第38話 フォレストシープ
「いい天気ですね!」
私達は快晴の下、森に挟まれた一本道を進んでいた。
こんな天気なら新しい美味しい魔物に出会えるかもしれない。
なんとなくの勘だけれど……。
「本当だね。こういう時は素振りをしたくなるよ」
そう言葉を返してくれるのはミカヅキさんだ。
彼女は剣の入った
「そう言えば、ミカヅキさんの剣って片刃なんですよね? どうしてなんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? アタシのは剣じゃなくて刀っていう東方の武器だよ」
「失礼しました。違ったんですね」
「別に問題なんてないよ。ただこっちの方が切れ味が鋭くてね。敵を切る時には都合がいいのさ。クリスタルリザードの時もできていただろう?」
少し前に戦ったクリスタルリザードの時を思いだす。
確かに、彼女はクリスタルリザードの前足を切り飛ばしていた。
「確かに、すごい切れ味でした」
「それを包丁にも流用していてね。だからアタシの包丁は色々と違っているのさ」
「そうだったんですね。流石ミカヅキさん」
そんな事を話しながらザラという村に向かっていると、私の耳に森の奥から音が聞こえてくる。
「……皆さん。少し止まってください」
「?」
他の3人は足を止めて、周囲を警戒する。
少ししたら他の人にも聞こえたらしく、私達の進行方向右側から音がはっきりと聞こえてきた。
「これは……何が出るかな?」
「美味しいといいんですが」
「くくく、流石サフィニアちゃん。確かにそうだね。美味しい魔物だとアタシも嬉しいよ」
ミカヅキさんはそう言って苦笑している。
それから、すぐに魔物が現れた。
「メェエエエエエエエ!!!」
森から現れたのは、緑色に
大きさは2mくらいの大きさで、頭には巻き角を持っている。
ネムちゃんが叫ぶ。
「あれはフォレストシープなのです! 緑の毛は打撃をほとんど無効化してしまうのです! Dランクの魔物なので攻撃力や速度はたいしたことないのですが、
「それなら、アタシがやってもいいかな」
そう言って、ミカヅキさんが刀をスラリと抜き放って前に出る。
「私も戦いますよ? 打撃が効かないだけなら、やりようはありますし」
私も前に出ようとするけれど、ミカヅキさんは首を振る。
「いや、最近あんまり戦えてないからね。前回のクリスタルリザードの時も役には立たなかった。だから任せてくれない?」
「とても助かったと思いますけど、そういうのでしたら」
「ありがとう。じゃあ、ちょっと見ていて」
ミカヅキさんはそう言ってフォレストシープに近付いていく。
「メェエエエエエエエ!!!」
フォレストシープは近付いてくるミカヅキさんに向かって羊毛を放つ。
羊毛を放つ⁉
その文字通りで、フォレストシープの体から、緑色の羊毛がミカヅキさんに向かって飛んでいく。
その数はなんと数十個、突っ込んだままのミカヅキさんではかわせそうにない。
「ミカヅキさん!」
私は叫ぶけれど、彼女は笑って行動を起こす。
「はは、その程度はしてくれないとね。ハァ!」
彼女は気合を入れ、刀で羊毛を切り飛ばしていく。
「すごい……」
数十個もの羊毛全てが切り飛ばされ、ミカヅキさんは足を止めることなくフォレストシープに近付いていく。
「もっと歯ごたえを見せておくれよ!」
「メェエエエエエエエ!!!」
ガギィン!
ミカヅキさんはフォレストシープの巻き角と切り合い、力比べをしている。
彼女は鍛冶をしているからか力も強いらしく、フォレストシープを少しずつ押し返している。
「これで終わりだよ!」
「メェエエエエエエエ!!??」
彼女はフォレストシープとの力比べから一度力を抜いた。
フォレストシープはそのままの勢いで前に倒れる。
そして、彼女は倒れているフォレストシープの頭に刀を突き刺して、フォレストシープは絶命した。
「うん。やっぱり戦わないと勘が
そう言ってなんでもない事のように話す。
「ミカヅキさんすごいのです」
ネムちゃんがそう言ってミカヅキさんに近付いていく。
「あはは、そんなことないよ。サフィニアだったらもっと早く終わらせられただろうからね」
「でも……それで本当にEランクなのです?」
「それはアタシもランクを上げたくなかったからだよ。さ、これから解体するからどこの部位が使えるかとか教えてよ」
「……はいなのです」
そうして、2人は仲良く解体をし始める。
ネムちゃんがここはこうやってほしいといい、ミカヅキさんはその言う通りに解体をするのだ。
私はクルミさんとのんびりと話す。
「ミカヅキさんとっても強いんですね」
「だねぇ。明らかにEランクの動きじゃないなーって見ていたけど、Cランクか……Bランクとかはあるかもね」
「この前もクリスタルリザードと普通に戦えていましたもんね」
「あれは……君が前を張っていたからだと思うけど。でもまぁ、それなりには戦えるんじゃないかな」
それから、私達はいい時間という事で少し場所を移動してから、昼ごはんにする。
いつものようにクルミさんが魔法でキッチンを作ってくれた。
ただし、ちょっと違った形に作ってもらう。
「羊肉を調理する時は
「大丈夫、大丈夫。サフィニアが作る料理はどれも美味しいから」
「クルミさん。ありがとうございます」
そう言ってなんでもないことのように窯を魔法で作ってくれる。
私はフォレストシープの肉に下味をつけ、器の上に並べていく。
それを窯に入れて、いい感じになるまで放置だ。
その間に
ネムちゃんはいつものようにスープを作ってくれていた。
「そろそろかな」
私は窯の中を覗くと、フォレストシープの肉にはいい焼き色がついていた。
「すぐに食べたいけど……もうちょっとだけ」
私は肉の場所を移動させ、均等に火が入るようにしていく。
それから数分、窯から取り出した肉は素晴らしい焼き色と匂いがしていて、今すぐにかぶりつきたい。
だけど、まだ完成ではない。
さっき切った柑橘をこの上に載せて……。
「完成しました!」
私が持っていくと、みんなは早く食べたいと言う様にフォークとスプーンを握っていた。
「それではどうぞ! 私はこの間に次の準備をしておきます」
私はそう言って次の肉を切り、下味をつけて窯に入れる。
そして戻ると、みんなは食べずに待ってくれていた。
「あれ? 食べないんですか?」
「寂しいこと言わないで。一緒に食べよ?」
「はい!」
クルミさんがそう言って席に座るように
私は席に着き、みんなと一緒にご飯を食べ始める。
「とっても美味しいのです!
そう言ってくれるネムちゃんに。
「だね。最初はこの2つって合うの? って思っていたけど、こうやって食べるといくらでも食べられそうだよ」
そう言ってくれるのはミカヅキさん。
「むぐむぐむぐむぐ」
口にフォレストシープの肉を詰め込んで全力で食べているのがクルミさんだ。
皆が美味しいと言って食べてくれるならもっと作りたいと思う。
それからフォレストシープの肉を全て食べきる。
本当は今夜の夕飯にする予定だったけれど、みんなが美味しいというので食べてしまったのだ。
「とっても美味しかったよ……」
クルミさんがもう歩けないというようにつぶやく。
「ですね。また新しい魔物を狩らないといけません」
「その時はアタシがやろうかな。最近は全然狩ってないし」
そう言ってみんなでのんびりした後に、出発をすることになる。
「それでは行きましょうか」
「うん!」
「はいなのです」
「オッケー」
そう言って行くことになった時に、上空から鋭い声が聞こえる。
「フィイイイイイイイイ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます