3章 ザラ

第37話 再びのロックリーン

 私達は師匠に見送られ、王都を目指す。


「よーし! では新しい料理のために王都に向かって……」

「いやーそれはできないんだよねぇ」

「え? そうなんですか? クルミさん」


 私はいざ王都に……と思っていたのだけれど、クルミさんが待ったをかける。


「うん。だって、クレハさんにもらった手紙をギルドに出さないといけないし、セドリスさんにも探してもらっているでしょう? 見つかりました。っていう事を言いにいかないと」

「あ……」

「さ、ということで、一回ロックリーンに戻るよ」

「……はい」


 そうして、私達は一度ロックリーンに戻る事になった。


 ロックリーンの町はかなりの人であふれていて、その表情はかなり暗い。


「急いでギルドに報告しないといけないですね」


 私達は急いでギルドに行くと、そこでは怒号どごうが響き渡っていた。


「だからこのままではこの町が持たん! 多少戦力が劣っていても打って出るしかない!」

「ふざけるな! すでに最高戦力が敗退しているのだぞ! いくらCランクやDランクを集めた所で勝てん!」

「だが! このままでは食事もなくなる!」

「だから今援軍を頼んでいると言っているだろうが!」


 どちらも譲る気はないようで、それぞれの意見が真っ向からぶつかっている。

 正直、あれだけ怒鳴り合っている中にはあんまり行きたくない。


「どうしましょう」

「うーん。流石にあそこに入っていくのは骨が折れるねぇ」


 クルミさんもそう言って少し嫌そうにしている。

 そんな中に、ミカヅキさんは私の手から手紙を取り、なんでもない事のように行く。


「ミカヅキさん⁉」

「アタシに任せな。ちょっとお二人さん。いいかな?」


 ミカヅキさんはそう言って言い争っている2人の元にためらいなく進む。


「なんだ貴様!」

「今大事な話をしている!」

「その必要はないよ。クリスタルリザードは全て討伐とうばつされたからね」

「は……そんな訳……」

「うそ……じゃないのか……?」


 大声で言い争っていた2人も、いきなり問題がなくなったと言われて驚いている。


 そんな2人……どころかギルドの中にいる人全てが、ミカヅキさんの言葉を待っていた。


「嘘じゃないよ。はいこれ。討伐した人からの手紙。これをギルドマスターに渡せばいいってさ」

「本当か……?」


 そう言って、筋肉質の初老の男性が手紙を受け取って中を見る。

 最初は疑わしそうに見ていたけれど、読み進めるにつれて目が開かれていく。


「まさか……あの【大賢者】がいたというのか?」

「ん? 【大賢者】?」


 ミカヅキさんがそう言ってギルドマスターに聞くと、彼は怒り気味に言う。


「【大賢者】を知らんのか⁉」

「え……うん」

「【大賢者】は全ての魔法を使えるとされる魔法使いで、そう呼ばれる者は世界に1人しかいない! その【大賢者】と名乗る等……」

「クレハさんってもしかして……その【大賢者】?」


 ミカヅキさんはもしかして……と言う様に私達の方を見る。


「私は……知りません」

「え……まじで? クレハさんが【大賢者】っていうのは割と……当たり前の事だと思っていたんだけど……」


 そう言うのはクルミさんだ。

 彼女にネムちゃんが突っ込む。


「クレハさんが【大賢者】とは思わなかったのです! だってあんな酒の……げふん。イメージの方とは……」

「あー確かにね。そうかも。でもまぁ……そうだよ。クレハさんは【大賢者】。だからそこに書いてある事は本当だよ」


 クルミさんはギルドマスターの疑問に答えてくれる。


「そうか……流石は……生ける伝説……。情報提供感謝する」


 ギルドマスターの言葉に、ミカヅキさんは首を振る。


「いえいえ、それではアタシ達はこれで」

「ああ、助かった」


 そうして今回の件は終わり、私達は一旦別れることになった。

 私とクルミさんはセドリスさんに会いに、そして、ネムちゃんとミカヅキさんはマレーさんの所に行くためだ。


 私とクルミさんはセドリスさんの家を再び訪れた。


「なんだ? どうかしたのか?」


 再び出迎えてくれたセドリスさんは快く部屋に入れてくれる。


 私達はソファに座って向かい合い、何があったのかを軽く説明した。


「そうか……クレハという人物を探すことは必要なかったか」

「はい。もう見つかりましたので」


 クルミさんが話してくれるので、私は黙って見ていた。


「ふむ……しかしこのままではワシのメンツが……よくないな。次に行く場所は決まっているのか?」

「王都に向かおうと思っています」

「王都にむかおうと・・・……くくく、やるではないか」

「……いえ、そういうつもりでは」

「よいよい、そういうのはわざとらしくない方が……くく……」


 セドリスさんはとても楽しそうだ。

 でも、このままだと話が進みそうにないので、私が話す。


「それで、王都に行こうと思っているのですが、なにかあるのですか? 祭りが近いと聞いたのですが……」

「祭り? ああ、確かにそんな時期か。そう……だな。なら、どのルートから王都に行こうか決めているか?」

「いえ、決めていません」

「ふむ、なら……この手紙を王都の途中にあるザラをいう村の村長にこの手紙を届けてくれんか?」

「手紙ですか?」


 私が聞くと、セドリスさんはソファから立ち上がって執務机に向かう。


「ああ、ギルドに依頼として出すから受けてくれんか。クレハという女性を見つけられなかったからな。それくらいは受けてもいいだろう?」

「あの……ですが、みんなと話し合ってからでもいいでしょうか?」

「ふむ、ではダメだったら今日中に持ってこい。受けてくれるのであればそのままで問題ない」


 それならいいと思う。

 私はクルミさんを見ると、頷いていた。


「分かりました。それでいいのであれば、お受けいたします」

「そうか。助かる。ではこれが依頼書だ」


 セドリスさんはそう言って、ギルドに渡すための依頼書を渡してくる。


「はい、ありがとうござ……ええ!?」


 私はその依頼書に書かれている金額に驚いた。


「あの……手紙を届けるのに……5万ゴルドももらえるものなんですか?」


 私の疑問に答えてくれるのはクルミさんだ。


「普通はありえないかな? 高ランクだったらあるかもしれないけど」

「気にするな。老い先短い人生、墓場にゴルドはいらんよ。だから遠慮なく受け取っておけ」


 セドリスさんはそう言ってさっさと行けと言ってくれる。


「ありがとうございます」

「ありがとうございます」


 私とクルミさんはお礼を言うと、彼は楽しそうに言う。


「おじい様の部屋……。あれがあるだけで毎日が楽しいのだ。その感謝だから礼などいらんよ」

「失礼します」


 楽しそうにしているセドリスさんは手で行っていいと示すので、私達は屋敷を出る。


 私達はそれからネムちゃんとミカヅキさんと合流し、依頼を受ける事に合意した。


 そして、まだギルドマスターが色々とやっている所に行き、依頼を受ける。


「ええ⁉ セドリスさんからこんな依頼を⁉ 本当ですか⁉」


 私達が依頼書を出すと、受付の女性は目を丸くして大声で言う。

 そしてその言葉を聞いたギルドマスターが寄ってきて、依頼書を見て私達を見る。


「お前達……【大賢者】からの手紙を持っていたり……セドリス殿と親しくしていたり……なにかあるのか?」

「え……な、なにかってなんですか?」


 クルミさんがちょっと動揺して言葉を返すと、ギルドマスターが怪しげに見てくる。


「言った通りだ。もしかして……お前達も実は【大賢者】のように2つ名持ちだったりしないのか? それだったらランクも優遇ゆうぐうするんだが……」

「そ、そんな訳ないじゃない! ね? みんな!」


 クルミさんがあせった表情で振り返ってくるので、私は頷く。


「はい。私はそもそも2つ名を知りませんから」

「わたしもそんなすごいのは持っていないのです」

「アタシだってそうだよ」


 私達の答えを聞いたギルドマスターはそれでも信じられないと言う様に見てくる。


「そうか……? 俺の勘がお前らはなにかあると言っているだが……ま、勘違いっていう事もあるか。すまんな」

「い、いいんですよー。さ、みんな行こ!」


 クルミさんが急いで出て行くので、私達の彼女の後を追う。


「さ! 良いから王都に行こう! 美味しいポーションがあたしを待っているからね!」

「はい!」


 私達はそうして、ロックリーンを出立した。


*****************************

今更かもしれませんが、4人の一人称を書いておきます。

サフィニア……私

クルミ……あたし

ネム……わたし

ミカヅキ……アタシ

文中でしゃべっている時にこれが出てきたらこのメンバーのだれから他の人です。

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