第28話 決着
だが、敵の動きに慣れてきたのはこちらも同じだ。
「インベントリクローズド迅雷剣レヴィン&コール裁光魔剣ジャスティス!」
インベントリにレヴィンを瞬間収納。そして同じく瞬時にレヴィンと入れ替わりで俺の右手に現れたのは金色の柄に白磁の剣身を持つ剣。裁光魔剣ジャスティス。聖剣程ではないが強力な聖属性の剣だ。
「ふはは! 貴様、一体幾つの魔剣を持っている! もうそれで10本目。しかも超一級品ばかりではないか!」
「剣集めは俺の趣味なんだよ……実益を兼ねたなぁ!」
ジャスティスとゼノンロードがぶつかり合う。そして、ジャスティスがゼノンロードを弾き飛ばした。
「な……!?」
「このパターンでは俺は剣戟を受け流して有利な間合いへと移動する。だから敢えて力を抜いた軽い一撃を放ち俺の重心を崩して本命の一撃を放とう――お前は今そう思ったな。剣の軌道が温かったぜ」
「馬鹿な! 失敗すれば受け流しに失敗し致命傷を負っていた! この命懸けの戦いでなんと大胆な判断をする男なのだ……!」
「隙だらけだ。ジャスティス。【原初の剣】」
ジャスティスの本質は魔なるものへの怒り。魔なるものを全て滅ぼす光――いや、白き闇が剣身から迸る。そしてその白き闇を剣もろとも俺は黒騎士に叩きつけた。
直撃。黒騎士が魔を滅ぼす白き闇に包まれる。鎧の隙間から中へと侵入し、本体へと届く。黒騎士が悲鳴を挙げた。
「やったか!?」
思わず、俺はそう叫んだ。
「――ぬぅん!」
「なっ!?」
横なぎに猛烈な速度で振るわれたゼノンロードを俺はジャスティスで辛うじて防ぐ。ジャスティスがパリン、とガラス片のように粉々に割れて、白い鱗粉を中空に撒き散らした。
ジャスティスは特別耐久力の高い剣ではない。それでも並の剣よりは余程固いが、魔王が使うとされる王魔剣ゼノンロードの一撃を流さずに受けて耐え切れるほどではなかった。
「ふっ! はぁっ!」
「くっ! すまないジャスティス……!」
黒騎士の斬撃を体を捻って交わし、バックステップで後退。当然黒騎士は追いかけてくるが、僅かに出来た猶予の間に俺は新たな剣をインベントリから取出し終えていた。
「要塞剣ガルウィング! お前を使う日が来るとはな」
「むっ! 固、い!?」
要塞剣ガルウィング。その本質は盾。剣型の盾を制作目標として作られたこの剣は文字通り桁違いの固さを誇る。頑強さならゼノンロードにも勝るとも劣らないだろう。ちなみに切れ味は悪いので通常の剣としての使い勝手は最悪だ。何を考えてこのような珍品を作ったのか制作者の正気を疑うが、現に今役立っているのだから結果的に制作理念は正しかったのだろう。
「その剣……なる程、そういう作りか。面白い! 最強の剣と最強の盾という訳だ! ならば全身全霊の一撃でこのゼノンロードの最強を証明してみせよう! ゼノンロード――終焉の一撃(ジ・エンド・オブ・ロード)!」
「ガルウィング! 【原初の剣】!」
ガルウィングの原初の剣。それは盾の本質の具象化。物理的な攻撃は勿論、魔法攻撃をも受け止め、のみならず相手の攻撃をそのまま弾き返す。ただ黙って打たれるのみが盾ならず。受け流し、時には弾き返すのが盾。その盾としての本質をガルウィングはしっかりと受け継いでいる。
破壊的な黒い光を纏ったゼノンロードと重厚な銀の輝きを放つガルウィングが正面から激突する。拮抗。しかし、ゼノンロードの黒い光が段々と矛先を変えてゆき、そしてとうとう完全に黒騎士へと牙を向く。
「なんだと!? がぁあああああ!」
「ぐっ!? 抑え切れ――ぐはっ!」
だが完全に弾き返すことは出来なかった。弾き返しきれなかった攻撃の余波を受けて俺は吹っ飛び、壁に背を打ち付けた。肋骨に鈍い痛み。おそらく罅が入ったのだろう。俺はガルウィングを杖にして立ち上がる。その際、剣から銀の欠片が床に落ちたのを見てガルウィングの剣身が罅割れていることに気付く。これではもうゼノンロードとの打ち合いには耐えれない。俺はガルウィングをインベントリに収納し魔剣アベルを取り出す。何だかんだいってもやはりこいつが総合的にはナンバーワンだ。
だが――この戦いの切り札はこいつではない。中々切り時が訪れない。何とかして好きを作らないと……。
黒騎士の方に視線をやる。奴もまた立ち上がるところだった。流石に無傷とはいかなかったらしく、鎧は所々が罅割れ、肩で息をしている。俺はその様子に疑問を抱く。
(威力の違いがあるとはいえ、聖属性の攻撃の直撃を受けたときよりも魔属性の攻撃を鎧越しに受けた今のほうがダメージが通っている。一体、こいつの正体は何なんだ。ただの魔族じゃなさそうだな……)
「くっ! 聞いたぞ。鎧が無ければ死んでいた。ああ……惜しい。そして欲しい。ここで殺すのはあまりにも勿体無すぎる。なぁ、お前も不死身になって私と永遠に戦い続けようではないか! きっと最高の日々になる……!」
「お前は振られたんだ。諦めな。しつこい男は嫌われるぜ」
「男? 私は女だぞ」
「なに?」
なに?
「そんなことはどうでもいい。早く続きを始めるぞ」
「ん? あ、あぁ……」
女? いや、斬るのを躊躇ったりしないが女? そうか……まぁ、どうでもいいことか。
男だろうが女だろうが、殺すだけだ。
(しかし……そろそろ手が尽きてきたな。とっておきのが一つだけあるが、これは絶対に外す訳にはいかない。今となっちゃ俺の唯一の勝機だ。だが、隙がない。一瞬でいい。まるで手に接着剤で貼り付けてあるみたいに手から離さないあのゼノンロードを手放してくれれば――)
「考え事をしている暇があるのか? こないならこっちからいくぞ」
「ちっ! 考える暇もねぇなぁ!」
もとより余計なことを考えながら打ち合える相手ではない。考える暇がない。それに打てる手もない。どうすれば、どうすれば――
「――そこだ!」
「!? しまっ――」
剣身を強烈に打たれ、魔剣アベルが俺の手から離れる。まずいこの距離でこの隙は間違いなく致命傷。剣の召喚は間に合わない。何か、手はないのか。何か、手は――
「楽しかったがこれで終わりだ――マルス、貴様の名は我が生涯最大の好敵手として我が墓石に刻んでやろう。光栄に思うがいい」
「な――い――」
黒騎士の剣が頭上に迫る。やけにのろのろとした動きだが、体はピクリとも動かせない。
ああ、これが走馬灯かと生を諦めた俺の脳内に、よく聞き慣れた声が届く。
(あなたは、私が守護る――!)
「シエス、タ……?」
剣が、手の中に独りでに召喚される。それと同時、黒騎士の一撃が俺の脳天に直撃した――。
「――は?」
黒騎士がこの戦いの中で初めて聞く間抜けな声を出した。粉々に砕け散った手の中の剣片を捨て、隙だらけの獲物を見つけた極限まで飢えた獣のように俺は黒騎士の持つゼノンロードへと飛びかかる。
「な!? なにを――」
「アダムゥ――スティイイイイイイイイル!」
始祖の聖剣遣いアダム。彼は神話の時代の魔物達に対して、圧倒的に弱者だった。だから、アダムは産み出した。圧倒的強者に抗う技の数々を。俺がアダムスティールと名付けたこの技もその中の一つ。相手の武器越しに筋肉に触れ特殊な触り方により強制的に筋肉を弛緩させ獲物を奪う技だ。がっちりとゼノンロードをホールドしていた黒騎士の手が一瞬だけ赤子のように無防備になる。俺はその一瞬を逃さず――ゼノンロードを黒騎士から奪い取った。
「なっ――か、返すのだ! その剣は私が魔王様より賜りし――」
「EXスキル剣の記憶、発動――」
剣が経験してきた、剣の人生とでも言うべき記憶が一瞬で頭と魂に刻まれる。俺は一瞬でゼノンロードの全てを理解した。その本質までも――。
俺は剣を振りかぶる。ゼノンロードの剣身に黒い光が集っていく。その光は黒騎士が奥義【終焉の剣】を発動したときよりも尚大きく、眩く――そして、黒かった。
「ぐ、ぐぅううううう! こ、この強大な力、まさか私はゼノンロードを使いこなせていなかったのか!? そんな、そんな馬鹿な――だが、何と見事な輝きか」
「――王魔剣ゼノンロード、【原初の剣】」
剣を振り下ろす。闇より尚深き深淵の黒が黒騎士を、世界を、呑み込んだ――。
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