第21話 射的


 屋台を見て回りながら観察していると、何かと絡む林を、瑠美は軽くいなしている。

 笑顔は笑顔なんだけど、たぶん嫌がってるはず。そんな瑠美を目で追う林は、明らかに好意を持ってる。


 まあ実際、普通に可愛いよ。

 でも、ちょっと露骨かなぁ、と思わなくもない。

 これくらいの年代の男子ならそんなもんかもしれないけど、ちょっとなぁ…


 これ、たぶん予想通り、件はそういうことになるんだろうな。




 で…、



 俺は今すぐ、林をぶん殴りたくなった。


 だけど、林は何もしていない。

 だからここで手を出すわけにはいかない。

 それに、真相は前世の瑠美しか知らないのだから、今ここで100%犯人がこいつだと、決めつけることも出来ない。

 むしろ過去にやって来た俺には、もう真相を知る機会は永遠にやって来ない。前世に戻らない限り無理だ。

 くそっ…もどかしいな……


「……くん?」

「え?」

「ねえ、凌くんってば…」


 気が付くと、涼花が不安そうな顔で俺の袖をつまんで引っ張っていた。


「あ、どうかした?」

「どうかした?じゃなくて…。なんかちょっと恐い感じになってたよ?」

「そ、そうかな、ごめん」

「まあ、分かるけど」

「う、うん。ごめんな」

「ねえ、あの子のこと、そんなに大事?」

「え…」


 少し寂しそうな顔でそう言う涼香に、俺は何も言えなくなる。

 涼花からすれば、知り合い程度の下級生。だからそこまでの接点もない。


 でも、俺からすれば、そうじゃない。過去に戻って来る時の、一番の理由はこれだったんだ。だから、同じことを繰り返させるわけにはいかない。


 もちろん涼花は、そんなことは知らない。

 俺も自分と同じように、ただの見知った下級生と思ってると考えているはず。

 そんな女の子のことを、俺が必要以上に心配していると感じてしまっても、それは当然だろう。



「おーい。置いて行っちゃうぞ」

「あ、待ってくれよ」

「お!射的ある。みんなでやろうぜ」

「ああ、いいな」


 先に歩いていた総司に声をかけられ、俺達もそちらに向かうと、総司は西野にせがまれ、景品のぬいぐるみを狙っている。


 こういう時、イケメンの幼馴染みは…うん、カッコよく取ってる…さすがだ…。


 俺も並んでやってみるけど、なかなか上手くいかない。隣の林も、瑠美にいいとこ見せようとしてるふうだけど、同じような感じ。


(なんか既視感あるな…)


 ふと後ろに目をやると、涼花はまだ少し伏せ目がちで、さっきのことを気にしてるのは一目瞭然。このままあやふやにしたまま、っていうのは良くないよな。


 つい「ごめんな」と言いそうになるけど、なんとか堪えた。

 ここで謝るのは違うと思うし、でも、なんて言ってやるのがいいんだろう。

 せっかく楽しもう、って話してたのにな…


「なあ、涼花」

「うん…」

「最後に一緒に来たのって、小3くらいの時だっけ」

「…違う…4年生だった…」

「あれ…そうだっけ?」

「3年生の時はうちの親と、凌くんちのみんなと一緒だったよ」


 だよな。それは覚えてる。


「4年生の時に来たっけ?」

「うん…その時は、学校のみんなと来たの」


 …うん。言われてみれば、来た気がする。


 でも確かその時にはもう、集まるのはみんなで集まったけど、お祭りは男子と女子で分かれて行動してたと思う。


 そう思うけど…あ!…思い出した…


「あの時もみんなで射的やったよな」


 そうだ。総司やみんなと一緒にやった。


「それであの時、凌真は…」

「言うな!!分かったから言うな!」


 咄嗟に、ちょっとニヤけ顔の総司を黙らせると同時に、あの時のことが甦ってくる。


「猫のぬいぐるみだったっけ」

「え…」

「今度は取るから」


 あの日、涼花は景品の猫のぬいぐるみが欲しいと言って、俺はお小遣いをけっこう注ぎ込んだけど、結局取ることは出来なかった。


(今度こそは…)


 幼馴染みの彼女にいいところを見せたい、って気持ちがあるのはもちろんだけど、今はただ涼花に笑ってもらいたくて。


 この時はただその想いだけで、コルク銃の狙いを定める俺だった。




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