第31話 クリスタルリザード

 私達は門から急いで外に出る。

 そして北の森に入って、耳を澄ませた。


「どうして止まるのです⁉」

「ミツバちゃんはまだ小さいです! そんな遠くには行っていないと思うので、耳を澄まして音を集めます! なので、静かにしてください!」

「わかったのです」


 私は耳を澄ませて、ミツバちゃんらしき音を探す。

 すると、かなり離れた所で声が聞こえる。


「来るなあああああああ!!!!!」

「⁉ 先に行きます!」

「サフィニア⁉」


 私はクルミさんの声を置き去りにして急いで声がする方に急ぐ。


 ドゴォン!


 急ぎ過ぎたせいで木を避けきれず、へし折ってしまうけれど仕方ない。


 速度を出して、前方に目を凝らすと、ミツバちゃんの前に所々ウロコから血が出ている様な何かを見つける。

 姿が透けているがその空間が揺らいでことを考えると、奴がクリスタルリザードで間違いないだろう。

 奴はミツバちゃんに向かってみつこうとしていた。


「吹き飛べ!」


 私は地面を思い切り蹴り、真っすぐにクリスタルリザードに蹴りを放った。


 ズズン!


「キャシャアアアアアアア!!!???」


 私の蹴りはクリスタルリザードの横っ面辺りを蹴りつけ、奴は木々をなぎ倒しながら10mほど吹き飛んでいく。


 私はそんな奴よりも、ミツバちゃんの方を振り返る。


「大丈夫⁉ ミツバちゃん!」

「あ……え……あなた……は……」


 呆然ぼうぜんとしているミツバちゃんの全身を軽くみるけれど、どこかケガをしたような様子はない。

 

「良かった……ケガはぐっ!」


 突然の衝撃に私は吹き飛ばされる。


 数回地面を跳ねた後に受け身を取って衝撃が来た方を見る。

 そちらの方では、起き上がったクリスタルリザードが大口を開いて威嚇いかくしていた。


「キシャアアアアア!!!」


 私は相手を少し観察する。


 クリスタルリザードは名前の通りクリスタルでできているのかと思うほどに透明は姿をしている。

 そのため、全体像はハッキリとは分からないけれど、体長3mはある様な四つん這いのトカゲだ。

 ただ、クリスタルが壊れるとその下の体が見えるのか、ピンク色の美味しそうな肉……や赤い血が見える。


 今は少ししか見えないけれど、それでも一部分が見えるだけで大分やりやすい。

 全身が見えないで戦うのはやりたくない。


 そんな事を思っていると、後ろから声が聞こえる。


「サフィニア!」

「クルミさん! 私の前にいます! そして、その間にミツバちゃんがいるので気を付けてください!」


 私がそう叫ぶと、ミカヅキさんが口を開く。


「そこはアタシに任せてもらおうかな!」


 彼女は身体能力も高く、クリスタルリザードとにらみ合う私のそばを通り抜け、ミツバちゃんを抱き抱えて離れていく。


 そこで後ろからネムちゃんの声が聞こえた。


「クリスタルリザードは姿は見えないのです! でも、完全に見えなくなることはないのです! なので、違和感のある場所から目を離さずにいてください! 後は透明なウロコを飛ばして来るのです! 風きり音が聞こえたら注意が必要なのです!」

「わかった! ありがとう!」


 ネムちゃんの説明で分かった。

 さっき私が食らったなにかは透明なウロコを飛ばして来たんだ。


「キシャアアアアア!!!」

「うわっと⁉」


 これからどうしようかと考えていたら、奴がミカヅキさんの背に向かって何かを放っている。

 奴の体からヒュヒュンという音が聞こえてくるので、あれがウロコを飛ばす時に出る音なんだろう。


「君の相手は私だよ!」


 私は奴に真っすぐ向かい、ミカヅキさんの方を向いている顔にアッパーを放つ。


 ドン!


 奴は少し浮く、ただ、今回は殴られるのが分かっていたためか、後ろ脚は地上から離れる事はなかった。

 しかも、Aランクの魔物。

 体重も重く、ウロコも堅い。


「でも! 私なら!」


 私は浮かび上がった奴の頭目掛けて飛び、拳での連撃を打ち込む。


「ギャシャアアアアア!!!???」


 奴は私に向かって暴れるように両足の爪を振ってくる。

 私はその爪に切り裂かれ、手から血が出た。


「サフィニアちゃん! アタシが少しは受け持つよ! 回復してもらっておいで!」

「この位は大丈夫です!」

「無理はしないでね!」


 私はケガを無視して、ミカヅキさんと協力して攻撃する。

 流石に2対1ということもあって、こちらの攻撃は着実に相手をけずっていく。


 でも、奴は想像以上のことをして来た。


「キャシャアアアアアアア!!!???」


 大きく咆えたと思うと、奴の全身からなにかが飛び出す。


「これはウロコですね!」


 私達はそれを防ぐように両手を前に出して防御に力を割く。


「シャアアアアアアアア!!!」


 その隙に奴は後ろに跳び上がり、全身をもぞもぞとさせる。


 その姿を見たネムちゃんが叫ぶ。


「あれは脱皮⁉ できるのですか⁉」

「脱皮ってなに⁉」

「ああやって古いウロコを脱いで新しいのにしようとしているんです! もしできたら完全に姿が見えなくなってしまうと思うのです!」

「それは阻止そししないと!」

「だね!」


 私はミカヅキさんと一緒に近付くけれど、奴はすでにほぼ完璧に透明になっていた。


「くっ……」

「まずはもっと探すところからかい。骨が折れるね」


 そう言うミカヅキさんに、ネムちゃんが叫ぶ。


「ウロコは新しくなりましたが、ダメージはちゃんと残っているのです! だから諦めないください!」

「こういう時はあたしの出番だよねー!」


 そう言うのはクルミさんだ。

 彼女はすぐに魔法の詠唱を始める。


「『土魔法:砂の嵐デザートストーム』!」


 私達の周囲にどこからか発生した砂が舞う。

 視界が少し悪くなるけれど、クルミさんのこれを使った意図が分かった。


 砂が吹き荒れているのに、丁度3mほどの大きさの部分には砂が当たらないのだ。

 彼女の魔法でクリスタルリザードの姿が浮かび上がっている。


「これなら! いける!」


 私は真っすぐに奴を目指して突っ込む。


「シャアアアアアアアア!!!」


 奴は近付いてくる私に嚙みつきを放ってくるけれど、私はそれをかわしてアゴを蹴り上げる。


「ギャシャアアア!!!???」


 浮かび上がった奴に、私は追撃を加えない。

 そんな事をするよりも、もっといい攻撃を思いついたからだ。


 私は上半身をのけ反らせている奴の後ろに回り、尻尾を抱き締める。


「サフィニア⁉」

「これでも食らってください!」


 驚くミカヅキさんが多少離れている事を確認して、私はそのまま奴を地面に叩きつける。


 ビタン!


「ギシャ……」

「誰がたった一回なんて言ったんですか!」


 ビタン! ビタン! ビタン! ビタン!


 私は力の限り奴を地面に叩きつけ続けた。


「ギシャァァァ!!!」


 しかし、ずっと続けていることは出来ず、奴は私の攻撃から抜け出す。

 そして、私を警戒するように飛びのいた所にミカヅキさんは片刃の剣を抜き放って切りかかった。


「サフィニアだけにいい所は上げないよ!」


「ギャシャァ!!!」


 奴の前足が切り落とされ、赤い血が吹き出る。


 このまま押せば勝てる。

 そう思った時に、奴は想像もしていない事をしてきた。

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