第23話 グレムリンの街


 次に俺たちが攻め入る街は、グレムリンという街だ。

 グレムリンはものすごく発展していて、先進的な街だときいている。

 そして、そこの軍隊もかなり強いらしい。

 なにやら特別な力を持っているという。

 

 諜報部によると、まるで人間ばなれした身体能力を駆使するらしい。

 ということは、おそらくはバフ魔法をつかっているのだろう。

 ということで、俺は今回、ドラゴニュートのエニグを将軍にすえた。

 エニグは、ユニークスキル「凍てつく波動」を使う。

 このスキルを使うと、その場にいる広範囲に、バフデバフを解除する効果があるのだ。


 エニグのスキルさえあれば、どんなにバフを積んだ敵であろうと、生身同然だ。

 俺たちはエニグを筆頭に、グレムリンに攻め込んだ。

 グレムリンの敵兵は、かなり強かった。

 みな、狂ったように、血走った目で、こちらに果敢に向かってくる。

 まるで死をも恐れていないかのように、猪突猛進だ。


 しかも筋肉量も、通常の人間を凌駕している。

 いったいどういう鍛え方をすればこうなるのだろうか。


「うがああああああああ!!!!」


 死を恐れずに自殺特攻してくる敵兵は、まるでゾンビのようだった。

 耐久も異常に優れている。

 血を流していても、まるで痛みを感じていないようだった。

 死をおそれない人間が、一番怖いからな。


 だが、そんなものはもはや無意味だ。


「エニグ、やれ」

「はい……! 魔王様」


 エニグが凍てつく波動を発動させる。


 ――キュイイイイイン!!!!


 すると、まるで薬がきれたかのように、敵兵は動きを止めた。

 傷を負っていたものは、急に痛み出したのか、その場にうずくまる。

 ふん、おそらく痛覚無効のデバフが切れたのだろう。


 こうなれば、こちらの勝ちだ。

 それにしても、相手にはかなり凄腕の付与術師がいるみたいだな。

 ここまでの広範囲に、大勢にこれだけ持続したバフをかけ続けられるなんて……。

 正直、魔王軍にもここまでできるやつはハイエルフのグレンダーくらいなもんだ。


 バフが切れると、相手の兵士たちはまるで別人かのように弱くなった。

 こうなったら、もうこちらのものだ。

 すぐに魔王軍はグレムリンの中枢にまで達した。

 そして、敵将をうちとった。


「やりました、魔王さま!」

「よくやった、エニグ」


 

 ◇


 

 さて、では街の連中を広場に集めようか。

 街の住民を広場に集め、俺がいろいろこれからのことについて説明を始める。

 しかし、住民たちはろくに俺の話をきいていない。


 みな、ふらふらとしているし、どこかうつろだ。

 まるで、催眠状態にあるかのようだった。

 ハイになってるおかしなやつもいれば、ぐったりとしているやつもいた。

 まさか、こいつら……薬物中毒かなにかか……?


 俺は、エニグに命令した。


「おいエニグ、とりあえず街の全員に凍てつく波動だ」

「わかりました」


 ――キュイイイイイン。


 すると、街のみんなはまるで夢から覚めたかのように、正気にもどった。


「は……!? こ、ここは……!?」

「俺たちはいったい今までなにをしてたんだ……」


 みな、顔色がよくなり、正気に戻ったようだ。

 凍てつく波動は、あらゆるバフデバフを解除するものだ。

 それは、薬物によるドーピングなども同じだ。


 また、薬物中毒などのデバフも解除する。

 よって、彼らは完全なしらふに戻ったわけだ。


 あとで調べてわかったことだが、この街のいたるところで、違法な薬物が大量にみつかった。

 それから、それらを生産している工場も……。

 

「いったいこの街で、何があったんだ……?」

 

 俺は街の一人にきく。


「実は……この街のみんなは、町長によって、薬づけにされていたのです……」

「えぇ…………」

「依存性の高い薬で無理やり依存させられ、薬を渡すかわりにと、なんでもいうことをきかせられました……」

「やばいな……」

「それから、筋肉に違法な薬物を注射され、むりやり厳しい肉体労働をさせられていました……」

「えぇ……ドン引きだ……」


 どうやらこの街も、例にもれず最悪なやつが治めていたらしい。

 なるほど、敵兵があれだけ強かったのは、バフ魔法などではなく、薬によるドーピングだったのか。

 死をもおそれないようにみえたのも、薬でハイになってただけか。


「魔王様、あなたのおかげで、俺たち目が覚めました……! もう薬はやりません。あなたのために働きます……!」

「ああ、そうしてくれ……」


 薬は全部焼いてしまうかな……。

 これ、かなりやばい街だな……。

 

 街の幹部を捕まえて、適当に尋問してみたところ……。

 どうやらこの街は、もともと麻薬カルテルだったのが、成長して町長を名乗るようになったらしい。

 そして、街の連中を薬漬けにして、違法な薬物を大量生産していたのだとか。

 当然、その違法な薬は他国に売って、儲けていたようだ。

 うーん、けしからんなぁ……。


 さすがに薬でドーピングは、寿命を縮めてしまうし、そんなのは非効率的だ。

 もっと健康な食事をとって、ちゃんと働いたほうが、長期的にいいに決まっている。

 よし、俺がこの街の連中を、まっとうになるまで面倒みてやる……!


 

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