第24話 お前たち、野菜を食べろ


「まずはお前たち、野菜を食べろ……!」


 俺はグレムリンの連中を、健康にすることをはじめた。

 そのために、まずは野菜を食わせよう。

 グレムリンの連中は、長年薬漬けにされていたせいで、栄養状態がかなり悪い。

 みんな頬が痩せこけて、大変なことになっている。

 健康な生活は、まず健康な食事からだ。


 このままでは、こいつらは薬なしではろくな労働力にならないだろうからな。

 まずは俺のために、健康になってもらわねば困る。

 フリンク村から、大量の野菜を輸入した。


「それから、お前たちはこれから毎日たっぷり9時間睡眠だ! だから労働も、最低限の8時間でいい」


 薬がまだ完全に抜けてないやつもいるからな。

 まずは普通の労働時間からだ。

 いくら凍てつく波動でデバフをとりはらったといっても、肉体がまだまだついてこない。

 まずは薬から立ち直らせるために、健康な食事と、規則正しい生活。

 それから適度な運動だ。


 グレムリンには、幸い、大量の金があった。

 おそらくは薬物を売って手に入れたものだろう。

 薬物を売って利益を得ていた幹部連中は、みな尋問の末、処刑した。

 それから、薬物を作る工場や、材料も破棄した。

 薬物でドーピングは一時的には利益がでるかもしれないが、不健康そのものだからな。

 過労死で死んだ俺にとって、それはどうしても許せないことだった。

 薬物でドーピングしてまで働かせるのなんて、間違っている。


「お前たちグレムリンの連中が、薬物中毒から立ち直り、まっとうに働けるまで、俺は協力するからな……!」


 俺は大幅な予算をグレムリンに投入した。

 バフをしてくれるエルフも多めに導入した。

 グレムリンでの仕事量はかなり過酷なもので、今まで薬物ドーピングのおかげで成り立っていたものも多い。

 だからそれをカバーするために、エルフたちを呼んだのだ。

 ドーピングの代わりに、魔法でバフをかけまくる。


 そうこうしているうちに、数か月でグレムリンの連中はだいぶ血色もよくなり立ち直っていった。

 俺も安心して、次の街を征服しにいけるというものだ。

 グレムリンは、あとはエニグに任せておこう。



 ◇


 

【サイド:町民】


 俺の名はサイモン。

 グレムリンという街で暮らす、さえない男だ。

 グレムリンという街は、麻薬カルテルに牛耳られている。

 ここは、酷い町だ。


 俺たち町民は、みんな薬物中毒の集まりだった。

 みんな、薬物を求めて、最終的にこの街に集まる。

 この街にいれば、薬物をもらえるからな。


 その代わり、ドーピング剤なども盛られていて、俺たちは無理やり肉体を強化させられ、働かせられる。

 正直、身体も心もボロボロだった。

 だが、それでも薬物が欲しかった。


 『イルミネーション』と呼ばれる薬物がある。

 俺たちが求めているのは、だいたいそれだ。

 それをキメると、目の前がぱぁっと明るくなる。

 そして、なにも考えないでいいような、快楽に包まれるんだ。

 依存性が高く、なくなると、すぐに欲しくなる。


 グレムリンにいれば、イルミネーションを一日に一回、恵んでもらえた。

 その代わり、『タックル』という強烈なドーピング剤を入れられる。

 それによって、俺たちは眠たくても眠れないようになる。

 そして、身体中に元気がみなぎり、いくらでも働けるようになるのだ。

 ただし、もちろん副作用が酷い。

 ひどい下痢に、めまい。それから虫歯などなど。

 くまもできるし、肌もあれる。


 もちろん寿命だって縮まっているだろう。

 だけど、俺たちはイルミネーションほしさに、逆らうこともできなかった。


 そんなある日だった。

 この街に、魔王軍が攻めこんできた。

 魔王軍は、俺たちを征服すると、『凍てつく波動』というスキルを放った。

 その瞬間だった。


 俺たちは、目が覚めるような思いをした。

 今までイルミネーションに依存しきっていた身体が、急に楽になったのだ。

 あれだけ欲しくてたまらなかったイルミネーションを、欲しいとも思わなくなった。

 正気にもどったのだ。


 それから、タックルの副作用でボロボロになった体や精神も、もとに戻った。

 俺は、ひどく後悔した。

 イルミネーションほしさに、こんな街にまで来てしまったことに。

 これまでの自分の愚かさに、ひどく嫌悪した。


 それと同時に、魔王軍に感謝したね。

 それはみんな、同じだったと思う。

 このくそったれな街を征服し、俺たちの目を覚ましてくれたんだ。

 魔王様には感謝しかない。


 それから、魔王様はすばらしいお方だった。

 ただスキルで俺たちのデバフを解除しただけじゃなく、そのあとまで面倒をみてくださったのだ。


「まずはお前たち、野菜を食べろ……!」


 俺たちの栄養状態を気にして、栄養満点のご飯を与えてくださった。

 

「それから、お前たちはこれから毎日たっぷり9時間睡眠だ! だから労働も、最低限の8時間でいい」


 信じられない言葉だった。

 今まで寝ることすら薬で制限されていた俺たちだ。

 ぐっすりと9時間も寝られるなんて、嘘のような生活だ。

 死ぬまで働かせ続けられていたのに、労働も8時間だけでいいという。

 労働が終われば、ゆっくり休めといってくださった。

 俺には魔王が神にも見えた。


「お前たちグレムリンの連中が、薬物中毒から立ち直り、まっとうに働けるまで、俺は協力するからな……!」


 力強いお言葉だった。俺は涙を流していた。

 ああ、魔王様はすばらしい。

 魔王様は俺たちを、この街を、解放してくださったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔王様の悪行、善行?いや、どっち!?人間どもの領主がブラックすぎるせいで、占領した相手から感謝されまくるんだが?前世は過労死したので、魔王軍はホワイト経営で生き抜きます。 月ノみんと@成長革命2巻発売 @MintoTsukino

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ