仁内大介は復讐者である!

第37話 作戦会議

 超人集団シルヴィが山梨県の片田舎の公立高校を金に物を言わせて買収し、その校長となった仁内大介が挨拶代わりに無理矢理始めた三日間の祭り。

 

 クラス替えの指名権を得るための競争も二日目が終わり、いよいよ最終日を残すだけになった。

 

 琉生個人としてはさほど関心が持てないイベントではあったものの、琉生と一緒のクラスになりたいと願う一文字真子は、妹の桜帆が「人が変わったよう」と形容するほどの熱意を見せ、現在ランキング二位にいる。


 しかしシルヴィの若手で、この学校に転校してきた杉村光がランキング一位にいると予想されており、この状況は黒魔子にとって好ましいものではない。


 なぜか黒魔子が嫌がるようなことをネチネチしてくる杉村光が「私の琉生くん」を自分のクラスに引き込むに違いないと彼女は考えているのだ。


 琉生が持っていたあまり多くないポイントを黒魔子にすべて振り込んでみたが、やはり順位は変わらない。


「思った以上に差が開いているかもしれない……」


 琉生は思い悩む。

 自分が勝とうなんてこれっぽっちも思っていないが、真子さんが勝ちを望むなら、その願いは実現させたい。


 大神完二の七番勝負が終わったあと、琉生は前友司を自宅に誘い、まずは父が経営する手打ちそば「スパーク」の人気商品、天ぷらそばをごちそうした。


「こ、これは……」


 一口食べて、前友は電撃を浴びたように体を震わせた。


「噂には聞いていたがバリバリに旨いな……」


 あとは無言で狂ったように食べ始め、琉生の父はその姿を満足そうに眺める。


「いい食べっぷりだ」


 旨いと言ってくれて嬉しいし、息子が珍しく友人を連れてきたのも嬉しいようだが、琉生には考えがある。


「じゃあ、前友くん、そういうわけで……」


「わかった。今日から俺はあんたの奴隷だ」


 一ヶ月間、そば食べ放題の権利で己の人権をあっさり放棄した男がここにいる。


「で、桜帆ちゃん、タブレットは治りそう?」


 前友は学校から支給されたタブレットを自身の不手際で水没させてしまい、それから動作不能になっていたが、桜帆は慣れた手つきでタブレットを分解、修理している。


「駄目になった部品を交換すればいけると思うよ」


 惚れ惚れするくらい器用に半田ごてを扱う桜帆。

 機械をいじることが何より好きな彼女にとっては至福の時間だ。


「それにいろいろわかった。やっぱりシルヴィはこの端末に手を加えてる」


 桜帆の指摘に前友はわざとらしく体を震わせる。


「おっかね。俺たちゃずっと監視されてたってこと? どこに行った、何を買った、誰と会った。みんなお見通しってワケ?」


 大いに嘆くが、


「そういうわけでもない。ただ音がするだけ」


「音……?」


「ものすっごく小さい虫の羽音みたいな感じかな。ソナーみたいに使えば現在位置の把握とか、それこそ盗聴もできちゃうだろうけど……」


 盗聴というおっかない言葉におののく琉生と前友だったが、


「音が微弱すぎて、ワンちゃんでも聞き取れない。よほど特殊な才能がないと使いこなせないと思う。例えばシルヴィの稲葉フレンとか、仁内大介とか……」


 そして桜帆はちらりと自分の姉を見た。

 前友がいる以上それ以上言及しなかったが、琉生はしっかりそれを確認した。


「どっちにしろ、あまり深刻に考えなくて良いと思う。この仕掛けはなんというか」

 

 ふさわしい表現を探す桜帆。


「悪意はない。そうでしょ?」


 黒魔子がかわりに答える。


「そういうこと。で、お兄ちゃん、奴隷さんのタブレットを治してどうするの?」


「どうするというか、今やれることをちゃんとやっておくだけ、って感じかな」


 琉生は今の自分たちの状況を冷静に分析している。


 恐らく杉村光と仲間達はかなりのポイントを生徒たちから吸収したに違いない。


 それでも、彼女たちが接触できていない生徒も相当数いると琉生は考えている。


「こういうイベントにまるで関心がない人がいるんだよ。お祭りを前にすると逆に冷めちゃって、まっすぐ家に帰るクールな人達」


「ちょっと前のお姉ちゃんみたいな人だね」


「……」

 桜帆の指摘に黒魔子は不服そうな表情を浮かべるが、違うとも言い切れず、ただ黙るしかない。


「一文字さんは、明日、その人たちと会って、持ってるポイントを分けて貰いたいって交渉をして欲しいんだ」


「私が……?」


 基本ハイパー人見知りの彼女にとってこれ以上ない難関だ。

 

「私は……」


 いくら琉生の頼みといえど、こればかりは怖じ気づく。

 いっそ大神完二と殴り合うくらいの方が気が楽にすら思える。


「大丈夫、役に立ちそうな人がここにいるから」


 無言でそばを食い続ける前友の肩に手を置く琉生。


「無党派層の支持を手に入れろってことだな。任せろ」


 親指を立てて黒魔子にアピールする前友。

 口からそばが滝のように出てる状態なので、まるで絵にならず、不安しかないが。


「……わかった」

 

 ここは琉生に従うしかない。

 まあ、いないよりいる方が少しはマシ程度に考える黒魔子である。


 それに黒魔子は気付いていた。


 琉生はやる気だ。

 勝つために、頭をフル回転させている。


 日頃はのんびり屋の彼だけど、一度スイッチが入ると恐ろしいほどの集中力を見せることを黒魔子は本人や両親よりわかっている。


 その時の真剣な眼差しが格好よく、たまらないのである。(あくまで黒魔子にはそう見える。というだけの話です)

 

 しかもだ。

 琉生は、私のために、頑張っている。

 琉生は、私のために、必死で考えている。


 そう考えるとニヤニヤが止まらなくなる。


 素敵、素敵よ、琉生くん。

 神々しいばかりに輝いている。後光が差している。

 そんなうっとりした目で琉生を見つめる、バカ……、いや、恋する黒魔子である。


「で、肝心なのは仁内校長だな……」


 最終日の大トリは俺だと生徒に宣言した校長。

 いったい何を仕掛けてくるかは予想できないが……、


「桜帆ちゃんが言うように、あの人のことだから、たぶん最終決戦だとか言って、俺に勝ったら一億ポイントとかふざけたことぬかす気がするんだよね」


「むしろそれを言いたいからやってる感じすらあるな」


「だったら、本当に一億、貰っちゃえばいい」


 それさえできればもう細かい勘定など必要ない。


 相手はきっとこちらが不可能と思うくらいのミッションをぶつけてくるだろうが、仁内の企みをこちらが上回れば良いのだ。


「ねえ桜帆ちゃん。大神さんとの勝負で仁内さんがやったあのズルイやり方。あれを俺たちで出来ないかな……」


 その問いかけに桜帆は一瞬驚いたようだが、すぐさま悪い顔になった。


「やってみせましょう……」

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