第20話 あまり記憶にない


 俺と涼花は約束の時間の20分前、集合場所になっていた神社の近くの公園に着いた。


 俺達に気付いた総司が軽く手を挙げ、そちらに歩いていくと西野と瑠美の姿もあり、どうやら林兄妹以外は揃っている様子。


「はぁ…先輩、見せつけてますよね?」

「いきなりなんだよ」

「それ…」

「あ…!」


 そうか。ずっと手繋いでたんだな。

 西野に言われ、慌てて手を離す俺達だが、


「いいですよ、そのままずっと手繋いでくっついてればいいんです」


 と、ジト目で更に詰めてくる。


 くっ…!

 こいつ…


「まあいいじゃないか。仲良いんだから」

「ねー。ですよねー」

「いや、ごめん…俺が悪かったから…」

「どうして?お前は悪くないだろ?」

「そうですよ。先輩達は悪くありません」

「いや、だから…」

「気にすることないぞ。手繋いでろよ」

「そうです。繋いでて下さい」


 いたって真面目なトーンの総司と、明らかにからかってる感が満載の西野。


「もう勘弁してくれ…」

「うん…もう許して…」


 隣の涼花も真っ赤になって、少し俺の後ろに隠れて涙目になってる。


「そうか?なんか悪かったな」

「ああ…こっちこそ…」


 察していない総司は頭の上に「?」マークが浮かんでいそうだけど、とにかくこの話はもう終わりだ。…終わりにしてくれ!



 ちなみに、瑠美と西野も浴衣姿だった。

 瑠美は爽やかな水色に朝顔の柄が控えめに入った、華やかながらも落ち着いた雰囲気。

 対する西野は、オレンジ色っぽい生地に少し幾何学模様のような感じの、派手ではないけど明るい印象の浴衣。

 二人とも、なんとなくキャラと合ってて似合っていると思った。


「林達はまだか?」

「だな。ま、時間までまだちょっとあるし」

「少しくらいなら遅れても仕方ないか」

「……えっと、たぶん、ですけど…」


 そう俺達の会話に入ってきたのは、珍しく瑠美だった。


「林先輩は昔からそういう人というか…」


 そういえば、夏休みの部活もたまに遅れて来たり、なんならそのまま来なかった日も何日かはあったな。

 それにしても「昔から」と言うあたり、家も近所みたいだし、林は瑠美の幼馴染になるってことか。ん~…またモヤモヤする…


「ん?橘ちゃん、あの人と仲良いの?」


 おっ。西野、渡辺ちゃん呼びか。

 ていうかあの人呼ばわり…


「子供の頃から知ってるってだけで、ただの友達のお兄さんだよ」


 まあそうだよな。

「へーそうなんだ」なんて適当な相槌を返しつつ、皆で話しながら待つことに。




 約束の時間を15分程過ぎた頃、林と妹さんはやって来た。


「すみません!兄がグダグダしてて!!」


 と頭を下げるのは、妹さんの奈緒ちゃん。

 えっと、なんて呼べばいいんだろ…


「ほら!お兄ちゃんも謝って!」

「うるせーなぁ。大丈夫だって」

「もう!本当にすみません!あ、私、妹の奈緒です、はじめまして」


 ペコリとおじぎする奈緒ちゃん。


「この子、明るくていい子だな」なんて思い、少しほっこりしてしまう。


「私のことはみなさんが呼びやすいよう呼んでくださいね。あ、瑠美ちゃんやほー♪」


 と言って、瑠美と西野の方に駆け寄って行く。とりあえず奈緒ちゃんって呼ぶことにしようかな。


「で、何やってたんだ?」と笑顔で聞く宗司に対し、「悪ぃ。漫画読んでたらさ」と、悪びれる様子もなく、頭を掻きながら答えるこの男。


「ったく。気をつけてくれよ」

「はいはい。新キャプテンの言うことは聞いとかないとな」


 やれやれといった感じで肩を竦ませる総司に対し、反省の色も見せない。


 あれ?林ってこんな奴だったっけ?


 前世の時のこいつとの詳しい記憶、あんまりないんだよな。てことは、特に仲良くもなかったんだろうな。まあ、今の総司とのやり取りを見てれば、それも納得だ。


 そして妹を追いかけるように、瑠美と西野の所へ行く林。後輩女子達と楽しげに話しながらも、視線は瑠美を追っている。



「ねえ…」


 俺の袖をちょこんと摘んで、涼花が言う。


「どした?」

「あの…頑張ろうね…」


 ああ、涼花も林の方見てるし、あいつのこと見張っとこう、って話かな。


「うん。そうだな」

「でもね…」

「うん?」

「…せっかくなんだから…」

「うん」

「私達も楽しもうね…?」


 少し心配そうに、上目遣いでこちらを見ている彼女に、


「当たり前だろ?」

「う、うん!」

「じゃあ俺達も行こうか」



 とりあえず、今は中学生らしく楽しもう。





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