いいのよ。本当はノルマがあるんだけど……もう……多分無理だから」
「ノルマ?」
「国に収めるノルマよ。全力でやったけど、どうやっても間に合わない。でも気にしないで。国がうちの薬師を連れて行ったのが原因なんだから。ここよ」
彼女はそう言って、私達を空いている部屋に案内する。
彼女は中に入って、次は素材がおいてある場所を説明してくれた。
「これで作れると思うんだけど、質問はある?」
「特にないのです!」
「良かったわ。あ、後、道具は流石に自分のがあるわよね?」
「はい。任せてほしいのです」
「じゃあ……一回作ってもらってもいいかしら?」
「もちろんなのです」
ネムちゃんは材料を保管庫から持ってきて、1人黙々と作業を開始する。
私や薬師の人は作業を邪魔してはいけないからと外で待つ。
待っている間に私達は彼らの手伝いをすることにした。
「私はみなさんのために料理を作りますね」
「あたしは魔法で温度を変えてゆっくりと休めるようにするよ」
「アタシは……サフィニアの手伝いでもしようかな」
私達はそうやって手伝いを始めようとする。
それから20分ほどで、ネムちゃんが部屋から出てくる。
「ネムちゃん? どうかしましたか?」
「とりあえずできたのです! 一度確認してほしいのですよ!」
出て来たネムちゃんはそう言って、自信満々に薬師の人を見ていた。
「……とりあえず確認させてもらうわね」
薬師の人はじっとポーションを受け取った後、それを受け取って振ったり匂いを嗅いだりして確認している。
そして、こう口にする。
「これ……本当なの? 今……作ったって本当?」
彼女はネムちゃんを信じられないといった目で見ていた。
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