第30話 嫌な予感がする

 ミツバちゃんは走って門の外に向かう。


 私やクルミさん、ミカヅキさんはのんびりと彼女の背を見ていた。


 それを見て、ネムちゃんはあわてる。


「皆さん! 何を見ているのです⁉ 急いで追いかけないと!」

「別に慌てなくても大丈夫だよ」

「ミカヅキさん⁉」

「考えてもみなよ。外にはクリスタルリザードがいるんだろう? 外がそんな状態なのに、衛兵が子供を外に出すわけがない」

「あ……」


 ネムちゃんがそっか……という顔を浮かべている。


「ま、それでも一応追いかけよう。門でなにかあって出ちゃうことがあるかもしれないし、クレハさんの居場所を本当に知っているかもしれないからね」

「ですね」


 そうして、私達はミツバちゃんの後を追う。


 彼女は意外と速かったらしく、門に到着したけれどそこに彼女の姿はなかった。


 どこに行ったんだろう? と考えて探すけれど、人がかなり多くて探すに探せない。


 だけれど、そんな事を忘れさせるような出来事が起こる。


「道を開けろ! 早く! ギルドに急げ!」

「ギルドに白魔法使いも集めておけ! 手遅れになるぞ!」


 門の所には多く人が集まっていて何があったのかわからない。


 私は不思議に思って聞く。


「何が起きているんでしょうか?」

「これは……ちょっとまずいかもしれない」

「クルミさん?」

「手伝いに行こう。なんとなくだけど……危ないことになってるかもしれないから」

「わかりました」


 いつになく真剣なクルミさんに、私達は不安を感じつつも声がする方に向かう。

 声の主達はかなりの大声で周囲に怒鳴っている。


「いいから開けろ! 緊急事態なんだ!」

「こいつらが助かるかどうかなんだ! いいから退け!」


 そう言って怒っているけれど、周囲の人達は中々退けないらしい。

 人ごみのせいで動くに動けないようだった。


 多分だけれど、外にクリスタルリザードが出るという話だったから、他の村からもこの町に避難している事があるのかもしれない。


 私達は何とか他の人達の間をって門の近くに出ると、タンカの上に載せられた冒険者がいた。

 彼らは所々包帯をまかれていてぐったりとしている。


「ネムちゃん!」

「え? なんなのです⁉ わたしの身長では見えないのです!」

「じゃあはい!」

「わわ!」


 私は彼女を肩車して、見えるようにする。


「これはどういうことなのです⁉」


 ネムちゃんが叫ぶと、運んでいた人の視線がネムちゃんに向く。

 そして、彼女の服を確認して叫ぶ。


「アンタ白魔法使いか⁉ 頼む! こいつに回復魔法を使ってくれ!」

「わかったのです!」


 私は彼らの近くまでいってネムちゃんを降ろし、ネムちゃんは回復魔法を使う。


「『回復魔法:癒しの光ヒール』」


 ネムちゃんが魔法を使うと、冒険者は落ち着いた様な息遣いになる。

 彼女はそのまま後ろの人にも魔法を使っている。


 すると、彼らの仲間の女性の冒険者がクルミさんを見つけて頼みごとをする。


「君! 魔法使いか⁉ ならわたしを屋根の上に上げてくれ! 急いでギルドまでいかないといけないんだ!」


 彼女はクルミさんに頼むけれど、クルミさんは困った顔をしている。


「こんな人が所で魔法を使ったら他の人に当たっちゃう。だから流石にそれはできないよ」

「そんな……急いでギルドにいかないといけないのに……」


 彼女の視線の先を見ると、ここからギルドまでの道のりはかなり人が多くて、普通に行こうとしたら大分時間がかかるだろう。

 でも、屋根の上なら人がいないから早く行けるということだろう。


 2人の話を聞いて、私が代わりに名乗りでる。


「では私が運びますね」

「え?」


 私は彼女をお姫様抱っこして、少し力を込めて屋根の上にジャンプする。


「きゃああああああ!!!???」

「口を閉じていてください。舌をみますよ」


 私は彼女を抱っこしたまま屋根の上を走り、ギルドの前に飛び降りた。


 ズン!


「うお⁉ 嬢ちゃん……今どこから……」

「その話は後です!」


 私はギルドの扉を蹴り破るように開けて中に入る。

 多くの人達がこちらを向いてくるけれど、私は冒険者を降ろす。


 彼女は少し足を震わせながらも、大声で叫ぶ。


「ギルドマスターを呼んでくれ! わたし達のパーティは失敗した! 急いで対処しないと……くっ……」


 そう言って彼女はひざをつく。


「大丈夫ですか?」

「すまん……クリスタルリザードにやられた傷が深かったみたいだ……」

「クリスタルリザード⁉」

「あぁ……すまん、少し……休む」

「大丈夫ですか⁉ 起きてください⁉ 白魔法使いの方はいませんか⁉」


 私は力尽きるように倒れた彼女を、近寄って来てくれた冒険者に託す。


 どうしようか迷っていると、周囲の声が聞こえてくる。


「おいおい、Bランクのあいつらが失敗したのか?」

「どんだけ強い奴がいるんだよ……」


 そう言う声が聞こえる。


 私はその声に不安を感じ、皆の所に戻りたい。

 でも、彼女をこのままには……。

「おい! 俺は白魔法使いだ! 任せろ!」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」


 私はそう言ってくれる彼に彼女を任せ、急いでギルドを出る。


 町の中にいれば、大丈夫だと思うけれど、ミカヅキさんが心配していた事が起きるかもしれない。


 急いでみんなの所に戻ると、皆は3人で話合っていた。


「皆!」

「サフィニアさん! ミツバちゃんが外に出て行ってしまったかもしれないのです!」

「本当⁉」

「門にさっきの冒険者の人達が来た時に、出て行く子供を見たかもしれないって言っていたのです!」

「なら助けにいかないと!」


 私は門に向かう。


「お前ら! こっちは今クリスタルリザードが出るかもしれないから危険だ!」

「子供が出て行ってしまったかもしれないんです!」

「本当か⁉」

「はい! 助けたらすぐに戻って来ます! だから行かせてください!」

「くっ……だが……」

「時間がないんです!」

「くそ! もし視界がゆがんで見えたら、逃げろ! クリスタルリザードいるかもしれん!」

「分かりました!」


 私達は衛兵にそうやって説明して、北の森に足を向ける。


******


***ミツバ視点***


「どうしよう……勢いで来ちゃったけど……」


 あたしはロックリーンの町の北の森にいた。

 クレハ師匠の知り合いらしき人達にケンカを売る様なことをしてしまった。

 そして引くに引けなくなって出てきてしまった。


「どうしてあんなこと言っちゃうんだろう……」


 別にクレハ師匠の知り合いなら案内しても良かった。

 だけど、あたしはクレハ師匠の弟子……そう。

 あたしはクレハ師匠の弟子だという強い想いがある。


 だから、クレハ師匠の弟子として、恥ずかしくないように色々とできるという所を見せたかった。

 でも、あの人達はみんなすごくて……あたしでは……何にもできなくて……。

 それで……それで、クリスタルリザードを倒せたらすごいねって、流石クレハ師匠の弟子だね。

 そう言ってもらえると思っていたんだけど……。


「どこにいるんだろう……師匠にもらった魔法陣なら倒せると思うけど……」


 あたしはいざという時に使え、そう言われた魔法陣を握りしめて、周囲を見回す。


「……」


 森には誰もおらず、何も聞こえない音が逆に不安感をあおりたてる。


「でも……あたしだって……あたしだってやれるんだ」


 あたしは前を向き、前に進む。

 クリスタルリザードは倒さなければならない。

 襲われたりしている商隊も増えている。


 誰かが倒さないといけないんだ。


 そう思って進んでいると、前方の方で空間が歪んで見える。


「あれは……なに?」


 あたしは足を止め、じっとその辺りを凝視する。

 次の瞬間、何かがあたしの方に飛んできた。


「きゃ!」


 あたしは慌てて横に倒れると、あたしのいた辺りにあたしの腕くらいのトゲが突き刺さっていた。


「これは……もしかして! 来るなあああああああ!!!!!」


 あたしは慌てて魔法陣を起動する。


 手の中の魔法陣が起動し、緑色の光を放つ。


 ズババババアアアン!


 師匠の魔法陣から突風が生まれ、周囲の木々をなぎ倒していく。

 突風はクリスタルリザードがいる辺りを通り過ぎる。


「嘘……」


 しかし、師匠が作った魔法陣では、クリスタルリザードを倒す事はできていなかった。

 ただ奴の全身はかなり傷つき、見える目からは強い敵意が感じられる。


「クレハ師匠……」


 あたしはそうつぶやくことしかできなかった。

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