第22話 花火より


 とりあえず、ハッカ味ばっかり俺に寄越すの、やめてもらっていいですか?

 ずっとスースーするから嫌なんだけど。



 まあそれはいいとして…


 結局、今回もお目当てのぬいぐるみをゲットすることは出来ず、代わりに取れたのは缶に入った飴のドロップだった。


 仕方ないから、とりあえず涼花にあげたんだけど、思いのほか喜んでくれて、今もご機嫌で舐めている。そしてなぜか、ハッカ味ばかり俺にくれる。


 うん。まあいいよ。楽しそうだし。






 ちょっと落ち着いたので、ここで改めて四人の感情を整理してみる。


 まず西野は総司に好意を寄せている。でも見てるとなんだか、彼女の恋愛感情的なものが、薄くなっているように思わなくもない。でも、なぜそう感じるのかは分からない。


 次に林。こいつは瑠美のことが好き。でも、たぶん間違いなく、瑠美は林のことを嫌がってる。空気読んで諦めろよ。


 その瑠美は少し総司に惹かれている様子。

 そしてその総司は、西野のことは部活の後輩として、優しく接している感じ。瑠美に対してもその後輩の友達として、優しくしているだけのように見える。

 たぶんそう見えてるはずだけど、さっき射的で取ってあげたぬいぐるみを渡す時、西野には普通に渡してる感じだったのに、瑠美の時は少しだけ、はにかんだように俺には見えた。

 あ、どうして瑠美にもあげてたかと言うと、西野のお目当てのぬいぐるみがすぐ取れて、余った弾で瑠美の分まで取れちゃったから。

 イケメンは何でも出来る。納得いかないのはそうだけど、総司ならいい。そう思えるこの男は、やっぱりカッコいい。



 とにかく、今日はっきりしたことはある。

 それは林には気を付けて、暫くは目を光らせる必要があるということ。





 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 もうすっかり暗くなった頃、


「そろそろ花火始まるぞ」

「あ、もうそんな時間か」

「じゃ移動しようぜ」

「あ!あっち結構空いてますよ」

「いいね。行こ」



 みんなで一緒に移動して、場所を確保する。前に左から林、奈緒ちゃん、瑠美、総司、西野の並び。これは何気にそうなるよう俺が誘導した。最低でも、瑠美と林が隣にだけはならないように、と。そしてその後ろには、俺と涼花。



 辺りは花火が見えやすいよう薄暗く、少し離れた場所から、提灯の灯りがほのかに揺らめくのが見える。


「ね、わくわくするね」


 隣の涼花が、小声で話しかけてくる。


 ふと見ると、子供の頃を思い出すような無邪気な顔。その顔からは、気心知れた幼馴染みに対する、今は更に、恋人となった俺に対する安心、信頼、そして愛情を感じる。


「そうだね」


 俺は手を繋ぐ。もちろん恋人繋ぎで。


「…っ!」


 一瞬身体を強ばらせた彼女だったけど、すぐその手を握り返してくれて、


「…もう…急にとか、ずるいよ…」


 小さな声で、俺にだけ聞こえるように、不機嫌そうに呟く。

 夜空を見ながら、俺が「いいじゃん」と言うと、「…うん、いいけど…」と、ちょっと嬉しそう。




 ドーンッ!!



「「「わーー!!」」」


 打ち上げられた最初の花火。

 辺りからも歓声が上がる。


「花火、綺麗だな」

「う、うん」


 花火の明かりで、さっきまでよりよく見える彼女の顔は、心なしか朱に染まっている。それが花火のせいなのかなんなのか、それは分からないけど、でも可愛くて、そして、浴衣姿の涼香は綺麗で、つい見つめてしまう。


「ちょ…何よ…」

「つい…見惚れてた」

「ふぇ…」


 ついそのまま言ってしまったけど、涼花もビックリして真っ赤になって、手をさっきまでより強く握り、俯いてしまった。


「…花火、見えなくなるぞ?」

「…誰のせいだと思ってるのよ…」

「だよな」

「もう…」

「ごめん」

「ん…いいよ…」

「うん…」


 俺達の前には総司たちがいて、みんな夜空を見上げ、楽しそうに花火に見入っている。

 その後ろでイチャイチャしてる場合じゃないよな…


 俺はそう思い、花火を見ようと顔を上げようとしたその時、なんとなく涼花に手を引かれた気がした。

「どうした?」と俺がそちらに向く前に、何か顔に近付く気配が。


「ん…」

「え…」


 微かに、でも確かに頬に、あたたかくて柔らかい感触があった。


「ほ、ほら!!花火だよ!」

「ああ、うん…」




 プイっと顔を背け、空を見上げる彼女の耳は真っ赤になってる。たぶん俺も赤くなってて、顔が熱くて慌てて顔を背けてしまう。



 それから花火が終わるまで、俺達は何も話さなかった。でも最後まで、繋いだ手が離されることはかった。





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