第8話:後始末

「よしよし」


 これで一件落着。 

 そんな気分で俺は頷いたわけだが、んん?

 思わず周囲を見渡すことになった。

 いつの間にかだが、周囲には大勢の村人が集まってきていた。

 村長やリズを心配してのことに違いないが、安心してくれただろうかね?

 頭領を筆頭に、この場の略奪者は無力化出来たわけだし。


 まぁ、まだ安心って胸中にはほど遠いっぽいが。

 この結末に、彼らの誰もが信じられないといった表情で固まっている。

 な、なんか気の毒に思えるよな。

 あのアホ共は、彼らにとっては排除なんて思いも寄らない脅威だったんだろうなぁ。

 是非とも、うん。

 今後はアイツらのいない平穏を味わって欲しいところだが……ただ、今はちょっとな?

 ちょうど良いし、ちょっと働いてもらうとしようかね。


「あー、悪いけどさ。アンタらでコイツらを縛り上げてもらっていいか?」


 拘束をお願いしたのだった。

 正直面倒くさいし、あと他にしたいことがあるし。

 村人たちが慌てて動き出す中で、俺もまた歩き出す。

 向かう先は村長だ。

 彼女もまた村人たちと同じような表情をしていた。

 フォルネシアの使い魔に支えられている彼女は、俺を呆然として見つめてきた。


「あ、貴方……貴方たちは……」


 聞きたいことがあるらしかったが、それは後回しにしてもらうとしようか。

 俺は彼女の頭に手を添える。

 そこにある傷口を確認して顔をしかめることになる。


「うわぁ。アイツら手ひどくやりやがって……フォルネシア!」


 叫んだが、その必要はまったく無かった。

 フォルネシアは、リズをともなってすでに近寄ってきていたのだ。

 んで、彼女は俺を見つめて「ふーむ?」だった。

 眉をひそめた表情を見せてくる。


「どうじゃな? お前さんでは難しいということか?」


「出来ないことは無いだろうが、けっこう酷いもんでな。頼めるか?」


「もちろん。しかし、まったく。見下げ果てた連中だのぉ」


 ぷんすかと怒りながら、フォルネシアは村長へと近づく。

 彼女はすぐに表情を怒りから笑みへと変えた。

 村長の頭を優しく撫でさする。


「よく我慢したな。すぐに良くなるからの」


 燐光りんこうがわずかに宙を泳いだ。

 村長は「え?」と驚きを呟き、自らの頭をさする。


「傷が……え?」


「ははは、もう痛みは無かろう。あぁ、感謝はいらんぞ。それよりも……のぉ?」


 フォルネシアは笑顔で村長からわずかに離れた。

 俺も当然右にならえだ。

 空気を読んで、村長からちょいと距離を取る。

 

 邪魔しちゃそりゃ悪いからな。

 これで残されたのはリズだ。

 治療が終わって、彼女は我慢なんかしなかった。

 一目散に村長の胸に飛び込む。

 体を預け、肩を震わせ続ける。

 村長もまた彼女をいつくしむのだった。

 リズを抱きしめ、その背をさすり……ようやく安堵出来たんだろうか。

 その疲れた頬に静かに涙をつたわせた。

 

 そうして夕闇の中、静かに時間は流れる。

 嗚咽の声ばかりが静かに響き続ける。


「……うぐおえ」


 これは俺のものであったのだが、ち、違うけどね?

 決して嗚咽をもらしたわけじゃない。

 2人の無事の再会に感動しているなんて、そんなわけが無い。


 まぁ、だったら何なんだと聞かれたら正直困るが、決して違うのだ。

 フォルネシアにしても同じだ。

 目と鼻からダラダラと何かを流していたりするが、まさか感涙しているなんてあり得ない。

 だったら何なんだと聞かれたら、やはり困るけど。

 正直、答えようは無いけれども。


 とにもかくにもである。


 抱擁ほうようの時間が終わる。

 2人は赤い目をして頭を下げてくる。


「何とお礼を言った良いのか分かりませんが……ありがとうございます。本当にありがとうございます」


 そして、村長がお礼を伝えてきたのだが……何を言っているのやらだな。

 筋違いも良いところだった。

 俺は「ふん」と鼻を鳴らして見せることになる。


「礼なんていらねぇよ。こちとら仕方なくだ。契約しちまったんだから、それだけだ」


「そうじゃそうじゃ。礼などは無用。これは契約の範疇はんちゅうだからの」


 フォルネシアも同意してきたが、そういうことだった。

 本当仕方なくだ。

 善行になんて興味も欠片も無いが、契約であればと仕方なく手を貸すことになっただけなのだ。


 しかし、どうにも誤解がありそうだった。

 彼女たちは笑みを浮かべていた。

 本心は分かっていると言わんばかりの優しい笑みをその頬に浮かべていた。


(い、居心地悪っ!)


 悪徳勇者的にはどうにもいたたまれない時間であった。

 ということで、ごほん。

 俺はせき払いをして話題を変えることにした。


「しかし、うん。とりあえずだが、そいつはそのまま返しておくからな」


 俺はリズを指差した。

 正確には彼女の手にあるものだな。

 預けておいた金貨の詰まった革袋。

 母娘おやこはどちらも「え?」と目を丸くした。

 んで、母親の方が目を丸くしたままで尋ねかけてきた。


「それは、あの……ど、どういうことですか?」


「依頼は山賊どもの掃除だからな。頭は捕まえたが、残党はまだまだどっかにいるだろうし」


 やはりとして、彼女も俺と同じことを思っていたらしいな。

 フォルネシアが「うむ」とすかさずの頷きを見せる。


「そうじゃな。根城を探して潰しての。搾取された物品も回収してな」


「あぁ。そこまでやって依頼は達成だろうし……あー、そうだそうだ。今後も大事だな。村長さんよ、なんかアテとかないのか?」


 村長は「アテ?」と首をかしげる。

 まぁ、言葉足らずだったよな。

 俺は頭をかきつつに彼女に応じる。


「あー、すまん。俺が言いたのはアレだ。今後も魔物の被害はあるだろうし、またタチの悪い山賊どもが来るかもしれねぇだろ?」


「……村を守るための……えー、傭兵などのアテということでしょうか?」


 その通りであり、俺は頷きを見せる。


「そういうこった。で、どうなんだ?」


 聞いておいてなんだが、現状を考えればそりゃあな。

 村長はやはりとして悄然しょうぜんと首を左右にした。

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