第12話 黒豹の獣人

 やるか?


 今ここで、カサンドラも燃やしてしまうか?


 俺の【神の衣】で不意打ちに成功すれば、カサンドラとて何もできまい。


 いや。


 しかし、カサンドラがどんなスキルを隠し持っているのか、分かったものではない。不確定要素が多い中、最強の異端審問官に挑むのは自殺行為だ。


 何より、カサンドラの部下も多くいる。


 一対一とはいかないか。


 俺は逸る気持ちを抑え、どうにか平静を保った。


「レギアさんの仇!」


 同胞の一人がカサンドラに斬りかかる。

 違う。


 レギアを燃やしたのは俺だ。俺なんだ。命を無駄にしないでくれ。


 そんなことが言えるはずもなく、俺は静観を決め込んだ。


 カサンドラは斬撃を容易く避け、右手の鋭利な爪で同胞の首を切り裂いた。


 鮮血が迸る。


「全く。汚らわしい。薄汚い異端の血で法衣が汚れてしまいました」


 カサンドラは法衣を脱ぎ捨てる。


 露になったのは、黒い肌。


 肌の黒い人種は他の大陸にいるが、カサンドラのそれはさらに深い漆黒。


 噂は本当だったか。


 カサンドラ・ステファノプロスは、黒豹の獣人だ。


「あらかた片付いたようですね。エレノアどのの遺体を持ち帰りましょう」


「そうだな。私はさっさとここを離れたい。帰ってもいいかな?」


「これは失礼。司教どのに血腥い現場を見せてしまいましたな。後のことは我々で対処しますゆえ、どうぞお帰りになってください」


「あぁ、助かる」


 俺はできるだけ無感情にそう返した。


 帰路に着き、適当な宿を取ると、部屋で声を殺して泣いた。

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