第39話 空へ

「フィイイイイイイイイ!!!」


 私達の上空で鋭い鳴き声が聞こえたので、声のする方を見る。


 そこには、翼の生えた鹿が空を飛んでいた。


「あれは……」

「あれはスカイディア―なのです。空を飛ぶ魔物でランクはDランク。強さはファングボアよりも弱いのです」

「ファングボアよりも弱いのにDランクなの?」


 たしかファングボアはEランクとかだった気がする。


「そうなのです。スカイディア―は名前の通り空を飛んでいるので、倒すのが難しい。だからDランクなのです」

「なるほど、なら、無理に倒さくてもいいかな?」

「そんなことはないのです。数が集まってキングスカイディア―が生まれると、人を襲う様になるのです。だから見かけたらできれば間引くようにしておくのがいいのです」

「でも、あんな高くにいて……どうやって倒そう」


 スカイディア―はかなり高い所にいて、攻撃が届きそうにない。


「前の時みたいに投石ではダメなのです?」

「あれだけ離れていると当たるか分からないし……当たっても頭は流石に狙えないから、胴体とか食べれる部分までなくなっちゃうかも」

「それは……厳しいのです」


 そう言ってくるネムちゃんに、次はミカヅキさんが聞いてくる。


「それなら、前みたいにクルミが作ってくれたとうから跳ぶとか?」

「一回かわされたら戻って来るまで結構時間がかかってしまいます。一度避けられるとすぐに逃げられてしまうかもしれません」

「うーむ。確かにそれは難しいね」


 ミカヅキさんもどうしようか。

 そうやって悩んでいる所に、楽し気に笑う人がいた。


「ふっふっふ。こんな時こそあたしの出番じゃあないのかな」

「クルミさん?」

「サフィニア、ちょっと……空を飛んでみる気はない?」

「空をですか?」

「うん。空」


 それからクルミさんの話を聞くと、彼女が私に魔法をかけてくれるので、その魔法で上空にあがってスカイディア―を倒してきたらどうか。

 という話だった。


 私はすぐに返事をする。


「わかりました。私が行ってきますね」

「え? いいの?」

「はい。さっきはミカヅキさんに戦闘を任せてしまいましたし、私も少しは体を動かしたいなと」

「う、うん。操作は感覚でこっちの方に行きたい。って思ったらそういう風に動くから、そうやっていってね」

「はい」

「『風魔法:風の翼ウインドウイング』」


 私の背中に緑色の風が発生し、ゆっくりと空に上がっていく。


「すごいですこれ!」

「えへへ、でしょ? ただ、スピード出しすぎると危険だから気を付けてね」

「はい! わかりました!」


 私はそう返事をしてスカイディア―の元に急いでと念じる。


「え!? サフィニア、速す……」


 私はクルミさん達を後ろに置き去りにして、スカイディア―に一直線に向かう。


「フィイイイイイイイイ!!!」

「あっという間でしたね!」

「フィイイイイイイイイ!!!???」


 私は高速で移動してスカイディア―を捕まえ、そのまま頭に一撃を入れて意識を落とす。

 そしてスカイディア―を小脇に抱えたまま飛び続ける。


「フィイイ……」

「よし、いい感じ……あれ」


 私の速度は止まることなく、ドンドンと上空に昇っていく。


「あ、やばい!」


 なんだかどんどん息苦しくなってくし、全身が凍えるように寒い。


「戻らないと……」


 私は急いで下に戻るように念じて、来た時と同じ速度で地面に向かう。


 そして、今度はその勢いで地面まですぐという感じだ。

 後数秒で地面と激突げきとつする。


「あっぶない⁉」


 全力で止まれ!

 そう念じるとなんとか止まり、足を曲げたつま先が地面についていた。


「ふぅ……なんとかなりました……と、急いで戻らないと」


 今度は速度を調節して、みんなの所に戻る。


「皆さん。倒してきました。あ、まだ生きているので、血抜きなどをお願いします」

「お帰り。それはアタシがやっておこう」

「はい。よろしくお願いします」

「クルミ。移動しながらやろう。前のあれを出してくれ」


 ミカヅキさんはそう頼むと、クルミさんは魔法で土の板を出して移動することになった。

 彼女は解体に集中していると、2人が話しかけてくる。


「サフィニア。どこかぶつかってケガとかしなかった?」

「そうなのです。すごい勢いで降りていたりして、びっくりしたのです。わたしが治せる所は頑張るのですよ!」


 そうクルミさんとネムちゃんが心配してくれる。


「すいません。でも大丈夫ですよ」

「もう……君がケガしたら悲しいんだから。倒そうと頑張るのはとっても偉いんだけどさ」

「はい……気をつけます」

「怒っている訳じゃないんだ。でもまぁ無事でよかった。ポーションで祝杯だね!」

「それはまた今度にしておきますね」

「えー」


 そんな事を話しながら、ザラの村に向かって歩き続ける。


 歩き続けて夜になり、私達は夕飯の準備に取り掛かった。


「うーん。このお肉って……どうやって食べるのがいいんだろう」


 私がそう言うと、ネムちゃんが私の知らない調理法を提案をしてくれる。


「こんな調理方はどうなのです?」

「そんな食べ方があるの⁉」

「はい。わたしが昔食べた時はとっても美味しかったのです」

「そっか……じゃあそれでやって……と思ったけど、時間……かかるんだよね?」

「はいなのです」

「なら、今夜中に準備しておいて、明日に出す。っていうことにしてもいい?」

「もちろんなのですよ」


 それから、私はスカイディア―の肉を普通のステーキにしていく。

 見たところ脂身部分はかなり少ない。

 だから、フライパンに敷く油を調節して、じっくりと弱火で焼いていく。


 じゅうううっぅぅぅぅぅぅ。


 私はそんなステーキを何枚も焼いていき、みんなの分を準備し終える頃にはみんなの準備も終わっていた。


 みんなの目線が早く飯を食わせろと言ってきかないのが分かる。


「ふふ、すぐに出しますよ」


 私はそう言って、みんなの分を出していく。


「美味しそう!」

「いい香りなのです!」

「やっぱりアタシのお嫁さんだね」

「冷める前に食べてください」


 皆がそんな風に言ってくれる。

 ミカヅキさんも冗談のように言ってくれるので、笑って流せるようになった。


 それからみんなで美味しくスカイディア―のステーキを食べる。


 見た感じの通りで、脂身が少なくさっぱりとした味わいだ。

 かと言ってうま味が無いわけじゃなく、むしろ美味しさは凝縮ぎょうしゅくされているように感じる。


 味付けも丁度よく、何枚でも食べれてしまいそうだ。


「これがスカイディア―のお肉なんだね! すっごく美味しい! 焼き加減が特に最高だよ!」


 そうクルミさんが言ってくれれば。


「スカイディア―の調理は結構難しくて、火加減とかを気をつけないとすぐに硬くなってしまうのです。それをこれだけ柔らかく焼けているのはすごいのです!」


 ネムちゃんはそう言ってくれる。


「うんうん。とっても美味しいよ。だけど、トウガラシ……あれをかけてもいいかな?」


 と、辛党な事が発覚したミカヅキさんはそんなことを言っている。


「もちろんですよ。お肉はまだありますから、いっぱい食べてください。あ、でも少しは残してくださいね」

「なにかあるのかい?」

「はい。今夜を使ってちょっとした調理をしようかと」

「お、それは楽しみだね」


 ミカヅキさんはそう言ってステーキにかなりの量のトウガラシをかけていた。


 あんなにかけて辛くないのだろうか……。


「うん! やっぱりこの辛さがたまらないね!」


 どうやら美味しいらしい。


 それから、私達は食事を堪能たんのうした後、野営の準備をする。


「それじゃあ見張りの順番だけど……」


 クルミさんが言ってくるので、私が答える。


「あの、最初に寝てくださいませんか? 今夜寝る前に時間のかかる調理をしておきたいんです」

「オッケー。じゃあ後1人は……」

「あ、それはわたしがサフィニアさんに教えようと思うので、わたしにしてほしいのです」

「もちろん。それならあたしはミカヅキと先に寝てるね」

「お休みなさいなのです」

「お休みなさい」

「お休みー」

「また明日ね」


 クルミさんとミカヅキさんはそう言ってクルミさんが魔法で作った石の家の中に入っていく。


 それから、私達は火を見ながら調理を開始する。


「さて……それじゃあお願いしますね」

「はいなのです。まず作り方は……」


 ネムちゃんが教えようとしてくれている。

 だけれど、彼女の後ろになにか違和感を感じた。


「……」

「サフィニアさん? なにかあるのです?」


 ネムちゃんが後ろを振り返るけれど何もいない。

 そして、また私の方を向いた瞬間。


「キシャアアアアアア!!!」


 そう言って、大口を開けた何かがネムちゃんに向かって襲い掛かってきた。

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