第15話 急転直下の恋模様?
黒魔子がファンに囲まれる中、通っている学校が超人集団シルヴィに買収されるという嘘みたいな報道に本郷琉生は衝撃を受けている。
マオーバの残党が山梨で暴れたことを重く受け止めた県側が、県民と未来ある子供たちを守るための特別措置として、議会一致の決議の後、シルヴィに協力を求めた。
というのが県の主張であるが、実際はシルヴィが大金を注ぎ込んで強引に話を持ってったという見方が強いようだ。
既に専門家や政治家が、学生を傭兵にするために洗脳するだの、海外の紛争に連れ出すだのネガティブな意見を呟いているようだし、その件で県庁には電話も殺到しているらしい。
黒魔子に群がるファンはその情報をまだ知らないはずだが、知ったらさすがの彼女らもテンションが下がるに違いない。
琉生も少なからず自分の将来に不安を抱くが、それ以上に真子さんの存在が気にかかっている。
もしかしたら、先日の事件を鎮圧した黒ずくめの正体が彼女だとシルヴィは気付いたのではないか。
真子の妹、桜帆が、姉のことを誰にも言わないでと訴えたことを思い出す。
正体が明るみに出ればバラバラにされるかもしれない。
桜帆はそう言っていたのだ……。
たまらず、琉生は桜帆に電話をかけた。
「うん、あの人たち、もうわかってると思うよ」
意外にも桜帆は落ち着いている。
「考えてみればバレバレだよね。あの事件で頑張ったお兄ちゃんの家に転がり込んだ姉妹の一人が、あの黒ずくめと背丈がドンピシャなわけだし」
言われてみれば確かにその通りなのだが、
「一文字さんをどうしたいんだろう? まさか本当にバラバラにするとか……?」
「あ、お兄ちゃん、私が言ったことで凄く慌ててる?」
「そりゃそうだよ。一文字さんのことは絶対秘密にしておかないと」
「あ~、ごめん、シルヴィなら大丈夫だよ。あの人たちはそんなことしない。あの人たちならお姉ちゃんの辛さ、わかってくれると思う。私が心配してるのはそれ以外の人にバレちゃうこと。それこそマオーバの残党とか、よその国の科学者とか」
「あ、そうなの……」
拍子抜けというか、一安心というか。
「シルヴィには風間あやめって人がいるからさ。あの人がいる間はシルヴィはまともだよ。いっそお姉ちゃんがシルヴィに入ってくれる方が安心する」
「あ」
ようやく琉生は気付いた。
「もしかして一文字さんを仲間に入れようとして学校を買い取ったわけ?」
「あの人たちならやるだろうね」
どうやら桜帆はシルヴィを信頼しているようだ。
そういえばあの事件の時だって陰ながらシルヴィをサポートする形だったし。
「だからさ、お兄ちゃん。成り行き任せで良いと思うよ。なんなら稲葉フレンの直筆サインとか貰ってくれたらフリマサイトで高く売れるんだけどな~」
「はは……。考えとくよ」
しょうもない形で電話は終わり、琉生は安堵の溜息をついた。
桜帆がああ言うのだから安心して良いのだろう。
相変わらずファンの自撮りにつきあわされている作り笑いの真子さんが可愛らしく、見ているだけでざわざわしていた心も穏やかになる。
とはいえ、いつまでもここにいたらさすがに遅刻。
そろそろ行こうと声をかけようとしたとき、突然誰かに背中を触られた。
「おはよう、本郷ちゃん」
聞き覚えのある声。
つい最近この声に随分怒られた気がする。
「あ、この前の!」
シルヴィの杉村光じゃないか。
あの事件当日、機械触手に捕まって人質にされたせいで彼女のプランを台無しにしてしまい、なんで人質になってんだと怒られた。
あの時はスタイルの良い美人さんだなと感じていたが、間近で見るとふわふわした金髪のおかげで外国のお姫様のように見えた。
ところで、なんで橋呉高校の制服を着ているのだろう。
「ニュースを見たかな?」
「はい。ぶっ倒れそうなくらい驚いてます」
「ふふ」
機嫌よさげに笑う光。
「私、この学校に転校することにしたから。今日からよろしく」
「転校って、そんな必要……」
確かこの人、飛び級しまくって大学も卒業済みってくらいの才女と聞いたが、
「ああ……」
琉生は納得した。
「狙いは彼女ですか?」
一文字真子に視線を投げる琉生。
そのあからさまな態度に光は大いに驚いた様子。
「あの黒づくめが誰なのか、もう認めちゃうんだ」
つまらなそうな顔をする光。
優れた刑事のようにビシビシ相手を追い詰めたかったようだが、あっさり自白されて調子が狂った様子。
一方、売られたケンカは買わないという用心深さを見せる琉生は。
「どうせもう気付いてるんでしょ?」
と意地悪く言う。
「まあね」
あっさり呟く杉村であるが、目は笑っていない。
「ねえ本郷ちゃん、……この私がさ、それだけのことでさ、こぉんな田舎に来ると思うかな?」
ゆっくり琉生に接近する。
それだけでなく、まるで猫を愛でるように琉生のあごに触れてきた。
「ちょ、ちょっと」
「確かに、あの子がどこまでやれるかいろいろ調査するのが私の役目。でもそれはあくまでもお仕事。私の興味はどっちかって言えば、君なんだよね」
杉村光は、自分の魅力とその扱い方を十二分に理解している子である。
そのきめ細やかな肌の質まで確認できるくらい距離が縮まり、光の髪から焼きたてのケーキみたいな甘い匂いまで感じる。
気付いたときにはもう、光の唇は琉生の唇をしっかりとらえていた。
ほんの一瞬のことではあったけれど、琉生は彼女の柔らかい唇を確かに感じ、金縛りにあったかのように動けない。
「外国じゃこんなのしょっちゅうだけどね」
光は勝ち誇ったように微笑みながら、琉生の肩を叩き、学校の方へ一人歩いて行く。
そして琉生は焦る。
大いに焦る。
足が震えるほど焦る。
見られたか?
見られてないよな。
見てるはずない。
だって一瞬だったから。
そう、電光石火の一撃だったから。
きっと真子さんは気付いてない。
そう、気付いてないはず……!
神に祈りながら彼女の方をおそるおそる見る。
「……」
直立不動でこちらを見る真子さんを見て琉生は察した。
やっぱり見てた……!
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