第7話:退治のお時間

 やっとだな。

 

 うだうだとやり取りを続けることになっていたが、やっと戦闘が始まってくれるらしい。

 周囲の子分どもが動き出した。

 剣やら斧やら棍棒やら。

 それぞれの得物を手に俺たちに迫ってくる。

 しかしまぁ、アレだな。

 ナメられたもんだね。

 アイツらの誰もが、俺たちを侮りきった笑みを浮かべている。


「おいおい。ナメた態度とってくれたけどさ、お兄さん大丈夫?」


「俺たち強いよ? で、優しくないよ?」


「しかし、その剣なんだ? もしかして抜けねぇの? まさかオモチャか? 兄ちゃん、来るとこ間違えたな」


 特に応じる気にはなれない罵倒の羅列だったけどさ。

 一応ね。

 最後のについては応じておくことにした。


「そりゃ抜けねぇよ。お前らを殺したいヤツなんていくらでもいるからな。さすがに、俺が横取りしちゃマズイだろうさ」


 意味合いとしては、村長へのメッセージだった。

 出過ぎた真似をするつもりは無いということで……まぁ、やるかね。

 

 俺は踏み込む。

 駆け出す。

 そして、呆れる。

 やっぱ大した連中じゃ無いな。

 俺はさして真面目に動いてはいないのだが、誰も視線ですら追ってこれない。

 

 ということで、楽々と手近な1人に肉薄することになる。

 あとは簡単だ。

 へ? とでも言いたそうなマヌケ面を、下からバガンッ! だった。

 鞘付きの長剣で、死なない程度に打ち抜く。


「ぐがっ!?」


 悲鳴が上がったが、どうでも良いので次だな、次。

 近くにいたので、2人に3人。

 軽く跳躍しまして、4人に5人。

 流れの中で、適当に打ち倒していく。

 

「す、すごい……」


 フォルネシアの腕の中で、リズがそんなことを呟いてくれたのだった。

 嬉しい反面、俺は真顔を彼女に返すことになった。

 だって、うん。

 過剰な称賛だし。

 いやいやと手のひらを横に振って見せることにもなる。


「すごかない。コイツら雑魚いぞ。ちょっと、うん。本当にすごかない」


 まったくもってそうなのだ。

 俺は頭領に呆れの目を向ける。


「えーと、何だっけか? 腕自慢の20人? マジで? 勇者でも兵士でも何でも良いけどさ、どこの新米でもコイツらよりはよっぽど手応えがあるぞ」


 本当に素直な疑問だったが、答えていただけそうには無いかね。

 頭領は顔を真っ赤にして怒声を上げた。


「そ、その女だ!! 村長だ!! 人質にしろ!!」


 俺は「なるほど」と頷くことになる。

 判断としては悪く無いわな。

 真っ向勝負では敵わないと理解して、からめ手に打って出る気になったわけか。


「お、お母さんっ!!」


 その悲鳴は当然リズのものだった。

 母親を心配しての叫びに違いないが……な、なんか申し訳ないな。

 無駄に心配をさせてしまったと言うかなんと言うか。

 心配の必要なんてまったく無いのだ。

 そのことに彼女も気づいたらしい。

 リズは目を見張って小首をかしげる。


「お母……さん?」


 実際のところ、疑問の対象は母親では無く、その周囲だろうなぁ。

 何かが立っていた。

 枝葉で紡がれた、人の形をして人の大きさをした何か。

 数えて6体いるが、まぁアレだ。

 フォルネシアの使い魔だ。

 頭領の手下どもは、突如出現した人形ひとがたに明らかにひるんでいた。

 ただ、頭領の命令があってのことだろう。

 5人ばかりがおっかなびっくり使い魔に挑んでいったが……まぁ、そうなるわな。


 けっこう強いんだよな、アレ。

 下っ端どもは気勢を上げて斬り掛かったのだが、わずかに切り目をつけてそれで終わりだった。

 んで、反撃だ。

 彼らは人間もかくやの動きを見せた。

 洗練された動きでの格闘にて、雑魚どもを見る間に駆逐し尽くした。


「……あー、すまぬのぉ。無駄に心配させてしまったな」


 そうして、フォルネシアは微笑んだ。

 リズの頭を優しく撫でた。


「ヤナにばかり良い格好をさせるわけはいかんからな。任せておくがいい。お前さんと母御殿の安心はワシが受け持つからの」


 つーことで、そろそろかね?

 俺は立ち尽くしている頭領に首をかしげて見せる。

 

「なぁ、もういいだろ? さっさと大人しく縛られとけ。どうせお前らは殺されるだろうが、それまでに無駄に痛い思いはしたかないだろ?」


 わりと親切心からの助言だったが、どうやら受け入れられることは無いらしい。


「ち、ちくしょうがっ!!」


 頭領は腰の長剣を引き抜いた。

 その勢いのままに頭上に振り上げる。

 俺に向けて、渾身こんしんのといった様子で叩きつけてくる。

 

 俺はなんとも「うーむ」だった。

 どうしたもんかね?

 避けるのは簡単だ。

 だが、今後この男を扱う村人たちのことを思うとねぇ?

 

 扱うには、心を折っておいた方が楽だろうな。

 ということで、俺は長剣の一撃を待ち受けることにした。 

 素手で。

 ひらいた片手で剣撃を待ち受ける。

 あとはタイミングよく……あらよっと。

 特に苦労も無かった。

 親指と人差し指の腹で、長剣をつまみ止めることに成功する。

 頭領は唖然と目を見開いた。


「ば、馬鹿な!? こんな馬鹿な……っ!?」


 頭領はなんかもう全力で力を込めているらしいが……う、うーむ。

 刀身をつまみつつに、俺はなんとも呆れるしかなかった。


「おいおい、これでイキがってたのかよ? 剣閃はくっそ遅いし、練気も大したことないし。さすがに恥ずかしいぞ、お前」


「こんなっ……こんな……っ!」


「こんなじゃ無いっての。で、どうだ? お前の実力でどうだ? 俺たちに勝てそうか?」


 どうにも良い未来は描けなかったらしい。

 長剣から力が抜ける。

 それどころか足腰にも力が入らなくなったのか。

 頭領はペタリとその場にへたりこんだ。


 俺は頭領の顔を覗き込む。

 まぁ、良い感じだな。

 表情はまったくの虚ろで、抵抗するような元気はさっぱり無さそうだ。

 

 それでも一応として、アゴを殴って気絶はさせておきまして……よし。

 俺は残った連中を見渡す。

 頭領はこんなになったぞって、投降とうこうを呼びかけようと思ったのだ。

 ただ、その必要は無いかね。

 ドサリ、ドサリと重い音が響き続ける。

 俺の視線を受けて、連中の誰もが武器をその場に落としたのだった。

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