第21話 アースシャーク

「ギシャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

「なにあれ⁉」


 私が地面を掌底で打ち付けると、周囲からはアースシャークが20体近く飛び出てくる。

 しかも、それだけではない、頭に王冠おうかんを乗っけているような黄色いトサカを持ち、大きさも他のアースシャークの2倍はあるアースシャークが出て来たのだ。


 クルミさんは驚いて叫び、ネムちゃんがそれに答える。


「あれはキングアースシャークなのです! トサカが珍味として人気で高額です! 強さは単体でCランクはあるのです!」

「分かった! トサカだけは壊さずに倒せばいいんだね!」


 私は目に炎を宿らせ、キングアースシャークに突撃する。


「まずは頭!」


 私は空中でにらみつけてくる奴の頭を思い切り殴る。


「ギシャアアアアアアア!!!」

「嘘。今のでダメなの?」


 思い切り殴ったんだけれど、奴の体はゴムのように柔らかく跳ねてそのまま土に潜っていった。


 どうしようか考えるまでもなく、ネムちゃんが教えてくれる。


「サフィニアさん! やつの弱点はトサカなのです! あそこを強すぎないくらいの力で叩けばそれだけで動けなくなるのです!」

「そうだったの⁉ 分かった!」


 私は返事をして、キングアースシャークに向かう。

 その際に他の皆を見ると、クルミさんは魔法でアースシャークを氷で貫いていて、ミカヅキさんは剣で首を落としていた。


 私はご飯が増えたことに喜びを隠せず、笑顔のままキングアースシャークに向かう。


 そして、奴が土に潜った辺りを踏みつけた。


 ズン!


「ギシャアアアアアアア!!!???」

「次は逃がしません!」


 奴は先ほどと同じように飛び出てくる。


 私は空中にいる奴の頭に乗り、頭を足ではさんで固定する。

 これで空中で暴れるキングアースシャークに振り落とされることはない。


「何をするのですか⁉」


 叫ぶネムちゃんに私は実演じつえんする。


「こうするんです!」


 目の前にあるトサカに向かって、小刻みに少しずつ衝撃を与えていく。


 ネムちゃんが言う丁度いい衝撃というのが分からなかった。

 だから、丁度いい衝撃を受けてこいつが気を失うまでどんどんと威力を強めていけばいいのだ。


 美味しい物を食べるために、私は妥協しない。


「ギシャアアアァァァァ……」


 そして、10発ほど殴った所で、キングアースシャークの動きが完全に止まった。

 地面に落ちても土に潜っていくこともなくなり、周囲に音はなくなる。


 クルミさんとミカヅキさんが倒してくれたのだろう。


 私は満面の笑みでみんなに向きなおった。


「ふぅ……皆さん! ご飯にしましょう!」

「こんな生き生きしてるサフィニア初めて見たかも」


 そうぽつりとクルミさんが漏らす。


「クルミさん! 早くキッチンを魔法で作ってください!」

「は、はい」


 私達はそれから調理を開始する。

 解体はネムちゃんがある程度分かるということで、彼女の指示で私とミカヅキさんが行う。


 今まで使っていた包丁ではできないけれど、ミカヅキさんが予備を貸してくれたので問題なかった。


 ミカヅキさんは包丁を貸してくれる時に申し訳なさそうに包丁のつかを差し出してくる。


「ごめんね、サフィニアちゃん。前の街でやれていれば良かったんだけど……」

「気にしないでください。ゆっくりと包丁を直すような余裕はありませんでしたし。それよりも今はこのアースシャークです! 食べたくて仕方ありません!」

「あはは……そっか。そうだよね。なら、気合を入れてやろうかな!」

「はい!」


 私達はアースシャークを解体する。

 半分くらい解体し終わった頃、私は調理に向かう。

 残りは全てミカヅキさんがやってくれるということだ。


 ネムちゃんはアースシャークを使ったスープを作っていて、クルミさんは周囲に敵が来ないか警戒をしてくれている。


 なので、私は安心して目の前の真っ白く美しいアースシャークの肉をどう調理して行くかを考える。


「やっぱり魚だし焼く……かな? 調理方法は……」


 カバンの中にある物を見た。


「ほとんどないよね……」


 残っていた食材は全て食べきった。

 今ある材料は味付けに使える塩コショウや少量のバター、後は調理用にある少量の小麦粉くらいだろうか。

 これがもっとあればパンでも作れたのに……と、話がそれた。


「この感じなら……これかな」


 私は作る料理を決めて、アースシャークの肉をそれぞれ食べやすい大きさに切っていく。


「フライパンを火にかけて……」


 フライパンが温まる間にアースシャークの切り身に塩とコショウをまぶしていく。

 塩コショウで味付けをした上から、小麦粉を薄くまぶしてフライパンの準備を待つ。


「いい感じで温まったかな」


 フライパンに手をかざして確認すると、そこにバターを放り込んでいく。

 バターは熱で溶け、バターのよい香りが立ち上るのを嗅いでから、アースシャークの肉をきれいに並べる。


「うん! いい匂い!」


 アースシャークの肉を片面焼き、引っ繰り返して焼き色がついているのを見てからフタをする。

 そして、少し待っている間に、後ろで気配がしてみると、3人がじっと私の後ろでフライパンを凝視していた。


「み、みなさん?」

「美味しそう……。ポーションに合う?」

「わたしのスープといい感じに合いそうなのです」

「これは楽しみだね」


 3人がそう口々に言って楽しみにしてくれていた。


 少し待ってから私はそれを皆の前に出す。

 テーブルやイスはクルミさんが魔法で作ってくれていた。


「それでは、これが今日の料理、アースシャークのムニエルです!」


 私はみんなの前に均等になるように出す。


 その光景を見たクルミさんが楽しそうに笑う。


「うん! とっても美味しそう! 流石サフィニアちゃんだね!」


 それに続くのはネムちゃん。


「本当です! あれだけの手際は中々なのです!」


 ミカヅキさんも私の事を労ってくれる。


「そうだね。お腹空いてるのにちゃんと分けてくれて、ありがとうね。アタシ達のことは気にせずしっかりと食べるんだよ?」

「まるでお母さんみたいな言い方なのです」


 そんな会話をしてから、私達は目の前にあるムニエルと、ネムちゃんが作ってくれたスープを食べ始める。


 私が食べるのはムニエルから、大丈夫だろうと思っていたけれど、火もしっかりと通っているし、アースシャーク本来の味がいいのか、少ない下味だけでも十分に美味しい。

 さっぱりした白見魚を思わせるけれど、その奥には紛れもない深みを感じさせる。

 一口食べてこれがアースシャークかと思っていたら、その後からまだまだこんなもんじゃないと更に味が拡がっていく。


「美味しい……」

「うん」

「なのです」

「だねぇ」


 皆も久しぶりだからか、口数は少なくただ目の前のムニエルをひたすらに食べていく。


 そして、大量……確か一匹丸々分作ったけれど、それを食べきってしまった。


「はぁ……美味しかった……」


 私がある程度満足してそう言うと、ネムちゃんは自信たっぷりに言ってくる。


「サフィニアさん。スープも是非飲んでほしいのです。キングアースシャークのトサカも入っていて、食べたことがない味がするはずなのです」

「ありがとうネムちゃん」


 私は彼女にお礼を言って、スープを口に入れる。


「!!??」


 その瞬間体に電流が走った気がする。

 比喩ひゆではなく、文字通り本当に電流が体を貫いたような気がするのだ。


「これは……」

「ふっふっふ。今電流が走ったと感じたのですね?」

「う、うん」

「それこそがキングアースシャークのトサカの特徴なのです! それは電気をためているらしく、食べると電流が走ったような感覚を味わう中々ない食べ物なのです! 普通に食べると強すぎるので、小さく刻んで食事にまぶしたり、こうやってスープに入れるのが一般的なのです」

「こんな食べ物があるんだ……」

「そうなのです。これでもワールドマップを作ろうとしているのですよ」

「ありがとうネムちゃん! 本を読んで色々と料理を知っている気にはなっていたけれど、そうじゃないんだね!」


 家にいた時、師匠が持っていた色々な本を読んでいた。

 私がやっている調理法もそうやって本に載っていたものに過ぎない。

 でも、それ以外にも色々と……沢山の調理法や、食材があるのかもしれない。


 私がそんなことを考えていると、クルミさんが楽しそうに言ってくる。


「サフィニア。それなら次の町はいいかもね」

「どうしてですか?」

「次の町はロックリーン。この辺りの交通の要衝ようしょうでね。リンドールの町の串焼きはもちろん、その他周辺の色々な料理が集まる町なんだよ」

「本当ですか⁉」

「うん。楽しみだろう?」

「はい! 楽しみです! 今すぐに行きましょう!」

「え? まだ食べて」

「なら私がこのまま皆さんを運びますね! クルミさん! このまま魔法で少しだけ浮かしてください!」


 私がそう言うと、クルミさんは笑顔のまま固まる。


「え、それ……はちょっと……どう……しよう……かな?」


 しばらく持ち上げる持ち上げないということで話す。

 だけれど人に見られたら大変、ということで普通に歩いて行くことになった。



 それから歩くこと2日。

 私達は次の町、ロックリーンに到着した。

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