第33話 北の村へ

「戻りました!」


 私は走ってみんなが待っている所に戻った。


 みんなは私を待ってくれていて、みんなが出迎えてくれる。


「おかえり、ちゃんと伝えられた?」

「はい。クルミさん。衛兵の方に伝えてきました」

「流石サフィニアさんなのです。もう帰ってこれたのです?」

「うん。頑張ったからね」


 私がクルミさんとネムちゃんに言うと、次はミカヅキさんが口を開く。


「おかえり、ちょうど解体が終わったタイミングだよ」

「そうなんですか? 流石早いですね」

「君の走る速度に比べたらたいしたことないよ」


 ミカヅキさんがそう言っている横から、ミツバちゃんが飛びかかってくる。


「お姉さま!」

「ミツバちゃん?」


 私は彼女を受け止め、歩き出す。

 みんなもミツバちゃんの様子に苦笑しながら一緒に歩き出してくれる。


「どうしたの?」

「お姉さまの帰りを待っていました! もっと一緒にいたいなって!」

「でも一体どうしたの? 最初にあった時とは全然……性格が違うからびっくりしました」


 私がそう言うと、ミツバちゃんは私の目をじっと見つめて言う。


「あたしはお姉さまに助けられて、知ったのです! 強さはかっこよさだと!」

「え?」

「あたしもお姉さまのようになりたいんです!」

「ええ?」

「だからまずはできるだけお姉さまの近くにいようかと!」

「えぇ……」


 どうしようか。

 したってくれている……という事は分かるけれど、師匠が教えているのに、私がなにか言うのは……。

 まぁ……昔から師匠に強くなるために色々と指導はされたから、それをやれば……いいかな?


 そんな事を話していると、森の中でがさがさと音がした。


「⁉」

「お姉さま?」


 私は真剣な目でそちらの方をにらみつける。

 そして、ミツバちゃんが危険にならないようにしっかりと抱っこする。


 他のみんなも戦闘態勢せんとうたいせいをとり、注意深く周囲を警戒していた。


「……」


 私は少し耳を澄まして音の正体を探る。

 そこで、このままでは良くない事に思いいたった。


 私がミツバちゃんを抱えたままであれば、戦闘はできない。

 傷が治っているとはいえ、ミカヅキさんに前線を任せてはいけないのではないだろうか……と。


「ちょっと待っててくださいね」

「お姉さま?」


 私はミツバちゃんを地面に降ろし、一直線に森の中に突撃する。


「サフィニア⁉」


 クルミさんの声が響くけれど、これが一番いい。

 私は森の中に突撃して、奴に近付く。


 そして、近くにあった石を拾って投げつけた。


 ボッ!


 私は魔物の頭を吹き飛ばした後それを持ち、周囲の安全を確かめてみんなの所に戻った。


「戻りました」

「お姉さま!」


 私は飛び込んできたミツバちゃんを抱きとめる。


「サフィニア……いたのって……」

「はい。クルミさん。ファングボアです」


 私はみんなの前に頭を吹き飛ばしたファングボアをおく。


「そっか……魔物ってファングボアか。なんかすごく真剣な顔で行くからクリスタルリザードがまた出たのかと思ったよ」

「もう倒したじゃないですか。これ以上出るなんてあるんですか?」


 私はネムちゃんの方を見ると、彼女は答えてくれる。


「クリスタルリザードは基本単体で生活します。なので出ることはありえないと思うのです」

「そっか、なら良かった」


 私はファングボアを解体してもらおうと、ミカヅキさんを見る。


「ミカヅキさん。解体をお願いしてもいいですか?」

「うーん。いいんだけど……やってる最中にまた魔物が出たらいやだな……クルミ。魔法でアタシとファングボアを浮かせることってできない?」

「浮かせる? 板の上に載せるとかでもいい?」

「十分だよ」

「『土魔法:石の板ストーンボード』」


 クルミさんが魔法を使って、ファングボアとミカヅキさんが乗っても余裕のある大きな石の板を作り出す。


 私はファングボアを再び持ち上げ、その上に乗せた。


「よいしょっと。アタシは解体しながらこの石に載ってるから、警戒とか任せてもいいかい?」

「問題ないのです! わたしもちゃんと働くのです」

「ネムちゃん。よろしく」




 それから私達は警戒をしながら北の村を目指す。

 特に何かがでるような事はなく、平和に私達は村に到着した。




「割と平和そうですね」

「だね……それにこの周囲には……」

「?」


 クルミさんが何か辺りを見ているけれど、どうかしたのだろうか。

 ともかく、私達は村に入り、様子を確認する。


 村の人達は慌てている様子はなく、いたって普通だ。

 村の大きさ的に住人は100人くらいだろうか? 家も30軒あるかないかというところ。

 周囲はさくおおわれているけれど、クリスタルリザードだったら壊せそうなくらいしかない。


 まぁ、もう必要はないんだけど。


 私達が村の中に入ると、ミツバちゃんは私から降りて近くにいるおじいさんの所にいく。


「戻ったよー!」

「おお、ミツバちゃん。お帰り。ロックリーンはどうだった?」

「楽しかったよ! すごい人達にも出会っちゃった!」

「すごい人?」


 ミツバちゃんは私の方をじっとみて、紹介してくれる。


「うん! 私を助けてくれたんだ! あのクリ……」

「ちょっと待ってください!」


 私は慌てて彼女に近付き、彼女の口をふさぐ。


「むぐ⁉」


 私は彼女だけに聞こえるように耳元で話す。


「(ミツバちゃん。私達が強いっていうか、戦えることは秘密にしておいて。お願い)」


 私はそう言ってから口から手を離す。


「(ぷはっ。どうして? 強くてかっこいいのに)」

「(ごめんね。あんまり目立ちたくないんだ。だからお願い)」


 ミツバちゃんは少し考えた後、おじいさんに向かって言う。


「あたしが町で迷っている時に助けてくれたのよ! しかもここまで送ってきてくれたとっても優しいい人達なの!」

「そうかいそうかい。そんな人達が良くきてくれた。ゆっくりとしていってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 私はおじいさんにお礼を言うと、彼はにこやかに笑ってどこかに歩き去っていく。


「それで……師匠はどこにいるんですか?」


 私の興味はそっちだ。

 というか、わざわざ遠い距離を移動して来たんだから、なにか……お礼の一つでも言ってほしい。


 ミツバちゃんは私の手を引っ張ってくれる。


「こっちだよ!」


 私達は一緒に家を目指す。

 家……?


「ここ……?」


 私達の目の前には、無骨な石の建物があった。

 大きさは私の家と同じくらいだけれど、なんというか……そっけないというか……。


 でも、これが師匠らしい、という思いも感じさせた。

 基本的に適当で、お酒が飲めればいいという人だから。


「家の外見に全く気にしていない見た目をしているのです」


 私が思った事をネムちゃんが言ってくれる。


「この家は師匠が住めればいいって作ってくれたんだ! クレハ師匠! 帰ったよ!」


 ミツバちゃんはためらわずに家の扉を開けて中に入っていく。


「……」


 先ほどはお礼を言ってほしい等と考えていたけれど、本当に会いに行っていいのか不安になる。

 ここで元気に暮しているという事は、家に帰る気がなかったということだ。


 もしかして、私がなにかしてしまったのか……。

 そんな不安がよぎる。


 ポン。


「クルミさん?」

「行こう? クレハさんが待ってるよ」

「でも……」


 それ以上言えない私に、クルミさんは優しく語りかけてくれる。


「君の考えるクレハさんはどんな人?」

「優しくて……強くて……いつも楽しそうに笑っていて……クルミさん……みたいな?」

「⁉ あっはは、そっか、それはそれで嬉しいかもね。それなら、そんなあたしは君の事嫌ってると思う?」

「思いません」


 私を連れ出してくれた。

 私がゴブリンを殲滅しようと、1人で行こうとした時に止めてくれた。

 ずっと……私の事を考えていてくれた。


 だから、そんな風には思わない。


「なら、大丈夫。行こ」

「……はい!」


 私はクルミさんに励まされて、意を決して家の中に入る。


「師匠!」


 私は家に入ると、そこには服や飲み物の容器などが散らかっているだけで、誰もいなかった。


「師匠……?」

「あれー? クレハ師匠どこいっちゃったんだろう」


 部屋の奥からミツバちゃんが出てくる。


「部屋の奥も見てきたけど、クレハ師匠は見当たらないよ。外かな?」

「そう……ですか……」


 少しどうしようか不安な気持ちがまた芽生めばえてくる。

 でも、このままではいけないと思って、外に出た。


「クレハ師匠どこ行ったかなー」


 ミツバちゃんがそう言っていると、突然の轟音ごうおんひびきき渡る。


 ドッゴオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!


「何⁉」

「あっちだよ!」


 クルミさんの声が示した方を見ると、この村より更に北の森の中で火柱が上がっている。


「あれは……」

「行くよ!」

「クルミさん⁉」

「あれはクレハさんの魔法だよ!」

「わかりました!」


 私はクルミさんに続いて、走ってその方角を目指す。


 少し走ると、そこにいた。


 真っすぐ進む一本道、その途中にぐったりと折り重なるようにクリスタルリザード。

 その数3体。

 ただ、そいつらは絶命しているようで、ウロコはかなり壊れ、ピクリとも動かない。


 その3体の上で、タルをあおっている赤茶髪の女性は……。

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