第27話 あつまれ、あつまれ

 学校を無断欠席し、その行方を家族も知らないという橋呉生徒二名の捜索を風間あやめから依頼された黒魔子!


 クラス替え選手権においてライバルとなった杉村光をねじ伏せ、叩き潰し、再起不能にするため、黒魔子は燃えている!


 依頼を受けるや黒魔子は琉生を連れ、学校の屋上に向かった。


「無断欠席してるのは、昨日会った桐山さんと、相田李衣菜あいだりいなさんだって」


 風間先生からもらったメモには欠席者二名の名前と、顔写真が印刷されていた。

 ふたりはともにA組で、写真の中では豪快に笑っている。


 桐山美羽については勝ち気で頭が良さそうという印象しかないし、相田さんに至っては黒魔子の過激なファンという以上のことは知らない。

 ここまで手がかりが少ないと名探偵ホームズですらふたりを見つけ出すのは難しいと思うが、真子さんは風間あやめのメモをひたすらガン見する。


「ちょっとだけ、集中するね」


 真子さんは琉生にそう告げた。


「あのふたりの声を思い出して、探してみる」


「こえ……?」


 真子さんがいったい何をしようとしているのか琉生には当然わからない。

 

 しかし彼女はこの状況を難しいミッションだと考えていないようだ。

 その落ち着いた表情を見ればわかる。 


 桜帆が作ったという専用のノイズキャンセリングイヤホンを装着すると、両目を閉じ、深呼吸をしながら、腕組みをして立ち続ける。


 これは絶対に邪魔しちゃいけない案件だなと察した琉生は、真子さんの気の済むまでさせようと、静かに離れていく。


 その時、背後から声がした。


「あんたら、何やってんだ?」


「あれ……?」


 あの前友司が屋上で寝転がっている。

 なんでこんな所にいるんだと驚く琉生であるが、それは司にとっても同じ。


「ふたりでヨガでもすんのか?」


 確かに今の真子さんはそんな雰囲気を醸し出しているが……。


「俺もよく分かんないけど、大事なことみたいで……」


「そうか、大事なんだな」


 司は頷くと、


「じゃあ存分にやってくれ、俺は俺で忙しいんだ」


 前友はコンクリートの床にノートを開き、鉛筆でせっせと何か書いている。


「あ……、もしかして制服のデザイン……?」


 朝っぱらから橋呉高校の制服をディスりまくった仁内は、デザインを生徒で考えても良いと言っていた。


「あの校長にやる気スイッチを押されちまった」


 授業をサボって制服のデザインを考えるというのはやる気があるのかなんなのか微妙であるが、

 

「そうか、デザイナー志望なんだ……」


「ああ。行ければそっちに行きたいとは思ってる。それにチャンスだろ。あの校長、業界に太いコネがあるはずだからな」


 カリカリサッサと心地よい音を立てながら、手早くペンを動かす。

 綺麗な線だ。


「お前も結構詳しそうだから、アート関係に就職希望か?」


「いや。俺は趣味を仕事にしたくない感じかな……」


「なるほど、それもわかる」


 前友はニヤリと笑い、しばらく無言が続いた。

 

 瞑想を続ける真子さん、ペンを動かし続ける前友。


 その間に立ち、両方を見守る琉生。

 

 真子さんは変わらず美しく、前友のこなれた線を見続けるのも一種の快感だ。

 この静かな空気は嫌いではない。


 ほんの数分ではあるが、琉生はこの空間を楽しんだ。

 そして真子さんはあっという間に目的を達成する。

 

「琉生くん、居場所がわかった」


 イヤホンを外して手早くケースに戻す真子さん。


「ええっ、ほんとにわかったの?!」


 写真見て、イヤホン付けて、目を閉じてるだけだったのに……?


「声が聞こえた。桐山さん、泣いてる」


「泣いてるって……」


 あの勝ち気な表情から全く想像が付かない。

 それでも真子さんはいつになく真剣な面持ちで琉生の手を取った。


「行こう」


「わ、わかった」


 とにかく見つかったのなら行くべきだ。

 それに真子さんの表情を見る限り、急いだ方がいい気もする。


 しかし、


「よし、なんだかよくわからんが急ごう」

 

 なぜか前友司まで勝手に付いてくるようだ。


「お前らと一緒にいたって言えば、欠席扱いにならないかもしれんからな!」


 豪快に笑う前友であった。

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